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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
六章

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過去と現在 その二

「一人でも男手が欲しいでしょ?」


 津太郎達へ親しげに話しかけてきた孝也の見た目は髪型が薄茶色のセンター分け、身長は津太郎よりも高い百八十センチメートル。 四十手前にも関わらず無駄な脂肪の無い細身の体型で、爽やかな雰囲気同様に整った顔立ちは二十代と間違えられてもおかしくない程に若々しい。

 服装は黒シャツに青のジーパン、履き慣れたと思われる黒のスニーカーだ。


「えっ、いいんですか?」


 一人でも助っ人が欲しいと思っていた津太郎にはとてもありがたい言葉だった。


「勿論だよー。 じゃあ行こうか」


 孝也が話している途中でシェルのスライド式ドアが開き、中から二人の女性が出てきた。


「ちょっとちょっと孝也さ~ん。 車の中でじっとしてるなんて嫌だし、私達も手伝うわよ~──あっ、二人共、おはようございま~す」


 最初に現れ、笑顔で手を振って来たのは孝也の妻であり、栄子の母親の清水彩しみずあやだった。 黒い髪を結ったおさげが似合うおっとりとした女性で、孝也と同じく四十手前の筈なのに栄子と姉妹と思われるぐらい若く見える。

 服装は黒シャツに薄手の長袖白ジャケット、薄茶色のスラックスに靴は底の部分が白で足を覆う部分が緑のアウトドアシューズだ。


「お、おはようございます……」


 そして次に少し緊張しながら現れ、車から降りた後に頭を下げたのは清水夫婦の娘である清水栄子しみずえいこだ。

 髪型は腰辺りまで伸ばした黒髪のロングヘアーで、身長は津太郎よりも少し低いもののスタイルは良く、大和撫子という言葉が似合う美少女なのだが瞳や発言、雰囲気は何処か自信無さげに感じる。

 服装は白のシャツに若干分厚い緑色のジャケットを着ていて、青のジーパンに黒のアウトドアシューズを履いている。

 

「おはよう彩君、栄子君。 今日から二日間、宜しく頼むよ」


「巌男さん、お久しぶり~♪ こちらこそ宜しくね~♪」


「宜しくお願いします……!」


 巌男が笑顔で挨拶すると、目の前の女性二人が返事をする。


「津ちゃん、栄子は初めてのキャンプだから色々とサポートしてあげてね♪ あ、もし良かったらずっと二人っきりにしてあげよっか?」


「いいねそれ! 採用!」


 彩が謎の提案をすると、孝也が右手で指をパチンと鳴らしながらその意見に乗っかってくる。


「採用じゃないから! もうっ!」


 だが栄子は軽く怒りながら二人の意見を即座に否定した。 こういうやり取りも、互いに冗談と分かっている仲の良い親子だからこそ出来るのだろう。


「フフッ、家族の仲が睦まじいのは良い事だ。 では、皆で作業に取り掛かるとしようか」


 巌男がそう言って後ろへ振り向いてから歩き出すと、他の四人も指示に従って付いていく。


「でも栄子にこういう作業させていいのかな……? 栄子だけでも車の中でゆっくりさせた方がいいんじゃ?」


 津太郎は隣に並んでいる巌男へ小さな声で話しかける。 前に比べれば多少暑さが和らいだとはいえ、この炎天下の中で栄子に力仕事をさせたくないと思っているのだろう。


「他の皆が何かしている中、栄子君だけ何もさせないのは寂しい思いを抱かせるだけさ」


「そうなの?」


「あぁ、周りから楽しげな声が聞こえているというのに、一人だけ車の中にいるのは孤独感というのを嫌でも感じるものだ。 やる気がある者なら尚更な」


「言われてみれば……確かに……」


「確かに気を遣うのは大事だが、時には気を遣わない事も大事というのを覚えておくといい」


「うん、分かった」


 巌男の説明を聞いた津太郎は納得した様子で軽く頷くと、そのまま家の中へ向かう。  ただ、巌男には言わなかったが心の中で「やっぱ父さんには敵わないな」と呟いていた。


 その後、清水一家が玄関先で待っていた美咲と挨拶を交わすと、それから効率良く作業を進める為に荷物を車まで運ぶ係、そして持って来た荷物を車の中に詰め込む係に分かれる事となった。

 しかし女性陣だけだと力仕事が大変になってしまうという事で、運ぶ係は巌男、孝也、美咲。 詰め込む係は津太郎、栄子、彩の三人ずつのグループに決まると、すぐ行動に移る。


「あの、彩おばさん。 車の中って一体どうなってるんですか?」


 津太郎は荷物の箱を一つ運びながら栄子と並んで前にいる彩へ質問をする。


「それはもうすっごいわよ~! 凄すぎてほんとすっごいんだから~!」


 彩が後ろへ振り向き、そのまま歩きながら返答するが内容からは『凄い』しか伝わってこない。


「それだけだとよく分からないような……」


「後は見てのお楽しみってことで──じゃあ開けるわね~! オープン!」


 話している内に三人が車まで着いた後、彩が真っ先に中を見せてあげようとスライド式ドアを右手で掴み、勢い良く開ける。


「すっげぇ……」


 車の中を一言で表すと、そこはまるでホテルの一室のようだった。


 横長の大きな窓のすぐ隣には折り畳み式の四角いテーブルと、向い合せになるよう置かれた二人まで座れる横幅の広い高級感漂う純白なソファー。 通路を挟んだ逆側にも同じソファーが縦向きに設置されていて、この空間だけで六人が快適に暮らせそうだ。 

 運転席の手前には小さなハシゴと、その上には三、四人は横になる事が出来る程の空間が広がっていた。


「凄いでしょ~? あとね、入り口からは見えないけど後ろの方にはちょっとしたキッチンとか冷蔵庫もあるんだから~」


 荷物の重さも忘れて車の中を覗いていた津太郎に横から彩が自慢げに声を掛けてくる。


「えっ!? マジですかっ!?」


 本当なら荷物を降ろして今すぐ中に入り、奥の方を確認してみたかったが流石にそれどころではないと思い、何とか堪えた。 


「ほんとほんと~。 もうこの車の中だけでキャンプ出来ちゃう──」


「お母さん! お父さん達が来たよ!」


 二人の会話に栄子が割り込んでくる。 その後に津太郎が右側を見たら、確かに巌男と孝也が道具を持ってくる姿が確認出来た。


「あらあら、やっぱり大人三人掛かりだと家から荷物を出すの早いわねぇ。 じゃあ津ちゃん、こっち来て」


 彩の指示に従い車の後方まで付いていくようにして歩く。

 どうやら彩の目的は後方右側にある一メートル程、縦長の長方形の形をした大きなドアのようで、スラックスのポケットから銀色のカギを取り出すと、枠の中の上と下の二箇所に備え付けられている黒の鍵穴に差し込んで回し、ロックを解除する。

 そしてカギを引き抜いた瞬間に黒の取っ手が出てきたので、彩が引っ張るとドアがゆっくりと開いた。


「ここがトランクルームだから、荷物はこの中に入れてね~」


 トランクルームの中は全体的に白く奥行きのある広い空間となっており、これなら大抵の荷物は入りそうだ。


「分かりました」


 津太郎はそう言って早速中へ入り、一番奥にずっと持っていた頑丈な四角い箱を置く。 そして外へ出たら父親二人組が車のすぐ側に来ていた。


「ふむ……頑張れば全部詰め込めるかもしれないが、あまり入れ過ぎると欲しい物を取り出す時に不便そうだ」


 津太郎が出た後、巌男はトランクルームを観察するように見ながら言う。


「じゃあ運転席の上のベッドルームも荷物置きに使うかい? あそこなら広いから小道具とか置くには丁度良いと思うよ」


「そうだね、それが良いかもしれないな。 では調理器具といった軽い物はベッドルームに置く事にしようか」


 孝也の意見に巌男が賛同して荷物の置き場所について決まった後は、全員がそれぞれの役割を果たして効率良く車の中にキャンプ道具が次々と積まれていく。 途中からは玄関先に置かれている物が全て無くなったという事もあり、六人掛かりで作業をしたおかげであっという間に積み込みは完了した。


「──よし、ちゃんと鍵も閉めたわね」


 キャンプ場へ出発する準備が済んだ後、美咲が最後の最後に玄関の鍵を施錠したかどうかの確認する。 そして入念に確かめて安心、満足してから急いで車の中に入った。


「それじゃあ皆、出発するよー! 思い出作りのキャンプへ向かってレッツゴー!」


 運転席でハンドルを握った孝也が場の空気を盛り上げる為にそう言うと、キャンピングカーは発進する。


 一輝にとっては七年前から始まった物語の、津太郎にとっては三ヶ月前から始まった物語の──因縁の地へ。    

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