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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
七話

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命は花火のように儚い その十四

 二人が外へ出ると、イノの言っていた通り空が薄っすらと陰っていた。 しかしそのおかげで転移した直後に比べれば気温は下がっていて、気持ちの良い風も吹いている。 外を歩き回るという意味では今の時間帯が丁度いいのかもしれない。


 コルトの服を汚さまいと一輝が優先して前へ行き、壁代わりの雑草を払い除けながら公園へと突き進む。


(出掛ける度に毎回こんな感じなのは流石に不便だなぁ……通り道の部分だけでも刈り取った方がいいかも……だけどやり過ぎたら隠れ場所として意味が無くなりそう……う~ん……)


 ただ、前へ歩きながら心の中でどうすべきか悩んでいた。 一度や二度ならまだしも何度もこの動作を繰り替えすぐらいなら最低限ぐらいは刈り取るべきだが、そうしたら壁という役割が破綻してしまう。


 そうこう考えている内に草むらを抜け出すと、この事は後回しにしようと決めて今は一番の目的に集中する。


「誰もいないから出てきて大丈夫だよ」


「かしこまりました」


 一輝の合図で後ろにいたコルトも草を搔き分けて出てくる。


「──ここは……?」


 その先に広がる光景をコルトは観察するように眺めていた。 右端から左端、何から何まで未知だらけのこの場所を。


「ここは公園といって、子供の遊ぶ広場みたいなものかな」 


「公園……ではこの乗り物──ぶら下がる物……みたいなものは……?」


「これはブランコといって、遊具と呼ばれる遊び道具だよ」


「ブランコ……この遊具とやらもお子様が使われるもので?」


「うん。 使い方は──口で言うより実際にやってみた方が早いか……ちょっと見てて」


 一輝は左側にある一人用のブランコへ座ると、両側のぶら下がる為の左右の鎖を片方ずつの手で掴む。 そして両足で地面を強く押すと一輝は座ったまま勢い良く後方へ下がり、足が届かない程に宙へ舞う。 それから宙で一瞬だけ停止した途端、再び時が動き出したかのように凄まじい速度で落ちていくのだが地面を通過して今度は前方へ高く舞い上がった。


 この動作を何度かコルトに見せた後、両足を地面に滑らすように擦り付けて速度を落とし、完全に停止してから立ち上がる。


「まぁこんな感じかな」


「ブランコとはこういう遊び方をなさるのですね……イノやカナリアが喜びそうです」


「ならまた今度、機会があれば遊具で遊ばせようか。 二人もずっと家にいたからこういう所で思いっきり身体を動かして欲しいし──あ、クリムとリノウにも一応教えておいた方がいいかも」


「それは良い案かと──ただ、ご教示するのは問題無いと思いますが……リノウはブランコに乗せない方が良いかもしれません」


「え? なんで?」


「有頂天になって破壊し兼ねないからです」


「あー……」


 ブランコに乗ったリノウが笑いながら「これ楽しいぃぃぃぃいっ!」と調子に乗って体操選手のように何回転もさせて鎖が外れる光景が頭に浮かぶ。 実際に起こりうる可能性に一輝は否定する事が出来なかった。





   ◇ ◇ ◇





 他の遊具についてはまた後日説明する事にし、二人は公園から出発する。 しかし抜けて早々に分かれ道。 右は津太郎の家へ続き、左は何処へ繋がっているか不明の未知なる世界。 いきなり知らない道を進むより、まずは知っている方から把握しようと右側へ進む。  


──十分後、一輝がコルトに他の二人同様に色々と教えつつ歩いていると津太郎の家に辿り着く。


「この家が津太郎君の住んでる家だよ」


 目の前で立ち止まり、一輝の指を差した方にはコンクリートで出来た四方を囲む塀、玄関の前にある門扉、そして二階建ての一軒家が見える。


「ここがシンタロウ様の……」


 コルトは瞬きもせず、目に焼き付けるように津太郎の家を隅から隅まで眺める。


「──あの、イッキ様、この四角い箱のような物は一体……?」


「あぁ、インターホンのことだね」


 家の構造を記憶した後にコルトが軽く首を傾げながら凝視していたのは、一輝から見て門扉の右側にある黒のインターホンだった。


「いんたー……ほん……?」


「呼び鈴みたいなものかな。 ただ、向こうは紐を使って鈴を鳴らしてたけどインターホンはこのボタン──小さくて四角い部分を押すと音が鳴る仕組みになってるんだ」


 一輝は説明しながら押す動作をする。 ただ、本当にボタンを押すのはまずいので寸止めだが。


「しかも押した後に顔を近付けて話しかけたら家の中に声が届く機能もあってさ、これのおかげで中にいる人と会話する事も可能なんだよ」


 今度はインターホンに話しかけるように顔を近付ける。 コルトも説明を聞いたから何をしているか理解出来ているのだろうが、何も知らないままこの光景を見せられたら一体どうしたのか心配で堪らなくなるだろう。


「会話も……一見では小さな箱にしか思えないのですが──なるほど、見掛けで判断してはいけないという事がよく分かりました。 誠にありがとうございます、イッキ様」


「そこまで大袈裟にしなくてもいいような──ん……!?」


 背後を通過する人達の視線を感じる。 やはり家の前で何もせずに立ち止まるのは不自然に見えるのだろうか。 怪しまれる前に離れた方が良さそうだと決断し、コルトに話しかける。


「とりあえず津太郎君の家は教えたし、今度は逆側に行こっか」


「かしこ──そうですね、分かりました」


 コルトは周りの通行人を意識し、いつもの丁寧な言葉遣いに比べて砕けた口調で接する。 急な話題変更に何も疑問を抱かなかったのは、一輝の思考を察したに違いない。


(本当なら津太郎君にも挨拶したかったけど、せっかくの夏休みを邪魔しちゃ悪いよね。 今頃ゲームでもしてるのかな)


「もう後少しで宿題が終わる……! 頑張れ俺……! あとちょっとだ……!」


 一輝は津太郎がゲームしたい気持ちを必死に押し殺し、宿題に全力を注いでいるのを知る由もなかった。





   ◇ ◇ ◇





 その後、十分掛けて公園まで戻るとそのまま真正面をひたすら進める。 この先は一輝も未だ見た事の無い道。 コルト同様に頭の中でどういう構図になっているのか自分なりの地図を描く。

 とはいえ住宅街というのもあってか歩いても歩いても景色は殆ど変わらない。 多少の変化というのは時々分かれ道となる十字路、細道があるのと家の外観が違うくらいだ。


──だが公園から歩いて十五分後。 住宅街を抜けた先に広がっていたのは片道二車線の道路に街路樹が等間隔の距離で植えられている歩道、右も左も何十メートルの高さの建物が幾つも建て並んでいるオフィス街だった。

 住宅街の中にも車は何台か通っていたが、このオフィス街は目まぐるしい数の車が常に道路を走らせている。 


「凄いなぁ……」


 一輝は驚きと好奇が入り混じった表情で街を眺める。 その姿はまるで海外旅行で目的地に着いた旅行客のようだ。


「これは壮観ですね……私の国でもここまで高層な建物なんて滅多にありませんのに……それが数多もあるだなんて……」


 コルトもまた普段は閉じている口が若干開きっ放しになっている。


「ただ、このような高層な建物が立て並ぶ光景はリノウの国にもありましたね。 流石に車や道路といった物はありませんでしたが」


「あー、言われてみれば似てる所があったかも。 ならリノウをここに連れてきたら喜びそう」


「はい、きっとお喜びになりますよ──ただ、浮かれ騒ぐ可能性も大いにあり得ますので、その点だけはお気を付けを」


「う、うん、気を付ける……」


 立ち話が終わり、二人は右側の通り道を歩き始める。 しかし目の前は果てしなく続く直線。 車が一瞬で遥か遠くまで進んでいく中、二人は歩けど歩けど最奥へは辿り着けない。


(ずっと歩きっぱなしだし、休憩した方がいいかな……) 


 拠点を出てから既に三十分以上。 特に疲れは感じていないが、地図作成の集中力が切れない為にも息抜きをした方が良さそうだと考える。 


(何処か座る所でもあったらいいんだけど……無かったら木の下で休むしかないか……)


 本来の目的を忘れてはいないが、ベンチか何か無いか歩きながら探していると──、


(あそこって確か……ハンバーガーとか売ってるお店……だったよね……?)


 一輝の視線に映ったのは、反対側の歩道にある黄色で大きく『M』と書かれた看板が目立つハンバーガーショップだった。

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