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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
二章

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異世界からの来訪者達 その5

 その翌朝、空はもうすぐ梅雨が訪れる事を知らせるような黒い雲で隠されており、青の景色は全く見えないでいた。

 その暗く重苦しい雰囲気に包まれた光景は人を朝から憂鬱な気持ちにさせるだろう。


「──起きるか……」


 枕元に置いているスマートフォンのアラームで目が覚めた教見津太郎(きょうみ しんたろう)は、上体だけ起こした状態で止めるとベッドに再び横になる。


「はぁ……今日も学校って本気かよ……どんだけやる気満々なんだ」


 正直、昨日の事が原因で今日は休みと少しだけ期待していた津太郎だったが、学校側から連絡が来ずいつも通りの授業が決定してしまった。

 ただ、休みだったらそれはそれで色々と聞かれて面倒事になっていたかもしれないが。


 とにかく学校と決まったからには気持ちを切り替える為に身支度を整えるのに立ち上がる。


(というか学校としては休みにすると絶対に親からの連絡が殺到するんだろうな。 昨日はどうにか避難訓練で誤魔化せても、今日はどうして休みにするのかなんて皆が納得出来る説明とか難しすぎるし)


 それなら生徒に我慢して今日一日頑張ってもらおうという考えが教師側の方にはあるのかもしれない。

 どういう事情があるにしろ、今の津太郎がしなければいけない事は学校へ向かう準備であった。


 色々考えてしまって気が乗らないまま家でやる事を済ませようとしたせいで、普段より少し遅い時間に家を出る事になってしまう。




   ◇ ◇ ◇




 津太郎が清水栄子しみず えいこを迎えに行き、門扉もんぴの所で顔を見ると何か疲れているように見えた。

 やはり昨日の事でなかなか寝付けれなかったのだろうか──気になった津太郎は、学校へ向かって歩き始めてから聞いてみる事にする。


「もしかして……昨日はあまり寝れなかったか?」


「うん──あ、でも全然寝れなかったわけじゃないよっ。 ベッドで横になった時、学校で起こった事を思い出しちゃって……それでなかなか寝付けれなくて」


 沢山の人がいる学校では周りの声や雰囲気で気を紛らわす事が出来るが、とても静かで暗い部屋の中に一人でいると、どうしても色々と考えてしまうのだろう。


「どうしよう、また学校で同じような事が起きたら怖いな……って思ってたらどんどん気持ちが不安になっていく内に目も冴えて困ってたの……」


 栄子が昨日の夜にそこまで追い詰められていたとも知らず、完全に熟睡していた自分が少し恥ずかしいと津太郎は思ってしまった。


「マジか……それなら俺に電話でもしてくれればよかったのに。 誰かの声を聞いたらちょっとでも気が楽になるだろ?」


「うぅん、そんなの教見君に悪いよ──それにね、寝れなくて悩んでた時に小織ちゃんから電話が掛かってきたんだ」


「月下から? なんて?」


「私が不安になってないか気になって電話したんだって。 図星だったから驚いたけど……嬉しかったなぁ」


 栄子の顔から自然と笑みがこぼれる。

 寂しい、不安、恐怖──負の感情が入り乱れている時に突如としてスマートフォンから映し出された眩しい液晶画面は、まさしく暗闇の中に見える一筋の光と言えるだろう。


 電話を掛けた時間も〇時を過ぎていた為、会話自体も短めで終わったらしいが栄子にとってはそれだけでとても気持ちが楽になったという。

 深夜という時間帯や疲れが溜まっていたのもあるが、その通話がきっかけで終わった後はいつの間にか寝ていたらしい。


(月下は栄子をフォローしてやってんのに……それに比べて俺は何やってんだか)


 学校が休みにならないかどうかばかり考えていた昨日の自分を思い出し、心の中で溜め息を吐く。

 小織のおかげで朝から気分の良い栄子に比べて、空に浮かぶ黒い雲のように気分が暗くなりそうな津太郎であった。

 



   ◇ ◇ ◇




 二人が学校の見える所まで着くと、校門辺りには何故か生徒が集まっているように見える。

 チャイムが鳴り始める少し前の時間帯で、確かに登校中の生徒達が一番密集する時間ではあった──ただ、明らかにおかしいのは校門付近にいる生徒のほとんどがその場で足を止めている事である。


 周りにも生徒がいる為、足を止めるわけにもいかず前に歩き続けるが近付くにつれて大人らしき声が聞こえてきた。

 その声は一人だけではなく複数、更に罵声や怒鳴り声といった物騒なものであり、危険性を感じた津太郎は栄子の前に立って歩き始める。


 それから津太郎が後ろを向いて栄子の顔を見ると、やはりその表情は怖がっているように見えた。

 大人の怒りの感情丸出しの声が嫌でも耳の中に入るのだ、そうなるのも仕方がない。


(何か起こったらすぐに引き返すぞ……!)


 そう思いながら進み続けると、前方から何を言っているのかハッキリと聞き取れるようになってきた。


「おいっ! うちの娘が昨日この学校でとんでもない目に遭ったとか言ってたぞ! 何があったのかさっさと答えろよっ!」


「避難訓練とか絶対嘘でしょ! だったらどうして子供が今日は学校休むとか言い出すのっ! 意味が分かんないじゃない!」


「お前らじゃ話になんねえよっ! 校長呼べ校長をっ!」


「皆さん落ち着いて下さい! 周りにはまだ登校中の生徒達もいますから!」


「また後日、改めて説明致しますので……!」


「あまり騒がれますと近所の人にも迷惑になりますので、どうかお静かにお願いします……!」


 声の内容から察するに、どうやらこの高校の保護者達と教師が揉めているらしい。

 昨日の帰り際に校長が伝えた約束を守れず、親へ報告する生徒がそれだけいたという事だろう。

 ただ、あの出来事を経験しておいて何事もなかったかのように過ごせと言われても無理な人には無理だ。


 それから間もなく津太郎と栄子は緊張感を保ちながら校門に辿り着く。

──学校より外側にはサラリーマンらしきスーツを着た男性や私服の女性、お年寄りの夫婦、ジャージ姿の中年男性等々、年齢や服装がバラバラの人達が二十人以上はいた。


 逆に学校の内側には頼りなさそうな男性教師がたったの三人だけしかおらず、数の暴力に全く対処し切れずにいる。

 他には生徒を校内へ誘導する若い女性教師が両端に二人いるが、恐怖心や緊張からか表情や動きに余裕が無さそうに見えた。


 津太郎と栄子は近くにいる女性教師の手振りによる誘導に大人しく従って行動し、校門付近からすみの方を通って校内へ入ろうとした──が、集団の中にいるスーツを着た男性と栄子は目が合ってしまう。

 すると何を思ったのか男性は栄子の元へ一直線に向かい、女性教師の制止を気にもせず話しかけてくる。


「ねぇ君、ちょっといいかい? 昨日何があったのか学校に居たなら知ってるよね? ざっとでいいから教えてくれないかな」


「え……そ、その……」


 淡々と話しかけ圧力を掛ける男性に栄子は怖がって言葉を発せない。


「──すみません、この子も困っているので止めてくれませんか」


 津太郎は冷静に言いながら栄子を庇うように男性の前へ移動する。

 ただ、相手を刺激させないように敵意を示すような態度や表情をせず自然体のまま目を合わせた。

 周りの生徒からおもいっきり注目を浴びているが、今は全く気にならない。


「別にちょっと聞くぐらい問題ないだろう? 何を隠しているんだよ」


 話し相手が津太郎に変わったせいか男性の態度も変わったように見える。

 だがそれにも気にすることなく平然としたままやり過ごす。


「いえ、特に何も。 それでは失礼します」


 何か少しでも余計な事を言うと、そこを相手が狙ってまた色々と聞いてくる可能性があると思った津太郎は必要最低限の言葉だけを使う。


 二人のやり取りを見ていただけの女性が我に返ると再び誘導を始めると、このタイミングで津太郎は栄子を隠すよう真横に並んで歩く。

 男性はまだ何か言っているが二人は反応しないまま校内へと入った。


 それから少し歩き、二年生の校舎前まで歩くと流石に保護者達の声は聞こえなくなる。

 ここでようやく津太郎は警戒心を解き、おもいっきり息を吐く。


「──やっと静かになったな」


「うん……」


 しかしまだ完全に恐怖が抜けきっていないのか栄子は肩を震わせていた。

 この姿を見た津太郎は保護者達に対して少しだけ怒りを覚えたが、何とか堪える。


「もうそろそろホームルーム始まるかもしれないし、教室へ行くか」


 いつもの見慣れた光景を見たら栄子も少しは落ち着くと思った津太郎は、優しい口調で話しかけた。


「そう……だね。 あ、あと──さっきはありがとう……庇ってくれて」


 栄子は津太郎に頭を下げる。


「俺が勝手にやっただけなんだから気にしなくていいさ。 ほら、早く行こう」


 津太郎がそう言うと二人は教室へ向かった。


 この後にホームルームの始まるチャイムが鳴り始めると、校門付近にいた保護者達も自分達の予定の為に大人しく帰っていく。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 現実が異世界と接点を持ったらどうなるか…という点をシリアスに描いてて、実際にありそうな描写になっているのが良いです(こっちは基本ギャグで書いている反動からでしょうか…?)。
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