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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
七話

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命は花火のように儚い その十九

 次元の裂け目については後で仲間達と話し合う事にして、二人は本来の目的地である祭りの会場へと歩み始めた。 神越高校を過ぎてからは最初こそ住宅街が続いていたものの、五分経過した頃には家ではなく店が立ち並ぶ商店街のような景色へと移り変わっていた。


 そして更に五分後──辺りがすっかり暗くなるのを忘れてしまう程の明るい提灯の輝き、両隣に並ぶ屋台の行列、道路に溢れる老若男女。 ようやくコルトの待ち望んでいた祭り会場へ到着した。


「ここがお祭りの会場……煌びやか且つ賑やかで、皆様とても楽しそうです」


 コルトはこの世界の祭りの光景に胸が躍っているのか、頬が少しだけ和らいでいる。


「うん。 でもこんなに人が沢山いるのは予想外だったかも……」


 目の前の道路が見えない程の人が密集しているのに一輝は唖然とする。 恐らくもう少し空いているのを想像していたのだろう。

 

「とにかく離れないよう気を付けないと……はぐれたら大変なことになりそうだし」


「──でしたら……あの……失礼します……」


 コルトはそう言いつつ一輝と肩と肩、手と手が今にも触れ合いそうになるぐらいに接近する。 この行動が原因なのか、洗髪剤の華やかな香りが漂ってきた。


「えっ、ち、近くない……?」


 多少であれば一輝もそこまで意識しなかった。 しかし密着してしまう程に接近されてしまうと嫌でも意識せざるを得なくなる。 特にこういう特別な空間なら猶更だ。


「こ、こうすれば互いに離れずに済むと思ったのですが……イッキさんは嫌でしょうか……?」


 今しか無いとコルトは勇気を出して近付いたのだろうが、今になって不安も感じていた。


「ぜ、全然嫌ではないよ!? ただちょっと緊張しちゃって……ま、まぁ後ろから人も近付いてきたし、そろそろ行こうか……!」


 変な勘違いをされないよう誤解を解いた後に背後を向くと、まだ距離はあるものの数人がこちらへ向かってきている。 通り道を塞ぐように立ち止まったままだと通行人の邪魔になると思い、二人は祭りの会場の中へと入っていった。


「うっわ、すっごい美人……」


「女優さん? 何かのテレビの撮影でもしてんのか?」


「隣の男の子はもしかして彼氏? いやいやまさか……」


「ビューティフォー……」


 だが周りからの視線を感じる。 少し前までいたハンバーガーショップが比較にならない程の視線が。 唯一の救いは悪意といった劣悪な感情が無い事ぐらいだろうか。


「さっきから見られてるけど大丈夫?」


「こうなるのも覚悟の上です。 それにイッキさんの有り難いお言葉のおかげで以前と比べるとそこまで意識しなくなりました。 なので問題無いかと」


 コルトが強がりや虚勢ではなく本音で言っているのが強く伝わってくる。 克服とまではいかないが、耐性が付いたのは間違いなさそうだ。


「そっか、それなら良かった」


 本人の自信に満ちた態度を見た一輝はもう心配する必要は無いだろうと胸を撫で下ろした。


 それからも周りからの視線は確かにあったが気にする事無く二人は祭りの会場を見て歩き回る。 時にはコルトの方から興味の湧いた屋台へ寄り、一輝がなけなしのお金で焼きそばを買ってあげてたりもした。


(まさかまたこうやってお祭りに行けるだなんて思いもしなかったな……)


 二人が祭りを満喫していたその最中さなか、一輝は感傷に浸っていた。 何せ七年ぶりだ、つい懐かしみや祭りの感覚を噛み締めてしまうのも仕方ない。


(こっちの世界に戻って来れただけでも奇跡なのに祭りまで楽しめるなんて本当に贅沢だよ──ん?) 


 だがその時だった。 右側から何やら中年男性による個性的な呼びかけが聞こえてくる。 確かに今までも、そして周りにも現在進行形で屋台の店主が客を呼び込もうと声を掛けているが、一輝の耳に届いたその呼びかけは非常に独特だった。


「安いよ安いよ~! もう赤字覚悟だよ~! 真っ赤っかだよ~! 自分の血涙ぐらい真っ赤だよ~! これがほんとの出血大サービスってやつ~!?」


 その中年男性の売る気があるのかどうか分からない言葉選びは良い意味でも悪い意味でも印象が強いだろう。 しかし──、


(あれ? この声…………何処かで……)


 一輝は呼びかけの内容よりも中年男性の声に注目していた。 耳に残る心地の良い重低音、それでいて 遥か先までよく通るその声を。 一体どの辺りからと見渡していると右側の前方からその中年男性の声が聞こえてくる。


(あそこだ……)


 一輝の見つめる先にあったのは少し離れた先にあるジュースと書かれた暖簾のれんの屋台だった。 暖簾の下にある長方形の青い箱の奥に人が立っているのは薄っすらと確認出来るのだが、人混みのせいでハッキリとどのような人物なのかは分からない。


(ちょっと覗くぐらいなら別にいいよね……)


 思い出せそうで思い出せない、喉に何か突っかかるこの感覚を解消したいと思った一輝はジュースの屋台へ行こうと決める。


「ねぇ、あの屋台に寄っていいかな?」


 一輝は目的の屋台へ指を差すと、コルトは「はい、勿論です」と承諾してくれた。 変な呼びかけが原因かは不明だが屋台の前には誰も止まっていない。 行くなら今が絶好の機会という事もあり、目的の場所へ直行していたその時──、


(……!? あの人って……!?)


 屋台のすぐ目の前に着いて店主の顔を見た瞬間、一輝はすぐに気付いた。 その人物が一体誰なのかというのを。


「なんとぜ~んぶ一〇〇円だよ~! 自動販売機で買うより数十円もお得とか買わなきゃソンソン! さぁさぁ買ってって──」


「あ、あの!」


 暖簾の真下、店主の目の前まで来た一輝が呼びかけ中の店主に話しかける。


「おっ! いらっしゃーい! 何でも一〇〇円だから遠慮せず取って──うぉぉぉぉぉぉおっ!?」


 店主が一輝の事を客と思って接客していたその直後、後ろから入ってきたコルトの姿を見て急に目を全開させながら地響きのような絶叫をする。 あまりの驚きにそのままひっくり返ってもおかしくなかった。

 

「めっめっめっ、めっちゃ──いや、とんでもなく美人──いや、これはもう女神っ! そう! 女神っ!」


 今この手をジュースの入った箱の中に突っ込めば水が沸騰しそうな程に店主は興奮していた。


「どっ、どうしたんですか! あ、あなたのような方がウチみたいな所へ来るなんて!」


「い、いえ、用があるのは私ではなくこちらの……」


 凄まじい勢いで詰め寄ってくる店主に、笑顔ではあるが若干引き気味のコルトは一輝の方へ視線を誘導させるよう、両手を広げた状態で向ける。


「え──あ、あぁ、そうだったそうだった! ジュースならまだいっぱいあるから好きなもん選んでやー!」


「す、すみません! 実はジュースを買いに来たわけではなくて……!」


「ん? あれ? 違うの? ハッ! もしかしてそちらの女神様を見せつけるだけの冷やかし……?」


「ち、違います! そういうのじゃありません!──えっと、僕のこと……覚えていませんか……? 新田浩二にったこうじさん……」


 頭に黒のハチマキ、服は上下黒。 体型は中肉中背で髭を蓄え、ジュースの屋台の店主をしていた男性の正体は一輝が二ヵ月前にお世話になった新田浩二だった。

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