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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
六章

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過去と現在 その三十五

 一輝が既に一度命を落としたのを告げた後、誰も言葉を発する事無く時間だけが過ぎていく。 今まで長い間、共に暮らしてきた者が突然『実は死んでいた』と言ってきたのだ。 整理が追い付かず、混乱しても何もおかしくはない。 下手すれば頭が真っ白になり、考える事すら出来なくなっている可能性だってある。


(どうする……俺が声を掛けるか……? でも俺なんかが出しゃばっていいんだろうか……)


 沈黙が続く中、津太郎が何とかしようとしたが勇気が踏み出せないでいた。 我ながら情けないと心の中で呟くが、この状況で声を出せる人の方が圧倒的に少ないだろう。


「──それはつまり、我と会った時にはもう命の灯が消えていたという事か」


 最初に声を出したのはクリムだった。 何事も無いような態度を装っているようにも見えるが、声は先程の会話の時と比べて明らかに低かった。


「うん……」


「そうか。 神様と出会って我らの世界に飛ばされたとは聞いたが、まさかそういう事だったとはな」


 クリムは感情を押し殺したかのように淡々と話す。 ただ、これは今まで黙っていた怒りを隠すのではなく、悲しさと寂しさを隠す為にしているような気がした。


「いやー、イッキ君が別の世界から何でというか、どういうキッカケで来たんだろうと疑問には思ってたけど、まさかそれが……ねぇ」


 リノウも頭の後ろに腕を組んで能天気そうな雰囲気を一応出しているものの、何処かぎこちなかった。 『死』に関する単語だけを最後に口にして出さなかったのは一輝に気を遣っての事かもしれない。


「ずっと隠しててごめん。 話したら自分が一度死んだ事を認めたような気がして怖くて言えなかったんんだ……」


「ちっ、違うよっ!? イッキ君を責めてるとかそういうわけじゃないよ!? ただちょっとビックリしちゃっただけだから!」


 一輝を落ち込ませてしまったと感じ、焦りに焦ったリノウは目の前で両手を水平に振りながら誤解を解く。 


「で、でもさー、もし良かったらでいいんだけどさ……一つだけ聞いてもいい?」


「勿論。 僕で答えられる事ならどんなのでも答えるよ」


「な、なら言うね。 昼間に大事な話をするとは確かに教えてはもらってたけどさ、どうして今になってこの話をしようと思ったのかな? こんなこと言っちゃなんだけど……えーっと、ずっと……その──隠し通す事も出来たんじゃない?」


 リノウは言葉を慎重に選びながら一輝に質問をする。 向こうの世界でそれぞれ五人とはいつ出会ったのかは定かではないが、数年単位で秘密にしていた事を追及されたわけでもないのに自ら告白してきたのだ。 一輝以外の誰もがこの疑問を抱くのは当然ともいえる。


「──理由は三つあって、一つは皆にもうすぐこの山から違う場所に移動すると言ったよね。 だから離れる前に話そうとは前から思ってたんだ。 言わないまま別の所に移ったらもう話さなくていいかって決心が鈍る可能性もあったから」


 一輝が説明を始める。 ただ、一つ目の理由を聞くに、一輝としては何としても今の内に伝えておきたかったという意志を感じた。 偶然とはいえ津太郎と出会い、家に来た時に話すと約束した際に「今日にしないか」と言ってくれたのは、後押しという意味で一輝としては非常にありがたかったかもしれない。 


「それで二つ目は、皆は向こうの世界で過去の出来事や秘密を教えてくれたのに、僕だけ何も言わずこのまま過ごすのは何か嫌だ──と思って、話すことに決めたんだ」


 二つ目の理由を話し終える。 確かにリノウの言う通り、一輝の方から語ろうとしない限り隠し通す事は容易かっただろう。 しかし覚悟を決めてまで伝えようとしたのは、この秘密を抱えた事による罪悪感をいつまでも引きずる訳にはいかないという気持ちがあったからに違いない。 


(一輝もきっと悩んで悩んで悩み抜いてから決意したんだろうな。 いくら生き返ったからといって『死んだ』なんてのを告げるのは一輝自身もそうだが、仲間の人達も相当辛いぞ)


 動揺、呆然、悲痛といった負の感情を態度に出している五人と違い、意外にも津太郎は冷静だった。 付き合いそのものが他の者と比べて圧倒的に短いというのもあるだろうが、一番は事前に『死んでいた』事を把握していたのが大きい。 仮に何も知らない状態で聞かされていたら、ここまで落ち着いてはいなかった筈だ。


「最後の三つ目は過去の自分と向き合う為──いや、過去の……死んだという事実を認める為……かな」


 一輝は二つ目までと違い、若干苦しそうに三つ目の理由を話す。 異世界で幾度となく死線や修羅場を潜り抜けようとも、『死』の恐怖は克服出来ない──それどころか実際に経験した一輝だからこそ身体に、頭に、心に、烙印の如く焼き付いている可能性が高い。


「そ、それなら話したからもう大丈夫って……こと……?」


 今まで静かにしていたイノが服の胸元を掴み、声を震わせながら話しかけてくる。


「いや……やっぱりこれだけじゃ駄目みたいだ……」


「これだけじゃってことは他に何か方法でもあるの?」


「うん……それで……その……本当に自分勝手で申し訳ないし、不快に感じて皆には迷惑を掛けるけど、一つだけ話を聞いてくれないかな」


 イノの問いに答えた後、一輝は全員に対して改めてお願いを聞いてもらうよう頼み込む。


「当然だ。 イッキの負担が少しでも軽くなるのであれば力を貸すぞ」


「主がお困りの時に手助けをしないだなんてメイド失格です」 


「つらいときはおもいっきり吐きだしたほうがラクっていうもんね! わたしもいっつも助けてもらってるから、おんがえししないと!」


「イッキ君に頼られるなんて嬉しいなぁ」


「お兄さまのその痛み、私も一緒に分かち合うよ」


 これから一輝の話す事の内容が重く、そして暗いというのは承知の上で異世界からの五人は聞くのを承諾する。


「シンタロウはどうする? 一度この場から離れておくか?」


 クリムは客人として来た津太郎へ席を外すか問う。 どうやら気を遣ってくれているようだ。


「……いえ、自分も話を聞かせて下さい──その、協力し合う仲間として」


 いくら家へ歓迎されているとはいえ、一輝の話を聞くのは場違いなのではと一瞬だけ迷いが生じたが、津太郎としても一輝の為に聞く決意を固める。


「皆……ありがとう……」


 一輝は全員が賛同してくれた感謝の気持ちとして深々と頭を下げ──、


「じゃあ……話すね……」


 そして口を開けた。 

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