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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
六章

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過去と現在 その十二

 クリムと別れた後、二人は川沿いの道を歩いてキャンプ場へ向かっていたのだが、その最中に一輝は女の子から質問攻めに遭っていた。 ただ、女の子の立場からすると、あの短期間の間で様々な事があったのだからそういう流れになるのが自然だろう。 クリムがいた時に聞かれなかった方が不思議なぐらいだ。


 ちなみに質問の内容は『二人はどういう関係なのか』『クリムは何処へ行ったのか、どうして髪はあんなに赤いのか』『あの大きな武器は何』といったもので、どれも小学生らしく興味津々に聞いてくるのを一輝は不信感を抱かれないような返答をしてやり過ごす。

 

 そして話題が尽きないまま十分が経過した頃、長い直線の先にコンクリートで出来た軽い斜面が確認出来る。 ここからでは横に見える木々のせいで全貌は分からないが、数十メートルに渡って横一面に広がっているのは間違いなさそうだ。


「あっちだよー! あっちあっちー!」


 斜面を見つけた途端、女の子は疲れた様子も見せずキャンプ場方面を指を差した後に走り出す。


「元気だなー……」


 小学生特有の体力に感心した一輝は女の子の速度に合わせて後ろから付いていく。


(ん……?)


 走り始めた時は川の流れる音や風に揺れる木の音しかしていなかったのだが、キャンプ場へ徐々に近付くにつれて誰かが叫んでいるような声が耳に入ってくる。


(やっぱりキャンプ場だから沢山の人で色々と盛り上がってるのかな?)


 最初はそう思っていたが、更にキャンプ場辺りまで接近すると聞き取れなかった言葉がハッキリと分かった。


「おーいっ! どこにいるんだーっ!」


「いたら返事してーっ!」


「お前らはあっちを頼むっ!」


「やっぱり管理人を呼んだ方がいいんじゃないかっ!?」


 明らかに誰かを探す際に使う言葉だった。 そして一輝はこの状況をすぐに理解した。 キャンプ場では現在、必死になって色んな人がこの子を探しているんだと。


(両親からしたら自分達の子供が突然いなくなったんだから必死になって探すのは当然だよね……母さんも僕がいなくなった時はこんな感じだったのかな……)


 不意に自分がいなくなった時も同じだったのかと考えてしまったが、気持ちを切り替えてキャンプ場へと向かい、コンクリートの緩い斜面を登る時は一応滑ったり落ちたりしたら対応出来るよう女の子を先に行かせ、一輝は後から続く。 


「ついたー!」


 先に登り切った女の子が元気良く声を出した後、一輝が斜面を乗り越えて足を踏み入れた先にある光景は広大な芝生と色々な所に設置されてあるテントだった。 山から見えるキャンプ場とは木々の配置こそ違うが、他は代わり映えしていない。


「おとうさんとおかあさんはどこかなー?」


 女の子は首を左右に動かして両親を探していた──が、その時、


「おーいっ! あの子じゃないかーっ!?」


 と、約二十メートル離れた正面にいる男性が一輝達の方へ指を指しながら大声で叫び始めた。 すると男性の声に反応した遠い所にいる人達が一斉に川方面へと身体を向け、そのまま走ってくる。


「なになになにっ!?」


 数人の大人達が急に迫ってくるこの展開に理解が追い付かず、女の子は軽く混乱していた。


「君の名前は祐実ゆみちゃんで合ってる?」


 数秒後、二人の元へ来た大人達の内、茶髪でピアスを耳に付けた若そうな強面こわもての男性が話しかけてきた。


「うんっ!」


 女の子──もとい、祐実は強面にも怯える事無く元気に頷く。


「……! やっぱりそうだっ! いやー、良かった……! 見つかって良かった……!──君がここまで連れて来てくれたのか?」


 男性は気が抜けるような溜め息を吐き、まるで自分の子供が見つかったかのように安堵した後、一輝の方に顔を向けて訊ねてくる。


「は、はい。 向こうで偶然この子と会いまして、それで危ないと思ったのでここまで連れて来ました」


 一輝は川方面を指差しながら説明する。 本当なら今すぐこの場から立ち去りたかったが、質問されてしまっては正直に答えるしかなかった。


「そうだったのかっ! 君のおかげで祐実ちゃんが無事に戻って来たよ! 本当にありがとうっ!」


「ど、どういたしまして──えーっと、じゃあもう大丈夫そうですし、僕はこれで失礼しま──」


「いやいやっ! 祐実ちゃんの両親もきっと君に感謝の気持ちを伝えたいと思うからこっちに来てよ!」


 男性がそう言うと周りからも似たような事を言い始めてしまい、断りにくい雰囲気が出てしまう。


「……は、はい、分かりました」


 この流れで拒否し、砂利道を戻っていく姿を見られるのはそれはそれで不自然かつ怪しまれるのではと思った一輝は立ち去るのを諦める。

 それから男性の指示に従い、「お父さん達はあっちにいるから」という事で白色の屋根と青色の壁の立派な建物の方に数人で向かっていたのだが、三分程歩いた所で真正面から成人らしき三人の走っている姿が遠くから確認出来た。 


(もしかしてあの人達が?)


 一輝は遠くにいる人達を凝視していると、祐実が真正面に指を差した。


「あーっ! おとうさんとおかあさんだーっ!」


 どうやら一輝の予想通り、両親で合っていた。 すると向こうも祐実の声と姿に気付いたようで、急いでこちらに向かってくる。


「祐実ーっ!」


 父親らしき若そうな黒髪の男性が目の前まで近付いてくると、娘の名前を全力で叫ぶ。


「祐実っ! 祐実ーっ!」


 父親の隣にいる同じく若そうな茶髪の母親もまた、今にも泣きそうな声で娘の名前を呼ぶ。


 そして両親が祐実の元まで行くと人目を気にせず抱きしめ、泣きながら何度も何度も安堵の言葉を吐き出す。 するとこの光景を見た人達は一体何が起こったのか、無事に見つかった事を確認したいのか、それぞれが様々な理由を抱いて集まってくる。


「あの……誰が祐実をここまで……? それとも一人で戻って来たんですか……?」


 父親が祐実から離れると、立ち上がって一輝達に気になる事を聞いてくる。


「──いえ、この青年が祐実ちゃんを川の方からここまで連れて来てくれたんですよ」


 あまり答えたくない一輝は自分から返事はしなかった。 しかし僅か数秒の沈黙の後、先程の男性が一輝の右肩を叩いて答えてしまう。 バラされたからにはもう「は、はい」と言うしか無かった。 


「あ、貴方が……!?───本っ当にありがとうございますっ……! ありがとうございますっ……! もう感謝してもし切れませんっ……! このご恩は一生忘れないです……!」


 父親は震えた声で一輝に感謝の気持ちを数え切れないぐらい伝えてくる。 娘が無事に戻って来たという事実、娘がすぐ側にいるという現実の喜びは何事にも代えがたいだろう。    


「あのねあのね! おにいちゃんとおねえちゃんがね! わたしをたすけてくれたの!」


 抱きついたままの母親に対し、興奮気味の祐実は川岸で起こった出来事をいきなり話し始める。 もしかするとあの体験は自分の中でちょっとした冒険となり、母親に語りたくて堪らなかったかもしれない。


「えっ、この人が助けてくれたって……もしかして川の中に入ったの……?」


 祐実の言葉を聞いて動揺した母親は身体を離すと両肩を持ち、不安そうに訊ねる。


「うん! それで流されちゃったの!」


「それって溺れたって事じゃない……! あぁ……本当に……うちの娘を助けて下さってありがとうございます……! 貴方は命の恩人です……!」 


 母親は座った状態で一輝に深々と頭を下げた。 見つけてもらうだけじゃなく、命の危機から救ってくれたともあれば感謝の度合いは計り知れないと思われる。


「いっ、いえいえっ、僕は当然のことをしたまでですから」


 とりあえず一輝はありきたりな言葉で返す。


(どうしよう……まさかこんな事になるなんて思わなかった……これ以上目立つ前にここから早く出ないと……)


 親子の再会自体は一輝としても本当に喜ばしい事ではあった。 だがそれとは別にこれから色々と追及されるのは辛いと思い、抜け道を探すのに顔は動かさず視線を左右に移動させて人だかりを見ていた。


──すると、


(えっ!? な、何で津太郎君がここにいるの!?)


 真正面を向いた途端、人だかりの一番奥にいる津太郎の姿が目に映った一輝は驚きを隠せなかった。

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