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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
五章

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それぞれの一歩 その四十三

「色々と振り回してしまってごめんなさい!」


  二人が腕を組んで壁にもたれ掛かったクリムの元へ行くと、一輝が「おまたせ」と言った後に千秋が頭を深々と下げて心から謝る。 この短期間で一度だけならまだしも二度も迷惑を掛けてしまい、罪悪感で胸が一杯になるのは当然かもしれない。


「──ん? 一体何の事だ?」


 クリムは軽く首を傾げてから数秒間だけ何の為の謝罪なのか考えたが全く分からず、呆然とした表情で千秋に尋ねる。


「いや、あの、さっきからお二人の前で色々とこう──泣いたり大声出しちゃったり動揺しちゃったりして、混乱というか困惑させてしまったというか」


 千秋の中では文句の一つや二つぐらい言われる覚悟をしていたのだが、クリムの呆けた発言に拍子抜けしてしまい、言葉が上手くまとまらない。


「あぁ、その事か。 久しぶりの再会だというのに覚えられていないと言われたら誰でも気が動転するものだ、別に気にする必要は無い。 それよりもイッキとこうしてまた出会えて良かったな」


 話の内容が理解出来たクリムは壁から離れて二人に近付くと、千秋を安らいだ目付きで見つめながら右肩を右手で軽く二回叩く。


「は、はい!」


 怒られるどころか逆に励まされてしまった千秋は気持ちが相当楽になり、元気よく返事をする。


「ねっ、だから言ったでしょ? 全く気にしてないって」


 クリムが手を離した後、一輝が千秋に親し気に話しかける。


「う、うん。 ほんとに一輝君の言う通りだったよ。 でもホッとした~」


 安堵した千秋は息を深く吐き出す。 余程安心したのか一輝に喋りかける声も明らかに重みも気も抜けていた。 


(ほう、向こうで何かあったかは分からぬが二人の間にあった心の壁が消えているな、良い事だ)


 クリムは一輝と千秋が仲良さそうに会話をしている事に気付くが、どのような経緯でこうなったのか聞くのは失礼だと思い、質問するのは止めておこうと決めた。


「あ、あの~、すみません。 お姉さんの名前を教えてもらっても──宜しいでしょうか?」


 一輝との会話が終わった千秋が少し緊張気味にクリムへ聞いてくる。


「我の名前?」


「はい、いつまでもお姉さん呼びというのも何か他人みたいな感じで嫌ですし……」


 千秋としてはどうやらクリムとも親睦を深めたいらしく、まずは名前を知る所から始めたいようだ。


「あぁ、勿論構わんぞ。 我の名前はクレナイ・レンだ」


 クリムは落ち着きを保ちながらも堂々と、そして誇りをいだくように自分の名前を言う──が、教えた名前は実際のとは違っていた。


(良かった、ちゃんと覚えてくれてた……)


 一輝はクリムが偽名を伝えた事に安堵する。 実は前からこの世界で万が一誰かに名前を聞かれた際の対応として日本人らしい偽名を考えておいたのだが、一輝はクリムが覚えているか、咄嗟に言えるかどうか不安だったらしい。

 ちなみに漢字で書くとくれないれんで、偽名を考えたのはリノウだ。 


「クレナイさんですね! 改めてよろしくお願いします!」


「あぁ、だがレンでいいぞ。 その方が格好い──じゃなく、呼びやすいからな」


 千秋が満面の笑みを浮かべてから軽く頭を下げた後、クリムが呼び方を訂正させる。 危うく本音を漏らす所だったが何とか抑える事が出来た。


「は、はい! それにしてもレンさんって本当に美人さんですね~。 身体付きも無駄が全く無いですし……凄く羨ましいです」


 挨拶が終わると、千秋はクリムの全身を改めて上から下まで羨ましそうな顔でじっくりと観察しながら言う。 


「べ、別に無理してそういう事を言わなくてもいいんだぞ?」


 ただ、べた褒めされたクリムもそこまで悪い気がしないようで、若干ながら頬が緩んでいた。


「無理してませんよ! だって初めて見た時は外国の人かと思ってたぐらいですし! きっとすれ違った人はレンさんの美貌に思わず見惚れてただろうなぁ」  


「えっ……? 外国の人?」


 千秋の口から出た予想外の言葉に思わず一輝の方が反応してしまう。


「うん。 同じ女性でも惚れ惚れしちゃいそうな程な綺麗で整った顔にモデルみたいなスタイル、しかも遠くからでも分かるぐらいの赤い瞳をしてるから勘違いしちゃってた」


「赤い瞳……」


 そう言われた一輝はクリムの顔をほんの一秒だけ見ると、すぐに千秋の方に視線を戻す。


「でも青ならまだ分かるけど赤の瞳のカラコンしてる人なんて初めて見たよ~」


「から……何だって?」


 当然だがカラーコンタクトの存在なんて知らないクリムは何の事かを知ろうと千秋へ尋ねる。


「カラコンですよカラコン。 ほらっ、レンさんも今付けてるじゃないですか」


 千秋がクリムと視線を合わせると右手の指を自分の目に近付け、これだというのを教えた。 


「……? 我は何も付けていないぞ?」


 二人がカラーコンタクトについて話している最中、一輝は考え事をしていたのだがここでようやく何かに気付く。


(そうか、何で通り過ぎる人がクリムを見てくるのかと思ってたら赤い瞳のせいだ……! 僕は見慣れててすっかり忘れてたけどこの世界の人──特に日本人からすれば赤いなんてどう考えても凄く目立つよね……髪の色ばかり意識し過ぎて瞳の色なんて全く気にしてなかった……)


 一輝はどうしてこの住宅街に来てから通行人の視線を異常なまでに感じていたのかをようやく理解出来た。 ただ、確かに赤の瞳が一番の目立つ原因ではあるものの、もう一つの原因としてクリムの美しさに思わず見入ってしまっていたというのもあったのだが、これに関しては気付いていなかった。


(でもそれならイノも言われてもおかしくなかったのに……もしかしてイノの場合は瞳の色が黒に近かったから大丈夫だったのかな……?)


 少し前にイノと一緒に真逆の住宅街で女性から話を聞いた時の事を思い出し、確証は無いが自分なりの答えが頭の中に浮かぶ。

 結論から言うとこの一輝の推理は正しかった。 イノの瞳の色は黒に近い灰色である為そこまで違和感が無く、間近で凝視でもしない限り色の違いを判断するのは難しい。 そのおかげで前回は気付かれていなかったようだ。


 一輝が答えを導き出し、納得した所で千秋の左手に持っている白い布袋から急に電子音が流れてくる。


「なっ、何だ!?」


 それまで和やかに話していたクリムはこれまで一度も聞いた事の無い音に驚きを隠せず、袋を見つめたまま大声を発する。


「なにってどう考えてもスマホの着信音じゃないですかー。 すみません、ちょっと電話に出ますね」


 千秋はそう言うと袋の中から赤色のスマートフォンを取り出して、一体誰からの電話なのか確認する為に液晶画面を目視した。


「あっ!?」


 すると千秋はスマートフォンを見た途端に何かを思い出したかのような大声を出してしまう。


「そうだった、すっかり忘れてた……!」


 そう呟いた後、すぐに液晶画面を指で押してスマートフォンを右耳に当てると一輝とクリムに背を向けて電話先の相手と話を始めた。 会話の内容から察するにどうやら千秋は元々友人の家に向かっている最中だったようで、その間に偶然にも一輝との再会を果たしたのだろう。


「……イッキよ、チアキは大丈夫なのか? あの音の鳴る板みたいな物を耳に当てた途端、目の前には誰もいない筈だというのに会話をし出したぞ」


 千秋が電話を始めた後、クリムは本能的に邪魔をしてはいけないと感じたのか一輝の元へ寄り、小声で話しかける。


「あはは、大丈夫だよ。 千秋ちゃんが手に持ってるのは簡単に言うと遠くにいる人と会話する事が出来る道具でね、今それを使って話してるだけだから」


 クリムにも理解出来るよう、余計な事は言わず必要最低限の言葉だけで分かりやすく説明をする。


「何っ、あの板にはそんな魔法のような機能が備わっているというのか」


 スマートフォンの通話機能にクリムが驚いていると、話の終わった千秋が二人の方に身体を向ける。 

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