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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
二章

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異世界からの来訪者達 その11

「大丈夫かっ!?」


 教室へ入ってくるなり、急に生徒達に大声を出した担任教師の見た目は銀のフレームの眼鏡を掛けた細身の高身長、髪型は黒の七三分けで服は黒のスーツを着用している三十代の男性である。


 入り口の時点で既に肩で息をしている程に呼吸は荒れているが、それでも動きを止める事無く生徒達の顔を見ながら教壇まで移動する。 そして教壇の横側を両手で掴むと肩を撫で下ろす勢いで下に向かって溜め息を吐いた。


「──はぁ~……本気で焦ったぞ」


 心の底から生徒達を心配していたのだろう。 担任教師の口から漏れ出した声からは安堵に満ちていた。


「本当だったらすぐここに来たかったんだが、こっちもこっちで色々あってな……」


 この後の説明によると、津太郎達が一輝達との騒動に巻き込まれてる際、校舎の中では一体何が起こったのか気になった多数の生徒達が勝手に教室を抜け出して、運動場が見える廊下にまで押し寄せていたらしい。


 他にも学校中の教室で生徒達が昨日のようなパニック状態になっていたり、勝手に運動場へ飛び出す生徒がいた等々、教師全員が校舎全体のトラブルへの対応を余儀なくされていたという。


 ようやく全てが一段落した後、職員室でこれからどうするか教師達で色々と決めていたら思っていたよりも時間が掛かってしまい、教室へ来るのが遅くなってしまったようだ。

 ちなみにどうして息が上がっているのかというと、一秒でも早く生徒達の無事な姿を見たくて急いで教室まで向かったのが原因だ。

 

「──でもあれだけの事が起きたのに誰も怪我せずに済んで本当に良かった」


 担任教師は学校で何か起こったかを説明した後、生徒達に向かって今思っている事をそのまま話す。

 

(先生……)


 津太郎は普段なら絶対に口に出さない事を面と向かって言われ、照れ臭さもあったが純粋に嬉しくもあった。


 この後、担任教師が明日の学校はどうするかまだ決まっていない為、今日の夜にでも専用のSNSを通じて親へ連絡する事を生徒達に伝える。 するとその直後、校内放送のスピーカーの機械音が鳴り始めた。


「えー、皆さん……まず、あれ程の事が起こったにも関わらず、生徒全員誰一人として怪我をしていないという報告を受けた事について、本当に──心から安心しました」


 スピーカーを通して聞こえてくるのは校長の声だった。 内心、尋常ではない焦りがある筈なのにそれを感じさせない落ち着きのある話し方は流石といえるだろう。


「ですが、まだ皆さんの心に不安が残っている状態だというのに登校させてしまい、結果的にとはいえこのような事になってしまったのは全て私の責任です」 


 校長はこの学校にいる人達全員に向けて謝罪をする。 淡々と話しているものの、その言葉から後悔や罪悪感といったものが滲み出ていた。


「本当であれば──」


「大変です校長先生っ!!]


 まだ校長が話している最中だというのに教頭が割り込んでくる。 かなり大きい音量なのか遠くからだというのにマイクを通して学校全体に教頭の声が響き渡ってしまう。


「一体どうしたのですか?」


 あまりにも突然の事に校長はマイクを切るのを忘れたまま教頭と話し始めた。


「校門辺りに人が溢れかえっています!」


 この言葉に学校全体が再び騒ぎ始めてしまい、それは津太郎の教室も例外ではなかった。


「人が溢れてるってどういうことだよ……!」


「かっ、帰れないんですか!? 家に帰れるんですよねっ!?」


「どう考えてもさっきの騒ぎが原因じゃねぇか!」


「何なのホントにもう……イヤだぁ……! お家に帰りたいよぉ……! おかあさぁん……!」


 教頭の言葉がスイッチとなって教室中が再びパニック状態になってしまい、校長が何か話しているのだが生徒達の耳には全く届いていない。


「落ち着けっ! 落ち着くんだ皆っ!」


 担任教師が生徒全員に冷静になるよう声を出す。 本当なら大声を出したくなかったが、こうでもしないと呼びかけ自体が掻き消される可能性もあった為、やむを得なかった。


(焦るな……! 絶対焦るな……! さっきのに比べたらまだマシだろ……!)


 津太郎自身は何とか焦りの気持ちを必死に抑えながら栄子は大丈夫なのか心配になって教室の入り口側を見てみる。 すると栄子の側には小織が寄り添って慰めており、何とか大丈夫そうな姿を確認出来てほんの僅かだけ安心した。


 その後、津太郎も担任教師や理性を保っているクラスメート達と協力してパニックに陥っている人達を落ち着かせる為に立ち上がろうとした瞬間、


「皆っ!! 一旦落ち着こうっ!! なっ!!」


 スピーカー越しに聞こえてきたのは校長の声ではなく体育教師の野太い声だった。 その迫力ある声は混乱状態の生徒達の耳にも通ったらしく、それまで騒いでいた人も動きを止めてスピーカーの方へ顔を向ける。


「怖い気持ちは分かるっ! だが皆は一人じゃないっ! 皆で協力し合えば絶対大丈夫だっ!」


 体育教師は必死に生徒達へ訴えかける。 ただ、この情熱の籠った訴えの中にも何処か優しさのようなものを感じる。


「──よし、きっと皆が落ち着いたと信じて今からどういう行動すればいいのか説明するからよく聞いてくれ」


 それから体育教師の説明によると人の集団は学校の正門を越えて入り口付近まで迫っており、今にも学校の中に入ってきそうなのだが、先程来てくれた警察官達のおかげで何とか食い止めてくれているらしい。 しかし、いくら警察がいるとはいえこの状態で生徒全員が一斉に校門を抜けようとすれば大混雑を避ける事は出来ず、非常に危険であるのは間違いない。


 そこで職員室にいる先生達が急いで話し合った結果、色々な提案が出たがその中で一番安全かつ安心に校門から抜け出す方法として、一年生から二クラスずつ五分経過する度に出て行く手段が選ばれた。 そして学校から離れても出来るだけ一人で帰らないよう伝える。


 これなら時間は掛かるが少人数過ぎず、大人数過ぎない程度の人が混雑する事無く帰る事が出来て、安全性はまだマシだろう。

 時間に余裕があれば他に良い案を出せたかもしれないが、この非常事態ではこれが限界なのかもしれない。 逆にこの短時間でこのような案が出せただけでも十分ともいえる。


「それとこの放送終わり次第、少しでも人手が欲しいので手の空いている男性教師の人達は警察の方々の手伝いをお願いします!」


 ここまで早口で説明をこなした後に体育教師は他の教師達へ呼びかけを行う。 確かにこういう場合は一人でも多くいてくれた方が警察官達としても気持ちが楽になるのは間違いない。


「──校長先生、すみませんが私も正門の方へと向かいますので生徒達への呼びかけをお願いしても宜しいでしょうか?」


「分かりました。 私が五分おきに生徒達へ外へ出るよう伝えるので貴方は正門の方にお願いします」


 校長がそう言ってから数秒後に放送室のドアが閉まる音がする。 恐らく体育教師は何も言わず頭だけ下げてその場から立ち去ったのだろう。 それから校長は一年一組と二組に帰宅の準備をして教室から出るように伝え、一度スピーカーを切る。


「じゃあ先生も正門に行くから絶対に校長の指示に従うんだぞ……! 勝手な行動とか取らないように……!──本当は最後までいたかったが……仕方ない……」


 担任教師は正門へ向かう前に生徒達へ向かって注意喚起をした後、急いで教室の出入り口まで移動する──が、最後の最後で普段見せた事の無いような辛い表情を一瞬だけしたような気がした。


 それから五分ごとに校長からスピーカーを通して次々とクラスが呼ばれていき、そして十五分後──とうとう津太郎のクラスが呼ばれる。 帰宅する為の準備は既に誰もが出来ており、呼ばれた途端にクラスの皆は一斉に立ち上がるが、やはり教室中は緊張感に包まれていた。


(いよいよか……)


 津太郎自身も若干ながら緊張しつつ席を立った後、真っ先に前の出口付近の席にいる栄子の方へと向かう。 すると小織も栄子の事を気にしてたのか、津太郎よりも先に出入り口へ辿り着いていた。


「ふぅ……じゃあ二人共、他の皆とはぐれないように早くここを出ましょ」


 小織は珍しく普段は聞けない若干疲れたような声を出している。 


「分かった、でも正門の近くまで来たら二人は俺の後ろに隠れてくれ。 まぁ警察の人や先生達がいるから大丈夫とは思うが一応、念の為な」


 一体どうなってるか分からない疑心、何が起こっているのか分からない恐怖心から津太郎はどうしても二人が心配になってこのような言葉を掛ける。 


「……アタシは平気だから栄子だけ教見の後ろに隠れてなさい」


 小織は何故か二人から距離を少しだけ遠ざかりながら言う。


「えっ、でも……」


「いいからいいから」


 栄子はあまり納得してないようだが、ここで長話している暇は無く今はとにかく他のクラスメート達と一緒に校舎から出る事にした。

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