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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
五章

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それぞれの一歩 その三十

 それから三人が少し歩くと、すぐ目的のレストランへと辿り着く。

 外観は全体的に黒く、出入り口から左側にはメニューを見せるショーケースがあり、幾つもの食品サンプルがズラリと並べられている。 右側には大きなガラスが張られ、販売用のパンの作業工程を見る事が出来るようだ。

 出入り口の天井辺りの壁には英語で書かれた店名の蛍光灯が青々と照らされており、とてもお洒落で見栄えの良いレストランだというのが一目見て分かる。


 三人が早速お店の中へ入ると、白と黒の可愛らしい制服を着た黒髪ショートカットの女性店員が近付いてくる。


「いらっしゃいませ♪ 三名様で宜しいでしょうか?」


「はい、三名で」


 そして女性店員が何名か確認を取ると、一番手前にいた小織が普段よりも高い声を出して対応する。


「かしこまりました♪ ではこちらへどうぞ」


 女性店員が誘導するような形で言ってから客席へ向かって歩き出すと、三人は後を辿るようにして付いていく。 着くまでの間に津太郎は周りを軽く見渡していたのだが、昼食時でも夕食時でも無い時間帯だというのに客はそこそこ入っており、至る所から話し声が聞こえてくる。


(思ってたより人がいるな……でも知ってる人は──いない感じか)


 ついでに知り合いや友人、クラスメートがこの店内にいるかどうか気になった津太郎は首を左右に振って隅から隅までこの目で確認する。

 いくら外観や内観が立派とはいえ、ショッピングモールにある店という事もあってか数秒あれば全体を見れる程の広さしか無く、どれだけの客がいるか把握するのは容易であった。 そして少なくとも現時点でこの店の中に知り合いらしき者の姿がいない事を確認出来た津太郎はひとまず安心する。


「こちらの席になりますが宜しいでしょうか?」


 女性店員に案内されたのは奥の壁際にある四人用の席で焦茶色こげちゃいろのテーブルが真ん中に、その両側には革製で茶色の二人用のソファーが置かれている。 そしてソファーの上にはモザイクのガラスで仕切りが設置され、両隣の客が見えないような作りになっているようだ。

 この同じような形の席は三つ横に並んでいて左側には既に大学生らしき男女グループ四人組が座っており、何やら夏休みの予定について語り合っている。


「はい、大丈夫です」


 小織が返事をして三人が真ん中の席へ座る。 ちなみに小織と愁は荷物が少ないので女性店員から向かって左側、津太郎は荷物が大きく場所を取るので右側だ。  


「ご注文がお決まりになられましたらこのボタンを押してください。 それでは失礼します」


 女性店員はそう言って軽く頭を下げてからその場から立ち去る。


「ふぅ……いやー、ようやく座れました~! 実は結構足がパンパンだったんですよね~」


 ソファーに荷物を置いた愁は肩を撫でおろす勢いで息を吐き、凝り固まった筋肉をほぐす為に宙ぶらりとなった両足を何度も前へ後ろへと動かしていた。


「まぁここに入ってからずっと歩きっぱなしだったし、疲れるのも仕方ないわよ」 


「それ言うなら月下は疲れていないのか? 確か家からここまで歩いて来たんだろ?」 


 津太郎は壁際に座っている小織へ少し心配そうに話しかける。


「アタシは別に何ともないわ」


「そうか……でも無理しないでくれよ。 前にもそんな感じで平気かと思ってたら風邪引いてた時あったんだからさ」


 どうやら津太郎が気にしているのは約三か月前、学校で騒動が起こった日の帰りに小織が具合が悪いにも関わらず何も言わなかった時の事らしい。 どうやらまたあの時のように本当は辛いのに辛くないフリをしているのではないかと思っているようだ。 


「あれは自分でも無理し過ぎたと思ってるし、栄子にも彩さんにも心配かけさせちゃったから流石に反省してるわよ」


「それならいいんだが……しんどい時はちゃんと言うんだぞ? やっぱ──その……心配だしな」


 途中までは小織の顔を見ながら言えたのだが、最後の方になると何か恥ずかしくなってしまって、つい出入り口へ顔を向けてしまった。


「……! そ、そう……」


 本気で心配してくれた事に対して嬉しさと照れが入れ混ざったような感覚に陥ってしまい、まともに津太郎の顔が見れなくなった小織は俯いてしまう。 


「あのー、勝手にお二人だけの世界に入らないでくれますー? 自分もいるんですけどー?」


 そんな二人を見た愁が割り込んでくる形で話に入ってくる。


「えっ!? あ、ご、ごめんねボーっとしちゃって……! さ、さてと、いつまでも話してないでメニュー決めないとね……!」


 愁に声を掛けられて我に戻った小織は慌てた様子で話題を変えようと、テーブルに立てて置かれた綺麗な白色のメニュー表を取り出して開く。 そして二人仲良くどれにしようか選び始めた。


(ん? あれって……)


 二人が話しながらメニュー表を眺めている最中、落ち着きを取り戻した津太郎が姿勢を真正面にしようとしたその瞬間、出入り口から二人の成人男性が入ってくるのが見えた。 全く知らなければ気にせず前を向いていたのだが、その二人組に関しては間違いなく見覚えがあった為、津太郎は思わず凝視してしまう。


(やっぱりそうだ、さっきヘッドフォン買いに行った時に見掛けた人達だ……確か時間潰しでここにいるとか言ってたけど、まだいたんだな)


 そして津太郎は男性達が家電専門店にいた面白い漫才師のような二人である事に気付いた。 普通なら何処にでもいる人達として認識されてそこまで印象に残っていない筈なのに、この二人組を何故か覚えているのかは、家電専門店でのやり取りが余程記憶に残っているからかもしれない。  


 男性達が入り口辺りにいると先程案内をしてくれた女性店員が近付いて話しかけている。 すると背の高い美形で爽やかな男性の方が笑顔で店員へピースサインのような指の形を見せつけていて、恐らくだがこの手の形は二名である事を示しているのだろう。


 確認が取れた女性店員が男性達を空いている客席へ誘導し始めた──のだが、


(何かこっちに来てないか?)


 女性店員と男性達が明らかに四人用のテーブルの方へと向かってきており、流石にこれ以上見ているのはまずいと思った津太郎は気付かれないよう慎重に姿勢を真正面の方へと戻す。


「こちらの席になりますが宜しいでしょうか?」


 僅か数秒後、少し前に津太郎達が言われたのと全く同じ言葉が後ろから聞こえてくる。 位置は店員から見て右側で、四人用の席だと唯一空いている場所だ。


「はい、ここで大丈夫です、ありがとうございます」


 すると次に確かに声変わりはしているものの、何処か幼なげな雰囲気が残る中学生のような声が耳に入る。 もし姿を見ていなければ津太郎も本当に中学生だと勘違いしてもおかしくない程だ。

 それから女性店員が注文が決まったらボタンを押すようお願いした後、男性二人が思いっきり体重を掛けて座る音がしてくる。


「あー、疲れたぁ……足が棒みたいだぜ……ったく、待つだけってのも辛いもんだわほんと」


「まぁまぁ仕方ないじゃないですか先輩。 これもまた仕事ですよ」


 先程の若々しい声の後に爽やかな美声がすぐ隣から聞こえる。 津太郎の真後ろに座っているのは恐らくその美声を発している者だろう。 そして『先輩』という単語から二人は同じ仕事場の上司と部下か何かと津太郎は察する。


「別に俺らは警察じゃねぇんだけどなぁ……あの夫婦もすぐ戻ってこないんだったら何時間後とかちゃんと言って欲しいぜ……」


 そして奥に座ったと思われる先輩と呼ばれた人物が疲れてそうな声で愚痴を言う。


(夫婦……? この人達は保険会社とかセールスマンとかなんだろうか……?)


 津太郎は唐突に出てきた『夫婦』という言葉が何となく気になった。 そして服装からして何となく営業関係の仕事に就いているのかという考えが頭に浮かんだ。 


(いや、きっと仕事に関する内容だろうしこれ以上聞こうとするのは駄目だよな、もう止めとこう)


 いくら勝手に聞こえてくるとはいえ、耳に入ってくる内容を自分なりに分析するのは良くないと思い、津太郎は意識するのを止めて自分も何を選ぼうか集中しようとしたその瞬間だった──、


「でも後ちょっとの辛抱じゃないですか。 だってもうすぐあの二人は異世界に行くんですから」


(えっ……?)


 津太郎は聞き逃さなかった。 確かに後輩と思われる人物がポツリと小さい声で『異世界』という言葉を発したのを。

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