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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
二章

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異世界からの来訪者達 その3

 魔法陣が完全に消滅した後、学校全体は静まり返っていた。

 また何か起こるのではないか──校内にいる誰もが同じような考えをしていただろう。


 しかし、それから数分が過ぎても一切何も起こらずにいた。

 すると少しずつではあるが、校舎にいる生徒達の声が色々な所から聞こえ始めてくる。

 時間が経てば経つほど声は自然と大きくなり、もう大丈夫だという安心感から学校に普段の賑やかさすら取り戻していた。


 実際、学校で何かが壊されているという形跡は一切見られず、数え切れない程ある窓ガラスにも傷一つ付いていない。

 あれだけの轟音が鳴り響いた原因も不明だが、結果的に良かったとはいえ無傷のまま済んだのも理由は分からないままだ。


 廊下で全てを見ていた教見津太郎(きょうみ しんたろう)も魂が抜けたかのように放心状態だったが、教室から声が聞こえ始めるとようやく我に帰る。


 ただ見ていただけなのに凄まじい疲労に襲われるこの感覚は、極度の緊張状態から解放されたからなのか、それとも脳が未知の経験をした事が原因なのか。


 津太郎自身もよく分からないが、とりあえず今は教室に戻って休みたいという考えが最優先だった。


 後ろを向き、すぐ目の前にある教室へ重い足取りで入るとそこには安心しきったクラスメート達の姿があった。


「怖かった〜! 怖かったよ〜!」


「はいはいよしよし、もう大丈夫だから」


「私もう三年は寿命が縮んだわ……」


「もう本当に死ぬかと思った……」


 女子達の中には抱きしめ合っている者達やあらゆる恐怖から解き放たれて泣き出す者もいた。

 表現の仕方は一人一人違うが、生きている実感そのものはこの場いる全員が感じているだろう。


「俺、ちょっと漏らしたかも……」


「まだ足の震えが止まらねぇんだけど……」


「生きてるって素晴らしいわマジで。 これから簡単に死のうとか言わんとこ」


「なんだったんだよ、さっきのは一体……何もかも分からないままかよ……」


 男子は男子で他の誰かに精神的擁護をするほど余裕のある者はいなかった。

 座ったまま魂が抜けたかのように微動だにしない者や、疲れ果てて机に伏せている者もいる。

 

 津太郎が教室にコッソリ入ってきても注目すらされていない。

 だが今はそちらの方が好都合の為、気配を消したつもりで自分の席へ向かっていると、急に横から二人の女子が立ち塞がるように現れた。


「栄子があんなに怖がってたっていうのに教見は一体何をしていたのかしらねぇ……!」


「わ、私ならもう平気だから……! 教見君、何だか凄く疲れてるように見えるし早く座った方がいいんじゃないかな」


 月下小織つきした こおり清水栄子(しみず えいこ)である。

 誰がどう見ても怒りの感情に満ちている小織と、自分の事よりも他人の心配をする栄子は温度差が異常なまでに激しい。


「あのね、栄子……今日のは流石に怒らないとダメよ。 こういうのはまた同じような事をやらかすって決まってるんだから」 


「でも、こうして何事もなく戻ってきたんだし……えっと、とりあえず座ってもらおうよ」


 栄子の方は全く乗り気では無いように見える。


「……分かったわ──でもその前に栄子から何か一言ぐらい注意しなさい。 何も言わないばかりでいるのも、それはそれで良くないわ」


 小織のその言葉を聞いた後、栄子は津太郎と目を合わせる。

 お互いが見つめ合ったままで気まずくなり、栄子は顔を逸らそうとしたが踏み止まって口を開く。


「き、教見君……! 一人で勝手にどこかへ行ったら駄目……だよ!」


 この言い方では注意というより忠告の方が正解のような気もするが、栄子にはこれが精一杯なのだろう。

 顔付きも一応怒っている風にしようという努力は見えるが、何処かぎこちなく感じる。


「今度から気を付けるよ、ごめんな」


 津太郎も栄子に余計な心配させてしまった事は反省し、謝罪をすると二人は道を譲った。、


 それからようやく津太郎が席に着いて黒板の上にある時計を見ると、時刻は既に下校時間をすぎていた。

 しかし教師に何も言われていない──それどころか教師が教室にいないこの状況で生徒だけの判断で動く訳にもいかず、何か指示が来るまで待つしか無い状況だった。

 

「──栄子、家に連絡は?」


 いつ帰れるか分からない為、栄子だけでも家にいる親に連絡させようと津太郎は考える。


「それが……まだ……」


 周りは誰も電話をしていないどころか、スマートフォンを使って何かしている者もいなかった。

 誰も使わず過ごしているのに、自分だけ使うのは色々とまずいと躊躇しているのだろうか。


「──先生が来たら連絡したくても出来ないし、今のうちに電話した方がよくないか?」


 津太郎はそう言って連絡するように誘導する。


「そう……だね。 お母さんに心配かけたくないし……今から電話するね」


 それから栄子は自分の席へ向かうと、机の横のフックの部分に引っ掛けておいたカバンからスマートフォンを取り出して、津太郎の所へ戻ってくる。


 次に小織が、三人のすぐ側にある分厚い生地のカーテンの外側に隠れて電話するよう提案した。

 栄子もあまり他の誰かに電話している所を見られたくないと思っていたらしく、小織の言う通りにする。


「あ、お母さん!」


 当たり前だがカーテン越しに栄子の声は津太郎と小織に丸聞こえだった。

 ただ、本人的に電話している姿が丸見えなのよりは気持ち的にマシだろう。


「えっとね、今日は帰るの遅くな……あ、何が起こったかなんてあれだけ大騒ぎになったんだから知ってるよね──えっ?」


 栄子の声がピタリと止まる。


「いや、だって──さっきあんなに……うぅん、ごめん、大騒ぎなんてちょっと大袈裟に言っちゃっただけで特に大した事じゃないから……そうだね、もうすぐ帰れると思うし心配しないでいいよ──うん、それじゃ」


 通話が終わり、カーテンをゆっくりと開けた時に見せた栄子の顔は青ざめていた。

 しかし、ここで大声を出してはまた教室にいるクラスメートを不安にさせてしまう。


 津太郎は小織に対して静かにするようジェスチャーで訴え、その隙に栄子を自分の椅子に座らせた。


 どうやら栄子によると、母曰く何も起こってないし何も知らないとの事。

 津太郎も試しにスマートフォンを取り出して確認するが、誰からも連絡は来ていなかった。


(確かに俺や栄子の家から学校なんて見えないぐらい遠いけど、あれだけの事が起こったら誰か経由で連絡が届いててもおかしくないだろ……何がどうなってんだ)



 答えが出ないまま時間だけが過ぎていく──すると突然、校内放送のチャイムが鳴り始めて学校中は再び静まり返る。

 一瞬の沈黙の後、男性校長の音声がスピーカーを通じて学校中に流れ始めた。


 全校生徒誰一人怪我も無く、最悪の想定を免れた事を案ずる発言から始まった校長の話。


 このような緊急事態は学校創立以来初めてであり、早急な対処が出来なくて申し訳ないという謝罪。


 今日はもうこの放送が終わり次第、生徒は全員下校するように指示した。

 そして最後に親や学校外の友人、知り合い等々、色々な人に誤解や混乱を生まない為にも、今日あった事は決して誰にも話したりSNSで呟いたりしないよう懇願すると、放送は終了した。

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