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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
六章

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過去と現在 その二十五

 津太郎の番が終わり、次はクリムが質問する事になったのだが、その内容はスマートフォンを持っているかどうかだった。 事情を聞くと、どうやら一輝の幼馴染みである坂地千秋さかちちあきが使っているのを見て、津太郎も所持しているかどうか気になったようだ。


 それから津太郎がポケットに入っているスマートフォンを取り出すと、見せる前にこの異空間の中は電波が通るかどうか確認する為に液晶画面を覗いたのだが、やはり完全に隔離された空間というだけあって左上に『圏外』という文字が表示されていた。


 確認が済んだ後、待ち遠しくしているクリムに手渡したら「おぉ……」と目を輝かせながら画面を指で突いたり、耳に付けて「チアキはこうして誰かと会話してたぞ」と電話をする素振りをして遊んで満足すると、津太郎にお礼を言って返す。


 だが自分も欲しくなったようで、錬金術で作ってもらおうと提案するが一輝に「流石にこれは無理なんじゃないかな、それっぽい箱だけなら出来そうだけど」と否定され、津太郎にも「中身が色々と複雑過ぎて機能しないかと……」と、遠回しに作ろうとするのを止める。


 するとクリムは露骨に残念そうな態度を取るも、「そうか……それなら仕方ないな……」と潔く諦める。 そして話が終わると同時に手土産のジュースを冷蔵保管庫に持っていく為、クリムが出てきた所の先にある食堂へと向かう。


(ここで一輝達は食事を取っているのか……)


 床や壁は廊下と同じ造り、同じ色なのだが、中央に見える長方形の大きな木造テーブルが置かれており、上には一面全てを覆う程の純白のテーブルクロスが敷かれている。 そして左端から右端まで等間隔に白のクッションが嵌め込まれた手摺てすり付きの椅子が三つずつ、向かい合わせになるように並んでいる。   


(まるで高級レストランだな……)


 クリムの後ろにいた津太郎は家の中を見れば見るほど自分の住んでいる家とは次元が違うのを思い知らされながら歩いていると、食堂の奥にある調理場の方から誰かが出てきた。


「げっ!──や、ややや、ヤッホーッ!」


「後ろに隠した物は何だ、リノウ」


 慌てて両手を背中の方に回して何かを隠し、ぎこちない笑顔で誤魔化そうとしてたのはリノウ・ショウカだった。

 紫髪のツインテールと紫の瞳、無邪気さが似合う可愛らしい童顔で身長は一輝と同じぐらいだ。 しかしお腹周りは細いのに胸部と臀部でんぶは豊満と、女性であれば誰もが羨む妖艶ようえんな体型をしている。

 服装は至る所に金色の見開いた花の刺繡が施された紫色のチャイナ服で、スリットから見える太ももが色気を更に増していた。


「えっ!? や、やだなぁ、なっ、何もモッテナイヨー。 ちょっと手を組んでるダケダヨー、ホントダヨー……!」  


 リノウはそう言いながら調理場の方へとゆっくり後ずさりする。


「もう気付かれているのだから正直に白状しろ。 さもなければ何かしらの罰を受ける事になるぞ」


「うっ!──分かったよもうっ! いつまでも向こうで話してて来ないから退屈だしお腹空いてたし今ならバレないと思って食べようとしたんだよー!」


 圧を掛けられ、怒りながら取り出したのは一口だけかじった丸いパンだった。


「駄目だよリノウ、こんな時間に食べちゃ……あっ」


 一輝が優しく注意をした直後、リノウは食べかけのパンを全て口に放り込むと頬を膨らませながら全力で噛み、急いで飲み込んでしまう。 その様子を見たクリムは「全く……」と呆れ、コルトは「明日の朝食のパンを一枚減らしておくとしましょうか」と呟いていた。


「ぷはー! 美味しかったー! でもパン食べたら喉が渇いたな~──って、丁度いい物があるじゃ~ん! それちょーだーい!」


 リノウはパンを食べて満足した後、クリムの持っている飲み物に欲しそうな声を出しながら指を差す。


「駄目に決まっているだろう。 すぐそこに水道があるのだから水でも飲んでくるがよい」


「ちぇー、でも手が汚れてるから洗いたかったし、水でもいっか」


 人の意見に反抗もせず、素直に受け入れたリノウは鼻歌を歌いながら調理場へ戻っていく。 


「あのようなみっともない姿をお見せしてしまって申し訳ございません。 普段は──いえ、普段と変わりないですね、リノウは……」


 コルトは津太郎に頭を下げた後、何とかリノウの悪い印象を払拭しようとしたがすぐに諦めた。


「き、気にしないで下さい……! それに普段と一緒という事は、いつも通りに過ごしてるっていう証拠じゃないですか。 むしろそっちの方がこっちも助かるというか……」


 津太郎は首と右手を横に振り、本当に気にしていないような素振りを見せる。


「気を遣わせてしまってすまないな。 とりあえず我らは手土産を調理場へ持っていくからシンタロウはここへ座って少し休んでいてくれ」


 クリムがすぐ近くにある椅子を後ろへ引き、津太郎に座るよう促す。


「いや──はい、分かりました、お言葉に甘えさせて頂きます」


 最初は断ろうとしたが、せっかくの心遣いを遠慮するのは失礼だと感じてクリムに持っていたペットボトルを渡し、左端の椅子に座ると他の三人は調理場へと向かった。


(──本気で疲れた……色々あり過ぎたから座って休ませてくれて正直助かった……)


 津太郎は疲れを出すかのように息を吐き、無意識の内に気張っていた全身の力を抜く。 食堂側からは見えない調理場から賑やかな声が聞こえるものの、少しでも休憩したいという気持ちの方が強く、今の津太郎には内容まで把握する余裕は無かった。 


(でもさっきスマホ見た時に時間見たらテントを出てからまだ一時間も経ってなかったんだよな……あまりにも濃すぎるだろ、この数十分……)


 実はクリムに渡す前に玄関でスマートフォンを確認した際、意図せず時計を見てしまった時があったのだが、想像以上に時間が進んでいなかった事に愕然としていたらしい。 変に反応して余計な時間を取らせないよう、玄関先では我慢していたようだが。 


「やぁやぁやぁやぁ、お待たせしちゃってごめんね〜♪」


 津太郎がいい加減この状況に少しは慣れないと頭が持たないぞと考えていたら、リノウを先頭に四人が戻ってくる。


「ちょーっと挨拶するの遅れちゃったけどー、ボクの名前はリノウ・ショウカっていうんだ〜♪ よろしくねー、シンタロウくーん♪」


 そして他の三人が調理場の前で立ち止まったのに対し、リノウは津太郎の前まで近付いてテーブルの上に座り込み、目を合わせると同時に左目でウィンクをする。


「よ、宜しくお願いします……」


 先程まで見向きもされなかったのに何の前置きもなく急接近された事に心の準備が出来てなかった津太郎は、緊張しながら挨拶を返した。


「そんな堅苦しい話し方なんかしなくていいってー! イッキ君と同い年ってことはボクとも一緒なんだからさー、敬語なんて辞めてもっと気さくに話しかけてよー!」


「えっ、同い年?」


「そうそう! だから遠慮とかしないでさ! なんなら呼び捨てでも全然構わないから! ていうか同い年の男の子に『さん』付けとか『ちゃん』付けで言われるのイヤだからそっちの方が助かるかも!」 


「わ、分かったよリノウ。 こんな感じでいいかい?」


 ここまで言うなら本当に他人ぶった対応されるのが嫌だと察し、リノウの指示に従う事にする。


「う~ん、まだちょーっと堅さは抜けてないけど……とりあえず今はこれでいっか!」


 要求を飲み込んでくれた事に満足したリノウはテーブルから降り、向かい側の椅子に座る。


「よーしっ! 気軽に話しやすくなったところでこれから一問一答の時間に入るんだけどさー、ボクに何か聞きたいことってあるー?」


 次にリノウが背後に体重を掛けた状態で頭の後ろに両手を乗せたまま話しかけてきた内容は、他の二人同様の親睦を深める為の質問についてだった。

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