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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
六章

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過去と現在 その三十一

「はじめまして。 俺は教見津太郎って言うんだ。 これから宜しくね。 それと俺の事は好きなように呼んでくれて構わないから」


 あからさまに緊張しているのが伝わってきた津太郎は少しでも和らげようと両膝を曲げてしゃがみ、下から見上げるような形で初対面の挨拶をする。


(何か……他の人達と比べて肌が白いような……)


 顔を合わせてみて真っ先に頭の中で浮かんだ言葉は肌の白さについてだった。 真っ白というわけではないが、まるで白のファンデーションを肌に何度も擦り付けたかのように肌色が薄っすらとしか見えなかった。


「う、うん……」


 津太郎が疑問を抱いている内にイノが目を合わせて返事をしてくれたものの、すぐに視線を斜め下にずらしてしまう。 この反応から察するに、どうやら人見知りである事は間違いなかった。


「えっと……緊張してるのは分かるけど、こっちに来た方がいいんじゃないかな? ずっとその態勢だと大変そうだし」


「お兄さまがそう言うなら……」


 互いに挨拶を済ませてから数秒の沈黙の後、一輝が廊下へ来るようお願いするとイノは掴んでいた手を離す。

 そして廊下に出て津太郎の前に姿を現したイノの見た目は髪が白銀色のショートボブで、瞳の色は黒と白が入り混じった白金はっきん。 目つきは若干ながら無愛想に感じられてしまうジト目、筋の通った綺麗な鼻に薄赤色の小さな口。 年齢は十歳、身長は百三十五センチメートルと六人の中では一番背が低い。

 服装は至る所にフリルやレースとリボンが付いた黒の綺麗なドレスや大きいスカートが特徴のゴシックロリータなのだが、腕を通す長袖の部分や膝下まであるスカートのフリルは白となっている。 履いているのは膝上まで隠れる程に長い黒のハイソックスと子供用の革靴だ。


(まるで西洋の人形みたいだ──って、そうじゃない! 何でこの子と俺を一輝は会わせたがったんだ? 見る限り他の人とは違って接し方もあまり友好的じゃないし、特に俺と会いたかったという風にも思えないんだが……)


 津太郎は一輝の先程の発言の意図が全く分からなかった。 『五人の中で誰よりも顔を合わせて話さなきゃいけない理由がある』と言うからには何かしら理由があるのだろうが、少なくとも現時点では検討もつかない。


「──その服、凄く素敵だね。 とても似合ってるよ」


 とにかくこちらから積極的に友好関係を築かなくてはと感じ、津太郎は考えるよりも先に思い付いた事を口に出した。 


「えっ、あ、ありがとう……あ、あのね、この服、お兄さまが選んで買ってくれたの」


 どうやら服を褒めたのは正解だったようで、本当に嬉しそうだ。 そのおかげで少し心を開いてくれたのか、津太郎に一歩だけ近付いてから微笑みつつ一輝に買ってもらった事を教えてくれた。


「え、そうなのか?」


 まさか一輝がこのフリフリのドレスを選んで買ったとは思わなかった津太郎は驚きながら横を向く。


「うん。 とはいってもこの服にしたのはちょっとした事情があるんだけどね」


「ちょっとした事情?」 


 事情という言葉を聞く前はイノが好きそうだからという軽い気持ちで買ってあげたと想像していたが、一輝の真面目そうな表情を見るに、どうやら違うらしい。


「ごめん、事情についてはちょっと話せな──」


「話していいよ、お兄さま」


 一輝が申し訳なさそうに断ろうとした瞬間、イノが割り込んでくる。


「だけど……」


「もしかしたらこの世界の人なら大丈夫かもしれないし、いつまでも言わないでこの不安を抱えたままじゃ何か嫌だもん。 それにお兄さまの信頼してる人を私も早く信用出来るようになりたいんだ」


 心配そうに見つめる一輝とは裏腹にイノは穏やかな目をしていた。 それはもう「安心して」と言わんばかりに。


「──分かった。 なら津太郎君にも教えるね」


 イノの決心を受け止めた一輝は軽く頷くと、今度は津太郎と視線を合わせてくる。


「イノがこの服を着てるのは好んでるからじゃなくて、肌の色を誤魔化す為なんだ」


 そして津太郎に打ち明けた。 恐らくイノが後押しをしてくれなければ秘密にしていたであろう大切な事を。


「肌の色って……確かに顔を見た時、他の人と比べて少し白いなとは思ったけど……別に何もおかしくないというか、そこまで意識する必要はないような気もするが……」


「良かった、津太郎君からその言葉が聞けて安心したよ」


 安心したのは一輝だけじゃないようで、イノも胸を撫で下ろすかのように息を静かに吐き出していた。


「ん? 別に俺だけじゃなくて皆が同じ考えだと思──もしかして向こうの世界では違う……のか?」


「うん……向こうだと街中を歩いてるだけで周りから嫌でも注目を浴びちゃうんだ」


「な、何でだよ? 別に変じゃないだろ?」


「……実は、イノのような白い肌の人の事を『セント族』って言うんだけど、滅多に人前へ姿を現さない人達なんだよ」


(せ、セント族って何だ? 今まで一度も聞いた事ないぞ……)


 セント族という単語を耳にした後も津太郎は平然とした態度を取っているが、初めて聞く種族の名前に軽く混乱状態になっていた。


「滅多に姿を現さない……あ、そうか。 つい珍しくて見てしまうってことか」


 しかし話題が逸れないようにする為にも、ここは触れないでおく。


「そういう人も確かに沢山いたね。 でも珍しそうに見る人だけじゃなくて、セント族を付け狙う悪い人もいてさ、どうしてもイノを守る為に肌の色を誤魔化す必要があってね」


「つ、付け狙う……?」


 何やら物騒な単語が聞こえてきた津太郎はイノの暗そうな表情を見て只事ではないのを察した。


「セント族って膨大かつ高い魔力を持ってるから、この特性を狙ってるんだよ」


「なるほど……つまりその悪い奴らから少しでも肌の色に対する認識を遠ざける為にこの服を着てるって事か」


 このゴシックロリータ特有の派手さでなるべく顔から服へと意識させ、そして腕や足の部分は白い袖や長いスカートで隠す。 確かに肌の色を見せないようにする手段としては理にかなっているように感じた。


(だがセント族を狙うとか一体何をするんだ……まさか誘拐して魔力を吸い取るとか? 気にはなるけど、イノちゃんが目の前にいるのに聞くわけにはいかないよな。 話題的にも空気が重くなるのは間違いないし、とりあえず気にしないようにしよう)


 先程のイノの表情といい、付け狙うという物騒な言葉といい、少なくとも良い話題ではないのは確実だ。 わざわざ自ら見えてる地雷を踏み、後で後悔する前に引く事にする。 


「でも凄い魔力を持ってるって、例えばどんな事が出来るんだ?」


 だが流石にこれなら問題無いと思い、他に気になっていた事を一輝に聞いてみる。 今にも重くなりそうな雰囲気を変えるにも丁度良かった。


「えっとね、『空間魔法』や『次元魔法』といった高等魔法を使えるよ」


「くっ、空間魔法と次元魔法……!?」


 『空間』と『次元』──この言葉の響きだけで地水火風の四属性よりも高位であるのが伝わってくる。 


「も、もしかしてイノちゃんも使えるの……?」


 まさか子供は使えないだろうと思いつつも試しに質問をしてみたのだが、イノは黙ったまま一度だけ頷いた。 


(本気かよ……空間や次元を自在に操れるとかセント族ってとんでもない種族なんじゃ……って待てよ……次元ってまさか……!)


 自分より数歳しか歳が離れていないであろう小さな子供が常軌を逸した力を持っている事に、津太郎は無意識の内に生唾を飲み込むと同時に『次元」という単語で何かに気付く。


「──なぁ一輝……もしかしてこの世界と向こうの次元を繋いだのってセント族……なのか……?」


「……うん。 だから僕はイノと津太郎君を会わせる必要があったんだ」


「それってどういう……」


「実は繋いだのは……ここにいるイノなんだよ」

 

 一輝の口から出た言葉はこの異空間に来て一番の衝撃だった。、 

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