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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
六章

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過去と現在 その二十七

「お~っ! 今の反応出来るなんてやるじゃ~ん!」


 リノウは脚を高く上げたまま平然と話す。 常人であれば保つ事さえ出来ないこの構えで疲れを微塵も感じさせないのは、尋常ではない身体能力の高さの表れだろう。


「でーもっ──」


 そして横向きだった足の向きを踵が下になるように変えてゆっくりと降ろし、津太郎の頭上手前で寸止めする。


「実戦だったらこれで終わっちゃうけどねー♪」  


 言い終わった後、満足したリノウは脚を自分の元に寄せて膝を内側に折り畳み、音を立てず床に着けた。


「危ないではないかっ! 何を考えているっ!」


「まぁまぁ落ち着きなよクリムー。 ボクが知りたかったのはシンタロウ君の身体能力や反射神経だったんだけどさー、こういうのって聞いても分かんないから実際にやった方がすぐに分かっていいじゃん? だからこうやって試してみたわけ!」


 背を向けて怒鳴るクリムに対し、リノウは怯える事なく頭の後ろに両手を乗せて普段通りお気楽に接する。


「でもちゃーんと首の真横で止めるようすっごい手加減してたんだよー? 本気でやってたら途中で止められないからねー」  


「あ、あはは……まぁ手加減したとかそういうのは置いといて、津太郎君を驚かせたのは事実だし、謝った方がいいんじゃないかな?」


 一輝は優しい声でリノウに謝罪をするよう促す。 当てる当てない、試す試さない関係なく悪い事をしたのなら詫びるのは当然の事だ。 一輝の言い分は正しいといえる。


「はーい。 えーっと、驚かせちゃってごめんね!」


 てっきり我儘や駄々こねるかと思いきや、そのたぐいは一切せず、リノウは既に立ち上がっていた津太郎に対し、右手を垂直に構えたまま謝罪の言葉を掛ける。


「ま、まぁ驚きはしたけどもう気にしてないから安心してくれ。 それより……さっきは一体何をしたんだ?」


 津太郎はリノウだけでなく他の三人にも腹を立てるといった負の感情を抱いていない事を理解してもらう為、何ともないような態度を取る。


「今のはねー、八仙紫陽花流の一つ『首刈くびかり』だよっ! 相手の首を刈り取るように体重を掛けて蹴るんだ!」


「なるほど──って、くっ、首……? 顔じゃなくてか?」


 格闘技でいうハイキックみたいなものかと納得しかけたが、当てる部分が違う事に違和感があった。


「だって顔より首の方が圧倒的に脆いしさー、へし折るのは失敗しても神経の束を損傷させる事が出来るんだよー♪ そっちの方がお得じゃん! まぁ当てにくいっていうのが欠点だけどねー」


「えっ、あ、おう……」


 そのまま続くリノウの説明にどういう反応すればいいか困った津太郎は言葉を詰まらせてしまう。


(な、何かやたら物騒じゃないか……? 色んな所に道場があって入門生も沢山いる筈なのにこんなヤバそうな技なんて教えるか普通……? とはいえ俺の中の……いや、この世界の常識が通用しない複雑な事情があるかもしれないから余計な口を挟むのは止めておこう……)  


 八仙紫陽花流の謎は深まるばかりだが、これ以上はまだ足を踏み入れてはいけない気がして何も聞かないでおく事にした。


「でも大抵の人が気付かないボクの首刈に反応出来るなんて本当に凄いよ! もしかして誰かに鍛えてもらってたとか?」

 

「……!」


 リノウに問われた直後、津太郎の頭の中で巌男と山に籠り、自然に囲まれた所で手合わせをした時の記憶が蘇る。 苦い、辛い、逃げたい、控えめに言って良い思い出ではないが、その時の経験が今に生かされたのだろうか。


「ま、まぁ一応ちょっとした護身術を教えてもらった事はあったな」


「誰に誰にー!?」  


「そこまでだ、ショウカ。 いつまでも話していてはシンタロウが次の所へ行けないだろう」


 津太郎へ目を輝かせて迫り寄ってくるリノウにクリムが割り込んでくる。


「そうだね。 カナリアとイノも待ちくたびれてるかもしれないから、もうそろそろ移動した方がいいかも」


 一輝はゆっくり立ちあがり、席から離れると津太郎の元へ向かう。


「えーっ!? もっと話そーよーっ!」


「何を言っている、他の二人とはまだ顔を合わせてすらしていないのだぞ。 まずは挨拶を優先すべきだ」


「貴方は大事なお客様であるシンタロウ様へ危害を加えるような真似を致しました。 このような危険行為を行なった方に我が儘を言う資格はありません」


「うっ!──わっ、分かったよー……遅くなり過ぎたらおチビちゃんが後でグチグチ文句言ってきそうだし、シンタロウ君に迷惑を掛けたのは事実だもんね〜……今回は大人しく引き下がりまーす」


 痛い所を突かれて反論が出来なくなったリノウは後ろへ下がり、自分の席へと戻る。


「珍しく素直だな──まぁ、いいか。 それよりカナリアはいつもの所、イノは二階の自分の部屋にいるぞ。 どちらからでもいいが早く行ってあげるがよい」


「うん、分かった。 じゃあ……まずはカナリアの所へ向かおうかな。 反対側の案内も出来て丁度いいし」 


「ここで待ってるより面白そうだからボクも行こっかなー♪」


 二人のやり取りを見ていたリノウは再び立ち上がると、一輝の元へ寄って中腰の姿勢になり、下から上へと甘えた表情で覗き込む。


「いけませんよリノウ。 貴方にはここでやるべき事があります」


「やるべき事ってなにさー?」


 リノウは中腰のまま首だけ横へ向け、コルトに内容を聞く。


「先程のシンタロウ様への危険行為に対しての処罰です」


「えぇぇぇぇっ!? それについてはさっき謝ったじゃぁぁんっ!」


 まさかもう終わったと思っていた事を掘り返されたリノウは慌ててコルトの側に駆け寄って泣きつくように腹部へ抱きついた。 


「謝罪と処罰とでは話が別ですので」


 しかしコルトは密着されようが泣きつかれようが表情も態度も微動だにしないまま、目も合わせず淡々と話す。 

 

「そんなぁ、せっかくさっきもこれ以上怒らせたらヤバいと思って大人しく言う事聞いたのにーっ! これじゃあ意味がないよーっ!」


「やけにあっさりと引き下がったのはその為だったのか……全く、相変わらず悪知恵だけは働くな」


「え? それって褒めてる?」


「そんな訳無いだろう!」


「──という事ですので、イッキ様とシンタロウ様は私達については気にせずカナリアの所へ向かって下さい」


 クリムとリノウが漫才のような会話をしている最中、コルトはすぐ隣で起こっている事なんてまるで眼中に無いかのように男性陣へ優しく微笑む。 


「そ、そうした方がよさそうだね、あはは……じゃ、じゃあ行こうか、津太郎君」


「お、おう……えーっと、そ、それでは皆さん、失礼します……」


 互いにここを今すぐ離れた方が良さそうだと察し、踏み止まろうともせず食堂から出る事にする。


「朝ご飯抜きだけはいやだぁぁぁぁぁあっ!」


「ではイッキ様以外の全員分の洗濯物をリノウ一人でやって頂きましょうか」


「それはもっとやだぁぁぁぁぁあっ!」


 リノウは幼稚園児のように叫ぶ。


(俺は本当に気にしてないんだけどなぁ……でも余計な口を挟むとややこしくなりそうだからリノウには申し訳ないけど何も言わないでおこう……)


 津太郎と一輝が食堂から離れた後も、リノウの駄々こねた叫び声はしばらく聞こえていたという。 

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