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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
六章

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過去と現在 その十四

 一輝が津太郎の歩いていった道を辿るようにして管理棟方面へ向かうと、まず手前にある水場へ到着する。 黒色の屋根に四隅が茶色の柱で支えられている水場は隣り合わせにするようにして二つあるのだが、一輝からはまだ大きなゴミ箱しか見えない。


「津太郎君、何処にいるんだろう? とりあえずあの大きな建物に行けばいいのかな?」


 津太郎がどの辺りにいるのか全く見当が付かない一輝は周りを見渡す。 だがこの場には全く人の姿が確認出来ず、ここにはいないと判断して一つ目の水場を通過しようとした。


(この中ってこうなってたんだ。 建物自体は山の上からでも見えてたけど、屋根のせいで中がどうなってるのかよく分からなかったんだよね)


 ただ、せっかくここまで来たのにそのまま素通りというのも勿体無いので、並べられた銀色のシンクを眺めながら歩きながら一つ目を通過する。


(こっちはどうなって──あっ!)


 そして二つ目に差し掛かった所で見覚えのある人の姿を目撃し、一輝は足を止めた。


「よ、よう。 久しぶり……ではないか、ちょっと前に会ったばかりだし」


 そこにいたのは津太郎だった。 だが何故か奥側の隅の方へ隠れるようにして立っている。


「だけど思ったより早く来てくれたな。 やっぱさっきの電話が効果あったみたいだ」


「電話って──じゃあさっきあの人のスマートフォンが鳴ったのは……」


 一輝は水場の中に入りながら言う。


「そうそう、俺が管理人さんに電話したんだよ。 あの場所から離れた後、通り過ぎるの確認する為にここへ隠れてからな」


「管理人……?──あっ……あの人ってここの管理人さんだったんだね」 


 津太郎に言われて夫婦の側にいた男性がキャンプ場の管理人である事に気付く。


「でも凄い勢いでこっち方面に走っていったけど……」


 一輝は管理人が全力疾走して立ち去った事を津太郎に伝える。


「あぁ、実は腹痛で辛そうな人がいると言って向こうに誘導したんだ」


 津太郎は両親や清水一家のいるフリーサイトの方へ指を差す。 


「えっ、大丈夫なのそれ?」


「う~んまぁ問題無いだろ。 履歴は残るとは思うが俺の名前が分かる訳でもないし、一回ならイタズラ電話程度で済むんじゃないか?──ただ、一生懸命走ってる姿を見た時は胸がちょっと痛かったな……」


 一輝をどうにかする為とはいえ、管理人を不安にさせたり迷惑を掛けるような行動をしてしまった事に対し罪悪感を抱いているようだ。


「──それより一輝があんな人だかりの中心にいたなんて本気でビックリしたぞ。 周りの人が助けたとかどうとか言ってたけど、何があったんだ?」


「あー、あれはね……」


 それから一輝は川辺で起こった出来事を簡潔に話す。


「なるほど、それであそこにいたのか。 色々と大変だったな」


 事情を聞いた津太郎は腕を組んだまま三回頷く。


「あはは……でも無事に済んだから良かったよ──それにしても長期休暇で何処かに行くとは聞いてたけど、ここに来てたんだね」


「ま、まぁな。 とはいってもいつの間にか決まってたから俺がここにしようって選んだ訳じゃないんだが──ってヤバい。 父さん達を待たせてるのすっかり忘れてた……」


 津太郎は巌男達に連絡してないのを思い出した後、一輝に「待たせてる?」と聞かれたので、どうしてあの人だかりへ駆け付けたのか説明する。


「……それは確かに早く戻らないと家族の人達が心配するね」


 一輝は説明を聞いて納得はしているものの、声に若干低くなったように感じた。 恐らくだが、自分のせいでキャンプの邪魔をしてしまった事に対し申し訳ないと思っているのかもしれない。 


「──心配してるかどうかは分からないけど、まだ一回も連絡してないからそろそろ痺れを切らせて父さんが電話してくるかもしれないな!」


 事情を話した事により、一輝が謝罪してくると察した津太郎は先手を打つようにわざと冗談っぽく言い、気にしていない素振りを見せる。


「それなら今からでも電話した方がいいんじゃ?」


「いや、もう戻るのに電話しても意味無いと思うから止めとく。 というかせっかくこうやって会えたのにすぐ別れるとか勿体無いよな。 もうちょっと時間があれば近況を話す事が出来るのにさ」


「──じゃあ、もしよかったら僕達の家に来る?」


「え?」


 まさかの一輝からの申し出に津太郎は戸惑いを隠せなかった。 今まで津太郎の方から約束したり来てもらう事はあっても、一度もこうして誘われた事は無かった分だけ衝撃の反動が大きかったのだろうか。 


「ど、どうしてまた急に?」


「いっつも行ってばかりだと申し訳ないし、たまにはこっちに来て話し合いをするのも悪くないんじゃないかと思って」


(多分、いや間違いなく緊張でそれどころじゃなさそうなんだが……)


 家の中には異世界から来た、学校の運動場で見た五人がいる──その環境で落ち着いて話し合いが出来るとは、とてもじゃないが思えなかった。


「それに……話し合い以外にもう一つ理由があるんだ」


「もう一つ?」


「──実は仲間の皆に話そうと決めてる事があるんだけど、津太郎君にも聞いて欲しくてさ」


 この時の一輝は確かに落ち着いていた──だが、その真剣な目付き、微動だにしない表情、淡々とした口調から話の内容が只事ただごとではないというのが嫌でも伝わってくる。 


「な、何か凄く大事な話のような気がするが……いいのか? 俺なんかが一緒で?」


「うん。 むしろ知って欲しいんだ……友達として」


「……分かった。 正直言うと俺も前から一輝の家には興味あったし、お邪魔させてもらうとするか」


「良かった……断られたらどうしようかとちょっと不安だったんだ」


 安堵した一輝は軽く息を漏らす。


「だがこの山を登るのは大変そうだな……」


 津太郎は目を閉じ、右手の人差し指を顎に当ててキャンプ場の下から見た高くそびえ立つ山を想像する。


「登るなんてしなくていいよいいよ! 凄く荒れてて危ないし、僕が転移魔法で山に連れて行くから!」


「それは助かる──って魔法!? えっ!? いいのかよ!?」


 まさか魔法を使ってくれるとは思っていなかった津太郎は驚きや興奮のあまり大声を出してしまう。 ただその後、我に返った瞬間にとある不安要素が頭に浮かんだ。


「──あっ、でも魔力の暴走は大丈夫……なのか?」

   

 その不安要素とは一輝が魔法を発動させる時、低確率で意図しているのとは異なる現象を引き起こしてしまう魔力の暴走の事だった。


「あの山とキャンプ場だけなら大丈夫だと思う。 実は何回か使ってる内に一つ仮説が生まれてさ」


「仮説?」


「まだ断言は出来ないんだけど、僕の記憶との結び付きが強い場所になればなるほど、転移魔法の成功確率が高くなってる気がするんだ。 その証拠に山への転移魔法は今まで一度も失敗した事無いし」


(つまり……この山は一輝にとって強烈で忘れもしない出来事を起こした場所だからそれだけ成功しやすいって事か。 少なくともこの辺りなら信用してもいいかもしれないな)


 津太郎は一輝から聞いた事を自分なりにまとめ、自分なりの答えを出す。


「それなら大丈夫そうだな。 じゃあ宜しく頼む」


 やはり多少の恐怖はまだあるものの、どちらにせよ一輝の家に行くには転移魔法を使うしかないのだ。 ならばここはもう腹を括るしかなかった。


「うん、任せて。 でも家に来るのはいつ頃にする?」


「いつ頃……」


 津太郎は一言だけ呟いた後、数秒間だけ考えているような素振りを見せて口を開く。


「もし一輝が良かったら、今日の夜でもいいか?」 


 そして津太郎が発した言葉は、まさかの今日だった。

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