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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
六章

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過去と現在 その二十二

 一輝に言われてようやく転移した事を自覚した津太郎は、まだ暗闇に目が慣れていない状態で月の光を頼りに辺りを確認する。


(本当に……一瞬で移動したんだな……)


 上に見えるのは白の天井ではなく、星々が見える美しい夜空。 周囲は細長く狭い通路ではなく木々が至る所に生えている広々とした平地。 間違いなくシャワールームではなく山の何処かだった。


(瞬間移動だから一瞬なのは何となく分かっていたが……あっという間過ぎてどういう感覚なのか全く分からなかったぞ……)


 転移する瞬間がどんな感覚なのか──昔から気になっていた事ではあったが、何かを感じるどころか気付かない内に終わってしまい、あまりの呆気なさに何とも言えない気持ちになる。

 もし誰かに転移する瞬間はどんな感じなのかと聞かれたら、手術前に全身麻酔を掛けられたと思ったらいつの間にか病室にいたような感覚だと、今の津太郎なら答えそうだ。


「ん!?」


 いつまでも転移魔法の事ばかり気にしても仕方ないと考え、気を取り直して後ろへ振り向くとそこには中に物干し竿が置かれてある木製の小屋と、立ったままの状態で保持されている洋風のドアが斜め前にあった。 まだ暗闇に目が慣れておらず、薄っすらではあるが見間違いでないのは断言出来る。


「あれが前に言ってた異空間に繋がるドアだよ」


 津太郎の向きや反応から何に驚いたのか察した一輝はドアを指差しながら言う。


「そ、そういえば俺の家でそんな事言ってたな……じゃあこの中に異世界の人達がいるというわけか──何かまた緊張してきた……」


 一輝が初めて家に来た時に軽くそういう説明を聞いた事を思い出す。 そしていよいよ異世界からの来訪者達とのご対面に心臓の鼓動が早くなる。


「大丈夫。 皆とっても優しいし、津太郎君が来る事を教えたら凄く喜んでたから張り切って歓迎してくれるよ」


「な、ならいいんだが……」


 それから一輝とペットボトルを三本ずつ分け合った後、ドアに向かって歩き始める。  


「今更聞くのも何だが、どうして俺はさっき転移した時に一輝と逆の方を向いてたんだ? もしかして前からこういう現象って普通に起こってたのか?」


「……あー、確か仲間の一人が転移する瞬間なのに動いてて変な方向に向いてたっていう出来事があったから、多分だけど同じ現象が起こったんだと思う。 でも万が一、魔力の暴走っていう場合も有り得るから何か動いたっていう心当たりがあるなら教えてくれるかな?」


「──実は俺もシャワールームからいなくなる直前に『心の準備をさせてくれ!』って言おうとしてちょっとだけ動いたから、魔力の暴走とか関係無く俺自身が原因だ──なっ!?」


 津太郎が話している最中にドアの前まで到着した。 しかし──、


「なっ、ななっ、な、なん……だ……ここ……」


 目の前に広がる光景に、先程までの会話の流れが断ち切られ、同じ単語を連呼してしまう程の衝撃が津太郎を襲う。 だがそれも当然だった。 何故ならそのドアの先には上下左右、四方全てが白一色に染まり、果てしなく続く幻想的な空間が広がっていたからだ。


「まぁこの空間を見たら驚くよね。 僕も初めての時は口が開きっ放しだったよ」


 一輝が涼しい表情で過去の話を語るも、津太郎が驚愕していたのはそれだけではなかった。


「そっ、それに家……! 家とは聞いてたけど……! こっ、これは家っていう大きさじゃ……ないだろ……!」


 実はもう一つ原因があり、それは奥の方に見える巨大な建物だった。 前から知っていた津太郎も頭の中で何度か思い描いていたが、浮かぶのはゲームやアニメでよく見る洋風な見た目の大きな家。 しかし異空間の中にそびえ立っている横幅の広い建物は想像を遥かに超えた大きさで、驚きを隠せないのは仕方ないともいえる。


「えっ? 確かにちょっと大きいけど……そんなに驚く程かな?」

 

「い、いやいや! ちょっとで済むってどういう事だよ! こんなのもう屋敷だぞ屋敷! 貴族の住む家!」


 先程と変わらない表情の一輝に対し、津太郎はドア越しに家を何度もペットボトルを持ってない右手で指差す。


「あ、ほんとだ。 言われてみれば貴族の人が住む家だここ。 昔から住んでるから全然意識してなかった」


「えぇ……」 


 一輝の発言に呆気に取られた津太郎は、今までの衝撃も重なってどういう反応すればいいか分からず言葉が完全に詰まってしまった。





   ◇ ◇ ◇





 その後、一輝が躊躇なくドアを通ると津太郎が続くようにして異空間の中に入ろうとする──が、ドアを通る前の最初の一歩がなかなか出ずにいた。 しかし一輝の「大丈夫だよ」という後押しのおかげで踏み入れる事が出来た。


「うわ……何かこう──上手く言えないけど……凄いな……」


 津太郎はあらゆる世界から隔離された空間の独特な雰囲気に思わず呟く。 異空間の中は暑くもなく寒くもなく、それでいて特に息苦しさも感じない。 明るさはというと今まで暗闇の中にいた分、白一色の景色に最初の方は少し目を細めていたが慣れると普通に開けても平気になった。

 足下の硬さはあれど滑り止めの効いた滑らかな床は、例えるなら透明なフローリングの上を歩いているようだ。

  

(ヤバい……もう聞きたいことだらけ過ぎる……)


 この空間は一体何処まで広がっているのか、どうしてドアを開けたらここに繋がっているのか、そもそも今いる異空間はこの世界、一輝達が異世界とは全く別の次元にあるのか、何でこの中に家があるのか──頭の中で様々な疑問が浮かび上がってしまう。


(多分、聞けば教えてもらえるんだろうが──駄目だ、気になるからって質問していたらそれだけで時間が無くなるし、キリがない。 とりあえず俺から訊ねるのは止めておこう)


 聞けば聞くほど掘り下げかねない、それに今やるべきことは質問攻めではない──気にならないといえば嘘になるが、己の中の探求心を抑える事にした。  


「──あ、しないとは思うけど一応言っておくね」


 それから気持ちを切り替えた津太郎があまり遅い時間まではいられない事を伝えた後、家まで残り半分という所で一輝が何か話題を振ってくる。


「ん? どうした?」


「実はここ、どれだけ広いか僕達も全然分からないからさ、遠い所に行かないで欲しいんだ」


「いやいや言われなくても行かないって。 でも──あくまでも仮の話だが、もしここから離れたらどうなる?」  


「多分、一体何処にいるのか分からなくなって彷徨さまよい続けることになるかも。 何も目印とか無いし」 


「確実に離れないよう腹に巻くロープを持ってきてくれ」


 そういう冗談を言っている内に一輝達の家、もとい拠点へと到着した。


「──近くで見ると改めて大きいっていうのを実感するな……」


 思いっきり顔を見上げなければ屋根が見えない程の高さ、首を全力で左右に向けないと端が確認出来ない広さのレンガ造りの赤い立派な家。 下手すると自分の通っている高校の校舎と良い勝負なんじゃないかと津太郎は思い始める。


(中は一体どうなってるんだろ……やっぱり豪華な装飾なんだろうか……)


 津太郎が家の内装を想像していたその時、目の前にある両開きの木製の立派な扉が突如として静かに開いた。


「な、何で急に……!? もしかして自動ドアなのか……!?──って、えっ!?」


 そして何の事か分からず慌てている内に姿を現したのは──、


「お初お目にかかります、シンタロウ様。 わたくし、イッキ様に仕えるコルトルト・ブルーイズと申します」


 一輝の仲間の一人であるメイドのコルトルト・ブルーイズだった。 

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