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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
五章

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それぞれの一歩 その六十六

「……誰かに騙されてたりとか意味不明な言葉を掛けられたとかそういうのは無いから安心してくれ」


 小織からの意見を聞く前にやらなければいけない事は、不信感から生まれた疑問を解消する所からだった。 やはり一輝について隠しながら話を進めようとすると、どうしても疑問が浮かんだり誤解が生まれるのは仕方がない。

 津太郎としても小織に昨日から肝心な点を話さず混乱させてしまっているのは申し訳ないと思っているが、今はもうこの状態を貫くしかなかった。


「じゃあさっきの質問はどういう意図があってしてきたのよ」


「意図と言われても──特に深い意味は無いんだよな。 ただ月下ならどう答えてくれるんだろうって思っただけで」


「意味は無いのにあんな長々と……教見、もしかして何か隠し事とかしてないわよね?」


 小織の鋭い視線からの問いに津太郎の心臓が僅かに跳ね上がったような感覚がした。


「する訳ないじゃないか」


 動揺はしていた。 だがすぐ答えなければ怪しまれると思い、平然とした態度で返事をする。


「……はぁ、でも疑ってばかりじゃキリがないし、このままだと後味悪くなりそうだからそういう事にしときましょうか」


 この流れが続くと下手したら言い争いになってしまうと察したのだろうか、意外にも小織の方から折れる。 ここに住んでいる小織からすれば、もし揉め事になったら次の日から周りの住人から変な目で見られるのは自分なのだ。 恐らくそういう面倒事も避けたいのだろう。


「それよりさっきの質問に答えて欲しいのよね? まぁアタシだったら警察に頼むわよ。 それが一番手っ取り早いもの」


 その後、小織は何事もなかったかのような態度で自分の考えを言う。


「あー、なるほど警察か。 凄いな月下は」


 津太郎は澄ました顔で言っているが、本当は申し訳ない気持ちで一杯だった──が、ここで変に表情を崩して疑われない為にも、今は何ともないようなフリをしてやり過ごすしかなかった。


 そして納得したような態度を取っているが、小織の意見は既に初めて一輝と家で話し合いをした時に既に出ていた答えだった。 この世界で暮らしている者であれば誰もが真っ先に思い付く答えなのだから、このように被ってしまうのは当然ともいえる。


「全然凄くないわよ。 というかこれで終わり? 他に質問は?」


 津太郎の誉め言葉を否定すると、次はもう無いかどうか聞いてくる。 ただ、冷静さは装っていても、何処か自棄やけになっているように感じる。


「他に?──えっと、じゃあ、そうだな……」


 最初の時みたく乗り気ではない事は明らかだったのは流石の津太郎も感じ取っていた為、質問には答えてくれないだろうと思っていた。 そして聞かれてから数秒後、何か思い付いた津太郎は口を開く。


「それなら、沢山の人から注目される方法って何か無いか?」


 次に小織へ聞いた質問の内容は一つ目と違って非常に単純で分かりやすい内容だった。 回りくどい言い方を止めたのはもう疑われているのを十分理解しており、遠回しに言うだけ無駄と感じたからだろう。


「注目される方法……? そうね、テレビにでも出たら日本中の誰からも注目されるんじゃない? それか配信者にでもなれば世界中の人が見てくれる可能性ワンチャンあるかもね」


 小織は若干投げやり気味に言う。 このような態度を取ってしまうのは津太郎が何か秘密にしている事を話してくれずに苛立ってしまっているからなのだろうか。


 だが──、


「……!? さっき何て言った?」


 津太郎は小織の発言の何処かに引っ掛かる所があったらしく、不満そうな態度を気にする事無く今にも接近しそうな程の勢いで食い付いてくる。 そして合わせた視線は外す気配も無かった。


「さっきって……テレビに出たらってこと?」


「違う、その後!」


「その後は──配信者になったらって言ったけど……」


 急に詰め寄ってくる津太郎に小織は苛立ちよりも焦りと緊張の方が増してしまい、思わず視線を外してしまう。


「配信……!」


 津太郎はそう言った後、小織から少し離れて顎辺りを右手で軽く触れながら考え始める。 ちなみに小織はというと、急に近寄られた事による緊張感から解放されて胸を撫で下ろしていた。


(配信なら翔子さんに一輝がこの世界に帰ってきたのを教える事が出来るんじゃないか……!?)  


 小織の言葉を受け、津太郎が思い付いたのは一輝に配信をさせる事だった。


(だってこの方法なら全世界に一輝の顔や声を届かせる事が可能なわけだし、翔子さんが何処にいても目に映る確率だって〇パーセントじゃない筈だ……! 警察や探偵に頼れないんだったら、もうこれしか無いだろ……!)


 自分に何の権力も、特別な力も、財力も無い事も分かっている津太郎は、もう配信しか一輝を見つけてもらう方法は無いと思い、腹を括る。


(よし、決めた! 色々と考える事は山積みだろうけど、どうにかして一輝に配信をさせてみせる! そして翔子さんに一輝の存在を教えてみせる!──でもその前に一輝本人がやるかどうかの確認が必要だから、考えるのはそれからだな)


 次の目標が決まり、やる気に満ちた津太郎はずっと見守っていた小織に再び近付く。 そして──、


「月下、本気で助かった」


 ありがとうの気持ちを込めて、小織の右手を両手で優しく握って軽く頭を下げる。


「!? なっ、なになになになにっ!? な、なんでいきなり手を、手を握ってきたのっ!?」


 突然の事に小織は顔を真っ赤にしながら慌てて手を離す。 ただ、驚きながらもマンションの住人に迷惑を掛けないという気持ちが働いたのか、無意識の内に声は建物に響かない程度の音量で抑えていた。 


「何でって、悩み事を解決してくれた月下に感謝してるからだよ。 ずっとどうしようかと思ってたから本当に良かった」


「……もしかしてさっきの質問も、その悩みを解消しようとして聞いてきたってわけ?」 


 顔がまだ赤い小織は両手をお腹辺りで擦り合わせながら言う。


「あっ、しまった……」


 手段が見つかった喜びからか、つい気が抜けて隠し事を漏らしてしまったのを今になって気付く。 


「──安心しなさい、別にその悩み事について追求なんてしたりしないから」


 一息ついて落ち着いた小織は困り顔の津太郎を見て、色々と聞かない事を約束する。


「いいのか?」


 普通は知りたくなるのが当然であり、ここから取り調べの如く質問攻めに遭ってもおかしくないのだが、助かるとはいえ自ら知る権利を手放すのがよく分からなかった。


「さっきまでは徹底的に聞きたくて聞きたくて仕方なかったけど、もうどうでもよくなったわ」


 小織はそう言いながら津太郎に握られた右手を見つめていた。


「えっ、何で?」


「アタシも追求しないんだから教見も追求しないでよ」


「うっ! それはまぁ、確かに月下の言う通りだな……」


 一切の反論の余地の無い言葉に津太郎は納得せざるを得なかった。


「それより、その……栄子にもさっきの悩み事って相談とかしてるの?」


 次に小織は後ろに手を組み、右足のつま先で床を軽く叩きながら聞いてくる。


「栄子に? いや、してないけど……」


 どうしてこんな事を聞いてくるのか尋ねたかったが、先程のやり取りもあってか何も言えずにいた。


「ふ~ん、なるほど」

 

 津太郎の返事を聞いて小織は足の動きを止める。 そして今度は小織の方から津太郎に詰め寄り、見上げるような形で見つめ、


「じゃあこれはアタシと教見だけの秘密ってことね♪」


──と、再び小悪魔的な笑みを浮かべながら言ってくる。


「秘密とか何か大袈裟なような気もするが……」


「嫌なら別にいいのよ? 栄子に教見からこういうこと言われたって話しちゃうから」


「すいません、秘密の方でお願いします」


 このやり取りを見るに少し前の重苦しい空気が何処へやら、いつの間にか普段通りの仲に戻っていた事に二人共気付いていなかった。

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