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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
六章

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202/259

過去と現在 その三十二

「なっ……!?」


 津太郎は言葉が詰まってしまう。 ここの世界と異世界が繋がってしまったせいで、一時的とはいえ今までの生活が一変、大騒動にまで発展してしまった張本人が目の前にいる事を突如として聞かされたのだ、このような反応になるのも当然ともいえる。


(さっき次元魔法を使えるとは聞いたが……まさか世界同士を繋ぐ程の力を持っているとは思わなかったぞ……)


 そして視線は自然とイノの方へと向く。 顔も、身体も、雰囲気も、誰がどう見てもまだ成長期すら来ていない子供だ。 だがこの歳で超越した魔法を会得し、華奢な身体の中には恐ろしい程までの魔力が秘められているのもまた事実。

 この話を通してセント族についてかすかに知る事が出来たが、これはまだ一端に過ぎないのだろう。


(落ち着け、とりあえず落ち着け……)


 津太郎は冷静さを失わないよう心の中で何度も自己暗示するかのように自分へ言い聞かせる。 そのおかげなのか、何とか焦りを表情として出さずに済んではいた。  


「いきなりこんな驚かせるようなこと言ってごめん。 でもこの事を言うのはこうやって二人が顔を合わせた時だって前から決めてたから」


「そ、そうだったのか……ま、まぁ驚きはしたが……大丈夫だ。 それよりどうして顔を合わせた時って決めてたんだよ?」


「ちょっと上手く言えないんだけど……こんな大事なことを次元を繋いだイノとこの世界で唯一繋がりのある──世界の代表と言ってもいい津太郎君の二人が揃っていない所で教えるのは何か違うというか、絶対に話しちゃ駄目だって気がしたんだ。 えっと、ちゃんと伝わったかな……」


「な、なるほどな……とりあえず、その、言いたいことは伝わったから安心してくれ。 でも俺が世界で唯一の繋がりっていうのは聞いてて照れ臭いな……」


 津太郎は照れ隠しをするかのように首の後ろを左手で掻く。 ただ、ここまで堂々と『世界で唯一の繋がり』『世界の代表』と言われれば照れない方が難しいと思われる。


「えっ、僕何か変なこと言ったかな?」


「いや、別に変というわけじゃないんだが……」


「あっ、あの……!」


 緊張感溢れる空気が多少和んだ所で、今まで口を閉ざしていたイノが話しかけてくる。


「勝手に次元を繋げたこと……怒ってたり……してる……? で、でもねっ! お兄さまがこの世界に帰るにはどうしてもしなくちゃいけなくて……決して悪気があってやったわけじゃないの……!」


 津太郎の反応を見て急に罪悪感を感じたのだろうか、イノは今までのぎこちなさが嘘のように勢い良く思いの内を打ち明ける。 すると津太郎は右膝を付くようにして座り、不安そうな表情をしているイノと目を合わせ──、


「全然怒ってなんかいないよ。 まぁ空に異空間が出来た時は怖かったのは事実だけどね、あはは……」


 優しく微笑みながら語りかける。 今にも泣きそうな子供を宥めるかのように。


「それにイノちゃんはさ、一輝の為に世界を繋げようと一生懸命頑張っただけじゃないか。 だから何も悪くなんてないよ」


「──ほんと……?」


 津太郎の本音を感じ取ったのか、イノの曇った表情が少しずつ晴れていく。 


「勿論さ。 だから変に心配したり気にせず接してくれると俺としては嬉しいな」


 無理矢理にでも作ろうと意識したわけでもないのに笑みがこぼれる。 噓偽り無い心からの笑顔が。 


「う、うん……分かった……」


 イノはゆっくりと頷く。 まだ話し方はぎこちないが、声に緊張感や硬さのようなものは抜けたような気がした。


「じゃ、じゃあね、早く親しくなりたいから、私のことは……えっと、イノって呼び捨てにしていいよ……」


 イノが俯いたまま身体を左右に揺らしながら津太郎へお願いをする。 表情は分からないが、頬は薄っすらと赤くなっているようにも見える。


「あ、あぁ。 ならこれからはそうするよ」


 相手の方から良いと言っているのに本当に呼んでいいのか確認を取るのは失礼だと感じ、何も聞かずに承諾した。 ただ、津太郎としても互いに胸の内を明かした結果として多少は親睦を深めた事に歓喜の気持ちが強くなり、恐怖や動揺といった負の感情はすっかり消えてしまっていた。


「──ねぇ、お兄さま。 アレはこの人のことを何て呼んでるの?」


 津太郎が返事をした後、何かに気付いたイノは一輝の側に寄り、黒シャツの裾を軽く引っ張りながら訊ねている。


「えっとね、僕と同じで津太郎君って呼んでるよ」


 長年の付き合いのおかげなのだろうか、一輝は『アレ』の正体が一体何なのか分かっているようですぐに答えた。


「そうなんだ……じゃあ──私は貴方のこと、キョウミって呼んでいい……?」


「えっ? いや、まぁ別にいいけど……アレっていうのは……?」


 状況が全く把握出来ていない津太郎は『アレ』について恐る恐る聞いてみる。


「イノの言うアレはリノウの事だよ」


 津太郎の問いに対し、口を閉ざしたまま何も言わないイノの代わりに一輝が教える。


「あ、リノウだったのか。 でも何で名前で呼んであげないんだ?」


「あー、まぁそれについては向こうでちょっと色々あったというか何というか……」


「な、なるほどな……」


 どうやら二人の間には何かがあったのは間違いないようだ。 ただ、何となくこれ以上は踏み込んではいけないと悟り、一輝のこの説明だけで納得する事にした。


「でも一輝のことは名前じゃなくお兄さまって言ってるけど……」


「そ、それとこれは別だから……! お兄さまは私のことを出会った時から守ってくれる王子様みたいな存在だからいいの……!」


 イノは一輝を横から強く抱きしめながら別問題である理由を話す。


「お、王子様って……凄い慕われてるな、一輝……」


「う~ん、僕は別にそういうつもりじゃないんだけどね……」


 一輝は甘えるように抱きつくイノを見ながら苦笑いをする。 ここだけ見ると仲間というより年の離れた兄と妹みたいだ。


「ねぇ、イノ。 津太郎君が目の前にいるんだし、そろそろ離れた方がいいんじゃ……」


「あっ……」


 指摘されてようやく自分が人前で大胆な事をしているのに気付いたイノは、顔を真っ赤にしながら一輝と距離を取る。


「ちっ、違うの! 今のは決してお兄さまに甘えたかったとかそういうのじゃなくてっ! ついやっちゃってただけなの!」


 それから慌てた様子で両手を交差させるように左右へ何度も振り、謎の言い訳をしてくる。


「無意識にやっちゃうってことはそれだけ仲が良い証拠なんじゃないかな? とても良い事だと思うよ」


「ほんとっ!? 私達、仲良さそうに見えるっ!?」


「あぁ、そうにしか見えないさ」


「そっかそっかぁ、えへへへへ……!」


 リノは両手を赤い頬に当て、溢れんばかりの笑顔のまま身体をシーソーのように繰り返し揺らす。 


「これだけ楽しそうに話しているのを見ると、もう一問一答はしなくていい感じかな?」


 最初に比べて打ち解けた二人を見て、一輝は親交を深める為のクリムの提案をする必要が無いと判断したようだ。


「そう……だな、俺としてはさっきの会話で色々と聞けたからもう十分満足だ」


 セント族の存在、そしてイノが世界と世界を繋げた張本人──この二つについて知る事が出来ただけでも津太郎にとっては大きすぎる程の成果といっても過言ではない。 それに他の四人からも様々な情報を得ているのだ、これ以上の知識を蓄えるのは津太郎の今の記憶容量では非常に厳しいと思われる。


「キョウミがしないなら私から質問してもいい?」


 しかしイノからは何か聞きたい事があるようだ。


「勿論構わないさ、質問って何だい?」


「あのね、お兄さまが私を守ってくれてたみたいにキョウミには誰かを守ってる人っているの?」


「……!?」


 イノは単純に気になったという理由でこの質問をしたのだろう。 だが津太郎はこの『守る』という言葉を聞いた直後、心臓が痛くなる程に跳ね上がった。

今年の更新は今回で終わりです。 来年もコツコツ頑張ろうと思います! 良い年を!

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