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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
五章

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それぞれの一歩 その六十

 その後、区切りも付いたという事でカラーコンタクトについての話は一旦終わりにし、改めて今後はどうするか二人が話し合った結果──、


『津太郎の家近辺で今から聞き込みをする』『一輝の家より更に離れた所で聞き込みをする』『情報提供の為にチラシを作る』等々、安易ながらも案自体は出る。 だが冷静になって考えてみると、正直言ってどれも効果的でないのでは?と判断し、勿体無いと感じつつも没になった。


「はぁ……やっぱ難しいな」


 話し合いを始めてから十分後。 津太郎は身体を支えるように両手を軽く広げて床に着け、天井がはっきりと分かる程に顔を見上げて溜め息を漏らす。 思うように進まない事に対し特に苛立ちや不満といった負の感情を抱いてはいない。 ただ、的確な意見を出す事の難しさに悩まされていた。


「うん……でも大丈夫? 何か疲れてるような気が……」


 一輝も痛感させられていたが、その後に津太郎の心配をする。 恐らく溜め息と姿勢、そして津太郎自身は分かっていないが若干ながら表情に疲れが出ているのに気付いて声を掛けたのだろう。


「ん? 俺が? いやいや全然疲れてないぞ?」


 津太郎は右手を振りながら疲労である事を否定する。 だが冷や汗が溢れ、吐き気がする程の緊張を短時間で二度も体験しているのだ。 その反動で徐々に疲れが表に出始めても何もおかしくはない。


(でもまぁちょっと気分転換にテレビを見るか)


 また空気が重くなる前に先手としてテーブルに置いてあるテレビのリモコンを手に取り、「息抜きにテレビでも見ようぜ。 この時間だからニュースばかりとは思うけど」と冗談を交えつつ電源を点ける。 そして一輝にも見えるようにテーブルの左側へ座ったまま移動する。


 するとテレビ画面の向こう側には黒のスーツを着た司会の白髪の男性と清楚な雰囲気を漂わせた黒髪の女性アナウンサーが左側にいて、大きなモニターを挟んで右側にはコメンテーターの三人が並んで座っていた。


「えー、そーれーでーはー! 野球特集は以上となりまーす!」


 その直後、司会者が笑顔を振りまきながらカメラ越しに明るく話しかけてくる。 どうやら野球に関するニュースが終わったようだ。


「──速報です」


 一瞬の間が空き、カメラが女性アナウンサーの切り替わると数秒前の明るい雰囲気から一変。 急にスタジオは静まり返り、空気が突如として重くなる。


「ん? 速報?」


 一体何があったんだろうと津太郎が食い付く。 


「昨日の午後三時からキャンプ場で行方が分からなくなっていた小学生の中田透なかたとおる君が無事発見、救助隊の人達によって保護されたようです」


 速報の内容は遭難していた子供が見つかったという誰もが聞いて安心する朗報だった。 しかし──、


(やべぇ……よりにもよってこのタイミングで……)


 津太郎は焦っていた。 偶然とはいえ、七年前に同じ目に遭った一輝もまたこのニュースを見てしまったのだ。 これがきっかけで過去の苦い記憶が蘇ってしまうのではと不安になってしまうのも当然といえる。


(だけどここでテレビの電源を消したりチャンネルを変えるのはマズイよな……さっき速報の言葉に反応しちまったし……)


 もし反応さえしなければ興味無い風を装って何とかなったかもしれないが、声に出してしまった時点で手遅れだった。 後はもう一輝が気にしない事を祈るしかない。


(何も喋らないけど今どんな顔してんだろ……)


 一輝の方へ試しに顔を向けてみたかったが、目を合わせると気まずくなりそうだと感じた津太郎はテレビから視線を外す事が出来なかった。


「──こちら現場となったキャンプ場なんですが、今から一時間程前に透君が無事に発見されたという事で、現場全体が安心に満ちた雰囲気に包まれております」


 津太郎が気にしてる間にもテレビの方は進行しており、今は広々としたキャンプ場と涼しそうな恰好をした若そうな男性アナウンサーが映っていた。 後ろには他のテレビ局の人達だろうか、大きなカメラを肩に背負った人やマイクを持った人が見えている。


 男性アナウンサーが言い終わると急に画面が事前に撮影していたVTRへと切り替わり、背景を映しながら発見までの経緯いきさつを話し始める。 そして説明が終了すると同時に次のVTRに変わるのだが、そこに映し出されていたのはインタビューを受けている最中の父親の姿だった。


「本当に……本当に……良かったです……! もうどれだけ心配したか……!」


 記者からの「今、どういうお気持ちですか?」という質問に対し、見た目的には三十代前半で茶髪の男性が今にも泣きそうな声で返事をする。


(一輝もこんな感じで見つかっていれば辛い思いをしなくて済んだんだろうな)


 既に終わった事に対して『もしも』なんて考えをしても何も変わらないと分かってはいるが、そう思わずにはいられなかった。


「あの険しい山の中から息子を見つけて下さってありがとうございます……! 一日以上、休憩もせずに山を一生懸命捜索してくれたキャンプ場のスタッフさんや救助隊の人達には感謝してもし切れないです……!  この恩は絶対に一生忘れません!」


 それから男性は気持ちが抑えきれないのか記者に向かって感謝の言葉を続けて言い、最後に頭を下げていた。


(でも見つかってよかった──ん? 息子を見つけて下さった……? 捜索してくれた……?)


 男性の感極まった姿を見て津太郎も安心した──が、その後に二つの言葉が不意に何か引っ掛かる。


(何だ……? 見つけて……探して…………)


 この言葉がきっかけで今にも何か思い付きそうな津太郎は考え込む。


(──そうかっ! これならいけるんじゃないか!?)


 そして数秒後、必死に考え抜いた津太郎の頭の中で案が閃いたようだ。


「一輝! こうすれば──って、どっ、どうした!?」


 今すぐにでも教えようと津太郎が後ろへ身体ごと振り向くと、そこには一輝が涙を流している姿があった。


「ご、ごめん……遭難してた子が無事に見つかったから……つい嬉しくて……」


 一輝は目元を右手で拭いながら言う。 彼の過去の境遇からすればこの小学生が自分と同じような悲惨な結末にならずに済んで良かったと思うのは当然の事であり、泣いてしまうのも無理はない。 


「もしかして……さっきからずっと黙ってたのは泣いてたから──なのか?」


「あはは……もし喋ったら声でバレちゃうかもと思って……」


 泣いている姿を見られて恥ずかしいと感じた一輝は照れ隠しとして笑っていた。 しかし津太郎はその姿を見ても一切からかったり冗談を言うなんて出来ず、黙っているしかなかった。 


「──それよりさっき何か言いかけてたけど……」


 津太郎の話を中断させてしまった事に気付いていた一輝は、もう一度だけ涙を拭って完全に拭き取った後、そのまま話しかける。 ちなみに遭難についての速報はここで終わり、他のニュースへと変わっていた。


「あ、あぁ、そういえばそうだったな」


 突然の事で危うく伝えようとしていた内容が何処かへ消えてしまいそうだったが、一輝に言われて何とか記憶を保ったまま踏みとどまる。 


「実は翔子さんについて一つ案が思い付いたんだよ」


「えっ!?」


 津太郎の言葉を聞き、一輝は家に来て今日一番の大声を出す。 あまりの驚きに少し前までの切ない気持ちが収まり、涙が完全に止まった程だ。


「そ、それってどういう……?」


 当然だがどういう内容か気になる一輝は津太郎に詰め寄りそうな雰囲気で聞いてくる。


「それはだな……一輝が翔子さんを探すんじゃなくて、翔子さんに一輝を見つけてもらうって事さ」


 津太郎が閃いた案というのは今までと真逆の発想だった。

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