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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
六章

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過去と現在 その二十八

 食堂を抜け、玄関から見て左方向にある横幅が広い直線通路を歩いていると、等間隔に取り付けてある左側の窓から異空間の白い景色が嫌でも目に入ってくる。


(そういえば今って夜……なんだよな? ここってずっと明るいから今が朝なのか夜なのか分からなくなるぞ……)  


 それと同時に津太郎の中では今が夜であるという事を忘れてしまいそうな奇妙な感覚に陥っていた。 異空間の中に入ってから二十分前後が経過してこの全面が真っ白な光景に慣れてしまった分、現実世界では夜だという事を忘れてしまいそうになったのかもしれない。


(とりあえず夜だって事を意識してないと元の世界へ戻った時に時差ボケになりそうだ。 まぁ海外なんて行った事無いけど──ん?)


 ドアを抜ける前は『向こうは夜』と何度も念じようと決めた直後、右側に両開きの豪華な白いドアが目に映る。 この先はどういう部屋なんだろうと単純に気になった津太郎は訊ねる事にした。


「なぁ一輝、ここは何なんだ?」


 津太郎は立ち止まってすぐ隣にある扉へ指を差し、少し前で歩いて先導していた一輝に声を掛ける。


「えっ?──あぁ、ここは会議室だよ。 とはいっても最近は全然使ってないけど」


 すると振り返った一輝が津太郎の問いに答えた。


「へぇ、会議室なのか。 でもせっかくあるのに使ってないなんて何か勿体無いな」


「今は話し合いをするにもさっき居た食堂で十分だからね。 とはいえ今日の昼間に久しぶりに中へ入ってたんだけど」


「あー、確かに六人なら食堂で問題無いか──ん? 入ってた?」


「うん。 理由はまぁ後で分かるから、とりあえず向こうへ行こうよ」

     

「……? あ、あぁ、分かった」


 一輝がそう言うからには現時点で詳しく聞かなくとも時期がくれば教えてくれるのだろう。 そう思った津太郎は返事をして今はこの場を後にした。


 それからようやく話題として出す機会が出来た津太郎は一輝にキャンプ場の女の子が元気そうにしていた事を伝えると、「そうなんだ! 良かったー! 僕もそうだけどクリムもあの子の事はあれからどうなったのか凄く気になってたから教えたらきっと喜ぶよ!」と、心の底から嬉しそうにしていた。


 話が終わった直後、長い一本道が終わって右の曲がり角を通過すると先程よりは短めの直線通路が目に映る。 床や天井は同じ造りだが左右の壁の至る所に部屋へ繋がるドアがあり、光を照らす窓が無く、そのせいで他の所と比べると薄暗い。

 ドアの横を通過する度にこの部屋の中が一体どうなっているのか気にはなるが、一々聞いていてはキリがない上に待たせている人にも申し訳ない。 そう感じた津太郎は何も聞かず歩いていたら一輝は急に立ち止まる。


 位置的には中央辺りだろうか。 通路の左側には鉄で作られたであろう重厚な両開きの大きな灰色の扉が設置されていた。 どうして立ち止まったのか聞く必要は全く無かった。 何故なら周りにドアが無く、それでいて一輝は左側を見つめていたからだ。    


「中に入るけど大丈夫ー!?」


 一輝が声を掛けた後に扉を軽く三回ノックすると金属の衝撃音が周りに響く。


「いいよー!」


 それから間もなく扉の向こう側から元気で明るく活発な、それでいて幼げな声が返ってきた。 入る許可を貰った一輝は右扉の棒状の取っ手を掴むと、軽々と引っ張って扉を開け、「津太郎君、先に入っていいよ」と言い、津太郎に扉の中へ向かうように誘導してくる。 


「……!? あ、あぁ、分かった」


 先に入っていいのかという躊躇いはあったものの、ここで足踏みをするような事をしていては一輝に迷惑が掛かると思い、心の準備は出来ていないが急いで扉の先へ足を踏み入れる。


「な、何だここ……」


 扉の中──正方形の広い部屋の中は異様な光景だった。 フローリングされたかのような綺麗な木製の床。 晴天を想像させる明るい水色の壁と天井。 この水色の壁にはチョーク、またはクレヨンらしき物で落書きが描かれており、太陽や人の姿等々、様々な絵が確認出来る。

 左側の壁際には見るからに頑丈な鉄の箱がいくつも並べられ、右側には津太郎の腰辺りまでの高さの丸い窯が置かれている。

 他にも色々な物があるが、何よりも気になったのは真正面にある巨大な窯と、木製の踏み台の上に乗ってその窯を細長い木の棒でかき混ぜている金髪の少女の後ろ姿だった。


(魔女じゃない……よな……? あれは──何でかき混ぜてるんだ? ていうかあの壷みたいなのは何なんだあれ?)


 次から次へと頭に浮かぶ疑問の数々。 ここに来て再び未知の領域へ踏み込んだ事により、一つの謎が二つ、三つと更なる謎を生み続けてしまう状況に陥っているようだ。


「おーい! お客さんだよー!」


 立ち尽くしたまま呆然としていると背後から一輝の声がする。 振り向くと扉を閉めた一輝が後ろに立っていた。


「はーいっ!」


 勢い良く返事をした金髪の少女は手を止め、木の棒を窯の中に放置したまま踏み台からゆっくりと降り、床へ着くと同時に振り返る。 その表情は声や雰囲気から感じた印象通りの明るい笑顔だった。     

  

「あっ! この人がシンタロー!?」


「そうだよ。 こっちに来て挨拶してくれる?」


「うんっ!」


 一輝がお願いすると少し離れた場所にいた少女は急いで駆けつける。 だがその間も笑顔を絶やす事は無かった。


「はじめましてシンタロー! わたし、カナリア・フラソールっていうんだー! よろしくねー!」


 正に太陽のように眩しく輝かしい笑顔を見せてくるカナリアの髪の色は煌めく金色で髪型はツーサイドアップ。 瞳の色もまた黄金を錯覚させる美しさで、子供ならではの無邪気さも合わさった可愛らしい少女だ。

 身長は一輝よりも大分低い百四十二センチメートルで、身体付きは全体に細い。

 服装は膝下までの長さの黄色のワンピースで、足元は白の靴下に茶の革靴と全体的に非常に身軽な見た目をしている。


「こちらこそ宜しくね、カナリアちゃん」


 津太郎は左膝を床に着けてから背筋を伸ばし、カナリアと視線を合わせてから挨拶を交わす。 ただ、年下という事もあって他の三人と比べると気持ち的には楽そうに感じているらしく、カナリアに釣られて津太郎も笑みを浮かべる。


「カナリアは色々な道具を作る事が出来る錬金術士なんだ」


「れ、錬金術士!?」


 横にいた一輝の説明を聞いた津太郎は『錬金術士』という単語に驚愕する。 まさか創作物でしか存在しない職業が実在していたというのと、まだ小学生ぐらいにしか見えない少女がその錬金術士だったからだ。


「ようこそ! カナリアのアトリエへっ!」

  

 カナリアは自信満々に両手を目一杯広げ、この部屋──アトリエを津太郎に見せつける。    

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