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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
二章

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異世界からの来訪者達 その15

──時間は昼から夕方までの間。運動場での騒動が終わった頃にまで(さかのぼ)る。

 

 教見津太郎きょうみ しんたろうの住んでいる地方都市から大分離れた所には自然溢れるキャンプ場が存在する。

 

 見渡す限り緑色の木々で埋め尽くされた山。

 管理人が掃除や草刈りをしているおかげで綺麗に整っており非常に広い芝生。

 辺りには車が通れるように整備された道路や何十台も止めれるような大きな駐車場。

 優雅な気持ちで宿泊できそうなログハウス等々、家族や友人達と思い出作りをするにはぴったりだろう。


 そのキャンプ場の全貌を確認できる誰も手を付け加えていない山がすぐ近くにある。

 放置が原因で道を塞いでしまうほど大量にあるへし折れた枯れ木。

 足元が一切見えないほどに好き放題に生えている雑草。

 視界が悪く雨や野生動物のせいで地面が削れ、まともに歩くのは困難な荒れ果てた道。

 等々、興味本位でも近付く人はまずいないだろう。


 この野山からキャンプ場の全体を一望できる崖手前──荒れてるとはいえ一応平面を保っていて、周りには樹齢何十年と思われる立派な樹が至る所に植えられている。

 

 崖手前の地面一部が何の前触れもなく急に光り始め、辺り一帯を照らし出す。

 それと同時に数人であれば平気で囲えるほどの大きさの白い円が地べたに映し出され、残像のような現象と共に複数の人間が何もない空間から突然現れた。


(よかった……うまくいった……!)


 辺りを確認し、何とか転移する事が出来て安心しているのは服装を黒一色で統一させている東仙一輝とうせん いっきである。


「しかし先程の場所とは打って変わって随分と自然で満ち溢れている所だなイッキよ。 もしかしてここで野宿するつもりか? 我は慣れてるから別に構わんが他の者は分からんぞ」


 転移して真っ先に反応したのは赤髪のポニーテールで深紅色に染まった鉄の鎧と鉄のドレスを組み合わせた装備をしている女性だった。


「えぇぇぇぇ!? いやだいやだいやだぁぁぁ! あたしこんなところでおやすみなんてできないよぉ! おにいちゃん、いつもの使おうよっ! いつものっ!」


 赤髪の女性に対し今にも泣きそうな顔で猛反対してるのはツーサイドアップで金髪の見た目も雰囲気も幼さが残る女の子であった。 着ている黄色のワンピースのせいで今にも虫が近寄ってきそうである。


「流石のボクもここで寝泊まりするのはチョット勘弁かなぁ。 なーんかジメジメしてて寝心地最悪そうだしぃ、変な虫とかに刺されるのイヤだもん──あ! せっかくだしここらへんウロチョロしててもいい?」


 頭に手を組んであまりノリ気ではなさそうな顔をしてるのは紫髪のツインテールにチャイナドレスを着た女の子で身体を動かしたいのか単独行動をしようとしていた。


「……あなたはどうしていつも落ち着きがないのかしら。 年頃の女性ならもっとそれらしく振る舞ってほしいものだわ」


 紫髪の女の子に容赦なく上から目線な物言いを冷たそうな口調でしているのは白銀髪でショートボブの髪型をしていて純白のゴシックロリータ系の服を着た幼い女の子だ。相変わらず一輝にしがみついて離れようとしない。


「えー、逆におチビちゃんは大人しすぎるよぉ。 さっきみたいにギューって甘えて抱きついてくるぐらいが一番可愛らしいのにぃ」


「あっ、あれはっ!……たまたま近くにあなたがいたってだけで……! お兄さまが側にいれば──」


「お二人共、そこまでに致しなさい。 貴方達がいつまでもお話をしているといつまで経っても事が進みません」


 相性が良いような悪いような分からない二人の間に入り込んで母親、もしくは姉のように接して注意をしているのはメイド服を着た青髪ロングの女性であった。

 その落ち着いた声の中にどこか威圧感のようなものが混じっており、それを感じ取った二人は大人しく従うことにする。


 静かになったところで気を取り直し、一輝は五人に向かって話しかける。


「とりあえず、『家』がこっちからでも行けるかどうか試してみるよ。 一度やってみて、それで駄目だったら皆には申し訳ないけど……野宿ってことでいいかな?」


「そんなぁ! ほかのところにシュババッ!ってさっきみたいに移動しようよぉ!」


 金色髪の幼い女の子は本当に嫌なのだろう。年相応のワガママを思いっきりぶつけてくる事に対し、一輝は少々困ったような顔をしてしまう。


「ごめんね、今はまだ自由に移動できないんだ。 これからもっと思い出したり色々見たりすれば沢山の所へ行けるようになるから、ねっ」


 一輝が優しい口調で説明した後、赤髪の女性がフォローに入る。


「これ、あまりイッキを困らせるな──我らの事は気にせずともよいから『家』の方を宜しく頼む」


「分かった」


 そう言うと誰もいない方へ身体の向きを変えた後に右手を前に突き出して目を閉じ、意識を魔法へ集中させる──何も言わず、瞼一つ動かさず、そのまま五秒が経過した後、発動の準備が整った一輝の目と口が開く。


「異次元魔法 ガレクカ・アード!」


 一輝が魔法の名前を発すると何もない筈の空間に、二メートルはある分厚い板状の物が白い光に包まれた状態で現れる。

 周りには光の粒状らしきものが数え切れない程に飛び回っており、その神秘的な光景には目を奪われそうだ。

 

 目的の物が見えたのを確認し、突き出した手を降ろすと同時に纏っていた光は静かに消える。

 そこへ微動だにせず直立していたのは人が建物の中で出入りするのに使う──あの『ドア』だった。


 木製の長方形の見た目をしており、特に装飾系の部品はついておらず着飾ってはいない。

 ドアノブは銀色のレバータイプで何処か全体的にアンティーク系の雰囲気を漂わせている。

 外側にはドアを開け閉めする、またはその場に固定をする為の枠が隙間なく付けられていて、倒れる心配はなさそうだ。

 特に何か魔力的なものを纏っているわけでもなく何処にでもあるドアにしか見えないのだが、一輝の魔法で現れたのだから普通でないのは間違いないだろう。


(ふぅ……なんとか召喚できた)


 一輝は深呼吸をした後、ドアノブに手を伸ばして掴み下に引くとそれに連動した金属音が聞こえてくる。

 一息つかない内にドアを押して開けると──その枠の向こう側に広がっていた光景は荒れ果てた山ではなく、目に視える範囲全てが白に覆われている空間であった。


 上下左右どこを見ても白、白、白、白で統一されている場所で周りには誰もおらず、外からの音は完全に遮断され何も聞こえてこない。そのせいかこの場所には少々不気味さすら感じてしまう。

 だが、何もないといえばそれは嘘になる。なぜなら扉を開けた直線上には赤レンガで造られた二階建ての数人で住んでも快適そうな大きな家があるからだ。

 

 外観はというと屋根は緩やかな斜面のある黒の三角屋根で、煙突も備えているらしく煙を出す為の筒状の部分が少しだけ突き出ている。

 レンガで出来た赤一色の壁には長方形の窓がいくつも取り付けられているが今はカーテンを広げているせいで中は見えない。

 玄関には褐色の木造両開きのドアが設置されており、中に誰かがいれば一輝達を出迎えてきてくれそうだが出てこないということは誰もいないのだろう。


 確かに立派な家ではあるが、この世のどこにも存在しなさそうな空間の中に家がある事自体まずおかしい──しかし今ここに『家』があるのは夢幻(ゆめまぼろし)ではなく真実であり、一輝と青髪の女性以外は無事なのを確認すると木造のドアから中に入っていく。


「わぁ~い! はいれたはいれた~! ありがとうっ! おにいちゃん!」


「我としては久しぶりに野宿でもよかったのだが……」


「ウンウン、やっぱり住み慣れた家を見ると安心するねぇ。 汗かいちゃったしお風呂沸かそうっと♪」


「お兄さま、早く早く」


 四人がそのまま家の中へ入っていくのを見届けている一輝に対して青髪の女性は落ち着いた口調で質問をする。


「イッキ様……やはりこちらの世界では魔力の流れがあちらとは違いますか?」


「アハハ……やっぱり魔法に長けている人には分かっちゃうんだね」


 一輝は頬を人差し指で搔きながら返答し、続いて気付いた事を報告し始める。


「こっちにも魔力そのものが無いわけじゃないけど、非常に薄いというのかな……? とにかく感じにくいせいで魔力の制御がなかなか出来ない状態だよ。 さっきの学校──沢山の人がいた所で魔法使った時も一人にしか出来なくて内心すごく焦っちゃった」


「──やはりそうでしたか。 普段でしたら涼しい顔でどのような魔法も使いこなしてた貴方様がこちらに来てからは使う度に安堵に満ちた顔をしてらしたので、もしやと思ったのですがどうやら正しかったようです」


 ここまで冷静な分析をされていると清々しさすら覚えてしまう。それと同時にそこまで露骨に顔に出てた事を指摘されるのはただただ恥ずかしさを感じる。


「それに消費した魔力の自然回復がこっちでは凄く遅いみたい──さっきから回復するのを待ってるんだけどあんまり増えないんだ」


 この言葉は流石に予想外だったのか冷静さを保ってた表情が少し崩れ、驚きの顔が隠せれない。


「なるほど……これは貴重な御意見、ありがとうございます。 魔力回復薬も数に限度がありますし、魔法を使う頻度は抑えておいた方がよさそうですね」


「うん、僕も気を付けるよ──じゃあもう家に行こうか。 皆を待たせてもいけないし」


 一輝がそう言い残してドアをくぐろうとした時に再び青髪の女性が引き止める。


「お待ちください──他にも何か隠してる事はありませんか? 『転移魔法 シュイド』は己の頭の中で浮かび上がった所にしか行けない筈。 まだ到着して間もないとはいえ、私は転移した場所がどうしてこういう誰も近寄らなさそうな山の中なのか不思議でなりません」


「────隠してないと言ったら嘘に……なるかな」


 この鋭すぎる追及に一輝の中で思い当たる事があるらしく、素直に白状した。


「でもごめん。 これに関してはまだ皆に伝える勇気が持てないんだ……だからまだ言えない」


「……分かりました。 ここまでハッキリとおっしゃられるのでしたらこれ以上は何もお聞き致しません。 ですがイッキ様、一人で何もかも抱え込まないで下さい。 それでは私達が共ににここへ来た意味が無いのです。 心の負担を軽くする為に少しでも頼ってくださると、私もイッキ様のお役に立てて本当に嬉しいのですから」


 謝罪と懇願の両方を伝えると一輝の右手を両手で強く握り、冷静な表情から一転。心からの笑顔を一輝にプレゼントする。

 先程の質問はもしかすると一輝に対してこの想いを言いたいが為にあえて強く攻めただけなのかもしれない。


「うん……そうだね。 一人で何もかも頑張ろうとし過ぎてた所は痛い所を突かれちゃったかな。 さっき聞かれた事も今はまだ無理だけど──いつかは必ず皆に言うから」


 二人がいつまでも話している事に痺れを切らした白銀髪の幼い子が割り込むようにドアの向こう側から呼びかける。


「おーにーいーさーまー! はーやーくー!」


 その声に反応した二人は我に返ると慌てて手を離し、青髪の女性は勢い余ってやってしまった行動に今更ながら照れ始めてしまう。


「えーっと……怒らせたら怖いし行こっか」


「は、はい……」


 話が終わると二人は何事もなかったかのように家の方へと向かい始める──しかし、一輝の脳裏には転移した荒れ果てた山の光景がずっと焼き付いていた。


(まさか本当に戻ってこれるなんて思わなかった)

 

 心臓の鼓動が早くなり、思わず下唇を噛み締める。


(あの時よりずっと荒れ具合が酷いけど……)


 喉元まで胃液が逆流し、冷や汗が止まらない。


(忘れられる訳がない……)


 背中の筋肉が凝り固まってしまい、何かに締め付けられているようだ。


(僕は……あそこで────)


           異世界からの来訪者達 終。

物語自体の進行速度 作品の投稿速度 共に遅くて本当にすみません。

言い訳はみっともないのでしませんが、これからも気長に読んでくれると嬉しいです。

それと何か誤字脱字、分かりにくい所があれば指摘の方よろしくお願いします。

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