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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
六章

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過去と現在 その十九

 その後、空が徐々に暗くなり始めて辺りの視界が悪くなる。 無論、この周りに街灯のような明かりを照らす物は存在せず、下は小石だらけで不安定な足場だ。 もしも姿勢を崩して転倒でもしたら痛いどころでは済まない可能性もあり、危険だと感じて引き返す事にした。

 

──七分後、すぐ戻る決断をしたおかげで完全に暗くなる前にキャンプ場へ辿り着いた二人は斜面を上がると、その場で少しだけ一息つく。 この時、津太郎は夜だったら危なくて散歩どころじゃなかったと感じ、夕方で本当に良かったと思っていた。

 

 軽い休憩をしていると斜面の上にいた男性が遠くの方から「おーいっ! 約束通りすぐ戻って来てくれてありがとなーっ!」と手を大きく振りながら大声を出してくる。 もしかすると二人を見送った後も無事かどうか気に掛けていて、何事も無く戻って来た事を安堵しているのだろうか。 とりあえず津太郎は男性と目を合わせてから小さく手を振り、笑顔で頭を下げ、このキャンプ場を後にする。


 そして来た道を辿るようにして歩き、ようやく自分達のキャンプ場へ着くも、出発する時に比べて空はすっかり暗くなっていた。


「ふぅ……」


 栄子が津太郎にも聞こえるぐらいの溜め息を漏らす。 ただ、このように疲れた態度をハッキリと見せるのは珍しいようで、津太郎は内心驚いていた。


「大丈夫か?」


 疲れた様子を見て心配になった津太郎が栄子に話しかける。


「だ、大丈夫だよ」


 栄子は頑張って平気そうに見せるが、声に若干ながら覇気が無い。


「今日は朝から慣れない事をして一日中動き回ってたんだ、疲れて当然だ。 だから疲れを取る為にも早めに寝た方がいいと思うぞ」


 津太郎は痩せ我慢してる栄子に気を遣い、少しでも早く休むよう説得する。


「……うん、そうする……でも教見君は大丈夫なの?」


 すると休んで欲しいという意思が通じてくれたようで、栄子はすぐに承諾した。 ただ、津太郎も自分動揺に疲れているのか気になり、体調について尋ねてくる。


「俺は前からキャンプに慣れてるし、それにさっきテントにいる時にちょっと仮眠を取ったから平気さ」


 実は栄子との散歩に出掛ける前、疲労困憊の状態で眠気も限界だった津太郎は寝るなら今しか無いと思い、テントの中で仮眠──という名の熟睡をしていた。 数時間後には一輝の家に行くのだ、疲れを少しでも取っておこうと考えるのは普通だろう。 


「そ、そうなんだ……私も仮眠してれば良かったかな……それかキャンプに備えて体力付ければ良かった……そしたら教見君に心配される事も無かったのに……」


「気にするなって。 来年のキャンプに備えてこれからゆっくり頑張ればいいじゃないか。 さっ、今はもうテントに戻ろう」


 ここでいつまでも立っていては栄子の残り少ない体力は削られる一方だ、そう思った津太郎は急いでテントに向かおうとする。


「……もう終わっちゃうの、寂しいな……」


「寂しい気持ちは分かるが、それだけ今日のキャンプが楽しかったって事じゃないか。 中には疲れただけでもう二度とやりたくないって人もいるんだから、そういう風に考える事が出来る栄子は本当に凄いぞ」


「え、えっと……そういう意味じゃないんだけど……」


「あれ? 違うのか? じゃあ寂しいってどういう意味──」


「と、特に深い意味は無いから! 気にしなくても大丈夫だから!」


「お、おう……なら、まぁ……戻るとするか」


 それから二人がテントまで無事に戻ってくると大人四人がシートの上で雑談をしていたのだが、彩が川辺の散歩について早速聞いてくる。 栄子はあまり乗り気ではなかったが話すまでは解放してくれなさそうなので津太郎が簡潔に済ませた。

 その後、巌男が「皆、今日は疲れただろう。 少し早いが、そろそろ寝るとしようか」と言うので全員が指示に従い、寝る前の支度をして挨拶を交わすと、それぞれテントの中に入る。





   ◇ ◇ ◇





 家族全員がテントに入ってから、ある程度の時間が経過した後──、


「──何かさっきと比べて周りが静かになってきた気がする……」


 一人用のテントの中で横になっていた津太郎は少し前と比べて外が静かになったように感じ、身体を起こす。


「ちょっと外を見てみよう」


 キャンプ場が暗くなったのかどうかを確認する為、津太郎は出入り口のドア代わりとなる部分のファスナーを下から斜め上へ曲線を描くようにゆっくりと動かし、音を鳴らさず両目で覗ける所まで開け、指でテントの生地を引っ張る。

 そして外を眺めると所々にはまだランプの明かりが点いているものの大半は消灯しており、人の姿は全く見えなかった。


「これだけ暗くなったら一輝も駐車場へ向かっているかもしれない。 俺もそろそろ行くか」


 一輝がこの時間帯に山の上からキャンプ場を見ていると信じて、津太郎は中途半端な所で止めてあるファスナーを静かに開け、ジーパンのポケットにスマートフォンと財布が入っているのを確かめて外に出る。 


(音を立てないよう慎重に歩かないと……)


 これだけ静まり返っていると芝生を踏む音すら響いてしまい、すぐ隣にいる清水一家や両親に聞こえてしまう可能性がある。 なので自分達のテントから離れるまでは綱渡りをしているかのようにして歩く。 傍から見れば何をしているんだと思われても仕方ないが、バレない為にもやらざるを得なかった。


(ここまで来たらもう大丈夫だろ)


 ある程度歩いた後、後ろに振り向いてテントとの距離が大分離れた事を確認すると普通に歩いても問題無いと判断し、普通の速度で歩き始める。

 昼間や夕方とは違い、足音や虫の鳴き声しか聞こえない程の静けさの中、月明かりだけを頼りにして歩いて辿り着いたのは──何故か管理棟だった。


「まぁ何も持って行かないよりはマシだよな……」


 津太郎は管理棟の前にある自動販売機でペットボトルのジュースを買っていた。 どうやら管理棟へ来たのは一輝達へ手土産を持っていく為らしい。 やはり人の家へお邪魔になるのにせめてジュースの一つぐらいは持っていかないと失礼だと感じたのだろう。


「しまった……何か袋を持ってくればよかった……手だけで六本持っていくの結構大変だぞこれ」


 六本目のジュースを買って取り出した後に両手の指に挟む形でペットボトルを持つも、この状態で駐車場まで行くのは大変だという事に今頃になって気付く。 しかし今からテントに戻るぐらいならこのまま駐車場へ向かった方がマシだと思い、指の疲れや痛みを我慢しながら管理棟を後にする。 

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