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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
二章

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異世界からの来訪者達 その12

 校舎の入り口にいた時は分からなかったが、校門の方へ進んでいくと学校の敷地外から人の声が聞こえてくる それが下校中の生徒の話し声なら特に意識する事なく済んでいた


 しかし津太郎達の所にまで届く音の正体は一回り以上は歳が離れている大人──それも男女入り混じった大多数の声はまるで野球観戦中に大声で応援している観客のようだ

 だがその中には怒鳴り声や罵声といった物騒な声も聞こえてきて、あまり良い雰囲気ではないのが嫌でも分かってしまう

 勿論、教見津太郎きょうみ しんたろう達の周りにいる生徒達もこの異変に気付いている もしかしたら何か厄介ごとに巻き込まれてしまうかもしれないと考えて立ち止まったまま動かない者もいた


「月下! ちょっと止まってくれ!」


 月下小織(つきした こおり)に手を引っ張られながら歩いている状態の津太郎はその場に留まるよう声を掛けた

 小織自身も前の方から聞こえる声に危機感を抱いてるのか大人しく指示に従って急ぎ足気味だった歩みを止めた そして掴んだままだった手を離し、2人の方へと振り返る 

 状況や雰囲気が変わったからか、その顔は少し前までの慌てふためいた表情とは打って変わって真面目な顔つきとなっていた


「急に(わり)ぃ でもこのまま進んだらなんかやばいと思ってさ」


「……教見の気持ちも分かるけど、それならどうするつもり? アタシ的にはさっさと抜け出した方がいいと思ってるわ」


 現に全生徒が校舎と校門の間に踏みとどまっているわけではない こうやって津太郎と小織が話し合っている間も自分だけは大丈夫と思っているのか気にもせず歩いている生徒もいた 時間もある程度は経っており、既に学校から抜け出している者もいるだろう

 小織の言う事が正しいのかもしれない でも何かあった時に2人を守り切れる自信なんて津太郎にはなかった


「ちょっと俺だけで見てくるからここで待っててくれな──」

 

「却下」


 即答だった 津太郎の中では一応とはいえ決意を固めたつもりの意見だったのだが一言で一蹴されてしまう


「どうせ教見のことだからそう言うと思ってたわよ だから先手を打って納得させようとしたのに意味なかったわ」


 これが女性の勘というものだろうか もしかすると引き止めた時点で小織はもう津太郎の考えを読み取っていたのかもしれない 


「でも何か起こってたら……」


「そんなにヤバい状況になってたらとっくに先生達が校内放送用のスピーカーでも使って引き止めるよう言ってるだろうし、こっちまで逃げ戻ってくる人なんて誰もいないじゃない だから大丈夫よ」


 完全に相手の方が上手(うわて)の状態で今回は津太郎の完封負けだろう 腹をくくって小織の言う通りにしようと決めた


「……分かったよ でも今度は俺が先頭に立って歩く これだけは譲れないぞ」


 津太郎自身はまだ見るまで完全に油断はできなかったが、進んでみないことには何も始まらないのもまた事実 とりあえず今は前へ向かうしかない


「ハイハイ、別にアタシはどっちでもいいから早く行きましょ──流石に疲れてきたし……」


 SNSやインターネットを使っての調べ事で寝不足 学校全体を巻き込んでの騒動 それに栄子への精神的フォロー

 他にも色々な事へ頭をフル回転させた結果、ここにきて溜まった疲労が一気に溢れ出てきてしまい思わず疲れ気味のため息と弱音を漏らしてしまう 幸いにも周りの騒ぎや生徒達の話し声で掻き消されて2人には聞かれずに済んだ

 

 しかし気を張っていなければ油断して顔に出てしまいそうになる あまり気を遣わせてたくない小織は急いで身体を半転させ、背中しか見せないようにした後に身体がフラつかないよう腕を組む

 

「ん? 最後なんて言ったんだ?」


「別になんでもないわ それより早く先頭に立ってくれると助かるんだけど」


「そうだな、じゃあそろそろ行くか──栄子も俺から絶対に離れるんじゃないぞ」


「う、うん……」


 津太郎の言葉に清水栄子(しみず えいこ)が反応するも、意識はほとんど小織の方へと向いていた

 津太郎に対し背中を向けた状態で淡々と話すなんて普段はやらない小織の姿を見て、どこか様子がおかしい事は分かっている筈なのに何を言えばいいのか思いつかない

 しかしいつまでも悩んでいたら津太郎や小織に余計な心配をかけさせてしまう

 それだけは絶対に避けたい栄子は結局何も行動を移せず、ただ2人の後を付いていく事しか出来なかった




   ◇ ◇ ◇




 宣言通りに津太郎が先頭を切って歩いていくと、その大人達と思われる声は大きくなっていく

 時間が経てば静かになるという考えも少しはあったがそれはただの楽観的希望に過ぎなかったらしい

 ただ悲鳴や助けを求める叫び声といった頭の中に響き渡るような音が聞こえないのが気持ち的に唯一の救いだろうか

 

 校舎の入り口から学校の出口まではそこまで遠くないはずなのに、今は進めば進むほど我先にと帰ろうとしていた生徒達により動きづらい状況となっている

 それでも何とか校門手前にある緩い曲がり道を通り抜け、もうすぐ学校の外という所まで辿り着いた──が、敷地外は津太郎の予想以上に大勢の人で溢れかえっている

 それは朝に見た少数の保護者達とは比べ物にならず、あれだけの騒音を出せてたのも納得であった


 だがそんな沢山の人が学校へ未だに入り込んでいなかったのは帰り道の確保 そして生徒達の下校を大人達に邪魔させないよう、教師達や少し前に立ち去ったと思われていた多数の警察官が校門の外側で横一列に並んでバリケードの役割を担っていたからである

 流石に警察の前では大人数といえど簡単に手出しするのは無理だろう


「さっきのは一体なんなんだ!!! 校長を出せ! 説明しろ!!」


「私は保護者よ!! 子供を迎えに来ただけなんだから学校に入ってもいいじゃない!! いいから退きなさいよ!」


「なんかよく分かんねえけど面白れぇ~! いいぞもっとやれ!」


「ここの生徒ならどんな事が起こったのか知ってるんじゃないの!?──あ! そこの生徒さん! ちょっとお話し聞かせてちょーだい!!」


 津太郎達の目の前で騒いでいるのは

 学校の近所に住んでいる人

 子供が心配で駆け付けてきた保護者

 近くにいて暇を持て余した野次馬

 ただの興味本位で首を突っ込む探偵気取り

 等々(などなど) 細かく挙げればキリが無いが大半は近所の住人や保護者だろう


「皆さん落ち着いて下さい! 冷静に!冷静に!」


「今回の件に関してはまた後日きちんと説明致しますので!今日の所はどうかお引き取りを!」


「生徒の皆さんは出来るだけ早くここを抜けて下さい! 危ないから決して私達には近付かないで!」


 教師達が目の前にいる興奮状態の人達を少しでも抑えようとする──が、集団というのは恐ろしいものだ 普段は弱気な人でさえも周りの雰囲気に呑み込まれて気が強くなってしまう為、誰も耳を貸そうとしない 何か起こらない限り状況は一変しないだろう


 警察官も人手が足りていないせいで民間人を学校へ入り込ませないようにするのと生徒達の誘導で精一杯のように見える その後ろを歩く生徒達は不安の表情を隠せない


 津太郎達もまた他の生徒の中に紛れ込んで慎重にだが確実に進んでいく 普段ならすぐに通り過ぎる道が今はとてつもなく長く感じ、本当に今この足で歩いている場所はいつもの道なのか疑問にすら思えてしまう

 周りをあまり意識しないよう教師や警察官が確保してくれた道だけ見ながら歩き続けていたのだが、色々な声に混じってどこか聞き覚えのある声が耳の中に入っていくような気がした


(あれ? 今の声、どこかで聞いたような……)


 津太郎が思わず周りを見渡すが、知り合いらしき人は見当たらない 何か勘違いかと思って先へ進もうとしたその時


「お願い!! 気付いて!!!」


 今度は言葉まではっきりと聞こえてきた 津太郎が一体誰なのか考える間もなく、側にいた栄子がその声に反応する


「お母さん!?」


「そうよ! お母さんよ!!……よかった、無事でいてくれて……!」


 津太郎や栄子に聞こえるよう必死に声を出していたのは栄子の母親だった 津太郎が周りを見渡した時よりも最前列に近づいてきたのか少しだけ姿が確認できる しかしここで立ち止まって話をするわけにもいかず、とにかく今はここを抜けるのを最優先にしようと考えた


「栄子、気持ちは分かるがとりあえず早くここを出よう それからおばさんと合流するんだ」


「う、うん……!」


 ここで津太郎が大声を出して栄子の母親を誘導する手段もあったが、他の人まで誘導してしまう可能性もある為にそれはできなかった


(おばさんも俺達が見えてるんだから出口まで行くと人だかりを抜けてこっちに来る……筈だ)


 そう信じて教師や警察官が確保してくれた道を無心で歩き続け、時間は予想以上に掛かったが何とか抜け出すことができた

 津太郎としてはてっきり野次馬の人達が別の道から向かって来るかもしれないという不安もあったが、特にそういう心配はなさそうではある

 しかも騒動に疲れた人や飽きた人が徐々に現れ始めたのか、最初に見た時と比べると減ったようにも感じる このままいけば落ち着くのも時間の問題かもしれない


 学校の事は気になるが、今はとにかく無事であることに心からの安堵を感じつつ栄子の母親を待つことにした  

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