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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
五章

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それぞれの一歩 その二十六

「おい辻っ! ゲーセンでテンション上がったからってあんま大声出し過ぎんなよっ! めっちゃ耳がキンキンするじゃねえかっ! なぁ武! お前もそう思うだろ!?」


(健斗の他にも古羽田と安藤もいるのか……)


 津太郎は腕を組むのを止め、少し前のめりの格好になってから出入り口の方へ顔を向けて話を聞くのに集中する。 二人の大声での会話を察するに健斗は一人ではなく古羽田護ふるはた まもる安藤武あんどう たけしが一緒にいるのを把握する。 この後、小織は健斗達がいる事に気付いていないか確認してみると、服選びに夢中になっていて全く聞こえていないようだ。


(ていうか昨日の夜に『明日どっかへ遊びに行こうぜ』って連絡してきたけど、ここだったのかよ……!) 


 実は昨夜、健斗からSNSのメッセージで遊びを誘われていたのだが明日は買い物に行くから無理だと断っていた出来事があった。


(こっちに向かってくるって事はどう考えてもこの店に入ってくるよな……これより先って子供向けの玩具屋しかないし……)


 このアパレルショップの隣にある玩具屋で右端のお店は最後となる為、寄らないとなればこの店へ入ってくるのはもう確定といえる。


(ん? でもよくよく考えたら別に月下と加賀と一緒にいる所を見られても困らな──いや駄目だ、絶対大声で変な事言い出すから店とか他のお客さんにくっそ迷惑掛かるのが予想出来る……)


 津太郎は店内で鉢合わせして騒ぎ出す健斗を想像し、それだけは何としても避けたいと思った。 そしてまだ気付いていなさそうな小織に健斗達がこっちへ向かっている事を話そうと近付く。


「なぁ月下──」


「何? もうそろそろ終わるってさっき──」


「違う違う、そうじゃなくて実は健斗達がこっちに近付いてきてんだよ」


「えっ……うわっ、この相変わらず耳に響く声ホントじゃない……!」


 健斗という単語を聞いて我に返った小織は通路から店内へ入って来る「エンダアアアアッ!」という野太い声が耳に届き、露骨に嫌そうな顔になってしまう。


「ん? 『達』ってことは他にも誰かいるの?」


 聞かれた津太郎はその後に護と武がいる事も説明すると、小織は「あー、古羽田君と安藤君ね」と納得したようだった。


「さっきから確かに地を這うような声が聞こえていたんですけど……お二人のクラスメートさんだったんですか……えーっと、とてもユニークなお方なんですね、あはは……」


 どうやら愁には健斗の声が聞こえてたらしく、津太郎達の同級生と気付いた後に気を遣ってなのか擁護的発言をしてくる。


「あんなの騒がしいだけでユニークでも何でもないない。 一回相手にしたら疲れで寿命が三日は縮むわよ」


 ただ、小織は右手を横に振ってせっかくの擁護を即座に否定した。


「──ていうかこのタイミングで辻と会ったら誤解されて変な噂流されそうでイヤだわ……」


「変な噂……?」


 津太郎は小織の言っている噂が一体何の事なのか全く分かっておらず首を傾げる。 その光景を見た愁が何故か少々残念そうに溜め息を軽く吐いていた。 


「まぁ会うのが色々とマズイのであればお二人は何処かに隠れた方が──あ、試着室なんかどうです!?」


 気持ちを切り替えた愁が周りを首を左右に振りながら何か良い案が無いか探すと、壁端に丁度二つ並んだ状態で誰も使っていない試着室が目に入る。 するとその瞬間に試着室へ入って隠れる提案が思い浮かび、右手の人差し指を突き出しながら言う。   


「試着室なら見られないとは思うが……他のお客さんが迷惑になるような事はあまり──」


「そんな躊躇してたらもう来ちゃいますよ! ほらほら早く早くっ!」


 もう時間が無いと感じた愁は二人の後ろに回り、背中を軽く押して試着室の方へと誘導する。


「でもこういう時って普通一つしかない試着室に二人が入ってドキドキワクワクのラブコメ展開が王道なのに二つあるなんてガッカリですね~」


「そんなのリアルでやって店員さんにバレたら今後入りづらくなるから絶対やったら駄目だろ」


「読者がキャーキャー盛り上がる熱々な展開を一気に冷まさせるような回答したらダメですって!」


 愁に背中を押された二人はそのまま試着室の前まで移動し、靴を脱いでからそれぞれ別々の個室へ入る。


「ではその辻っていう人達が立ち去るまでここから出ちゃダメですよ。 どういう人なのかは見た事無いんで分からないですけど、まぁ入ってきた後に声を聞いたらすぐ分かるでしょうから説明はしなくて大丈夫です」


「そ、そうか」


「手助けしてくれてありがとね、愁ちゃん」


「いえいえ、気にしないで下さい♪ むしろこういう事が起きて感謝してるぐらいなんで♪ じゃあもう大丈夫になったら声を掛けますね!」


 満面の笑みのままそう言い残すと、愁は褐色の分厚いカーテンを津太郎のいる左側から順番に閉めた。

 

(感謝って一体──まさか配信のネタにでもするつもりか……?)


 何となくではあるが、あの何か裏がありそうな笑顔を見た津太郎はそう感じ取ってしまった。 真相を確かめる為に聞く事もしようと思えば出来たが、今すぐ飛び出したら健斗と鉢合わせしてしまう可能性もあり、現時点では止めておいて大人しくしようと決めた。


「でも教見が今日来なかったの勿体無いよな~。 こうやって集まるなんて滅多にねぇのによ~」


 すると急に近くから護の怠そうな話し声が聞こえてくる。 恐らく店の中に入ってきたのだろう。


(うわ、来た……! それにしても別に悪い事してないのに何か緊張してきたぞ……)


 見つからないよう隠れてるだけなのに謎の緊張感が走り、津太郎は前にプレイしたステルス系のゲームの事を思い出して操作していたキャラはこんな気持ちだったのかと謎の共感を得ていた。


「くぅ~っ! 俺より買い物の方を優先しやがって~~っ! あっさり諦めたけどほんとはあの後ハンカチを噛み締めて引っ張ってたんだからな~っ! キーーーーッ!」


(一体何十年前のリアクションなんだよそれっ!?)


 その後の健斗の話の内容につい心の中でツッコミを入れてしまう。


「まぁまぁ、教見君はどうしても今日じゃないといけなかったんだよきっと。 それよりさぁ、護ってほんとにここで服買うの? 何か場違いじゃない?」 


 ここに来て武の話し声が耳に届いてくるが、相変わらず護にはやたら厳しい言葉を浴びせていた。


「うっるせえよお前はよぉっ! 俺はなぁっ! ここでくっそオシャレな服を買ってから今度の夏祭りで着て清水さんと偶然という名の運命の出会いをしてっ! ちょっとでも『古羽田君、今日の格好凄く素敵だな……』みたいな感じで意識してもらおうと考えてんだっ!」


(あー、なるほど。 そういう理由でここに来たのか)


 津太郎と同じくあまり服装にそこまで興味無い筈の三人がどうしてこの店に来たのか不思議で堪らなかったが、護の話を聞いて納得した。


「いや、奇跡的に出会えたとしてもどうせ終業式の時みたいに顔真っ赤にして逃げるのがオチだよ」


「ぐっ……! そこを突かれると痛てぇ……だがっ! だからこそっ! 次は逃げねぇって決めたんだ俺はっ!」


 護が格好良く武に向かって堂々と宣告している最中、外を見れない津太郎は一体カーテンの向こうが気になり、左手で慎重にカーテンをほんの僅かだけ開けて右目で外を覗いてみると、すぐ近くにいた愁が両手を抱えて俯いたまま身体を震わせている。


(ちょっ!? おいおい何があったんだよ──ってあれはっ!?)


 津太郎は視線を愁から出入り口の方へ変えると、その目に映っていたのはとんでもない光景だった。 

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