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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
五章

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それぞれの一歩 その二十二

 八月上旬。 夏休みも十日以上が過ぎて長期休暇に頭や身体が慣れてきてしまい、ありがたみ自体が薄くなってきた頃、津太郎は家から徒歩だと一時間程掛かる場所にある大型ショッピングモールへ来ていた。


「久しぶりに来たけどやっぱ大きいなここ……」


 相変わらず強い日差しが降り注ぐ午後一時、津太郎はショッピングモールの中にあるバス停で呟く。 


 どうして津太郎がここにいるのか?──それは今から二時間前の事であった。


「津太郎、キャンプ道具を買いに行く準備はもう出来てる?」


 美咲は津太郎の部屋のドアをノックして開けると、いきなり話題を振ってくる。 今日は平日で巌男は仕事の為、代わりに津太郎が買い物を頼まれたのであった。


「うん、いつでも家を出れるようにはしてあるよ」


 座椅子に座ってゲームをしていた津太郎は画面を止めて美咲の方へ顔を向けて反応する。 この日の津太郎の服装はいつもの半袖とショートパンツというだらしない恰好ではなく、上は白シャツに青のジャケット、下は黒のジーパンに黒の靴下を履いており、明らかに外出用の見た目をしていた。


「ゲームしてる時点でとてもそうは見えないんだけど──まぁいいわ、はいこれ父さんの書いたメモとお金」


 美咲は少し心配そうに言いながら座椅子の前にあるテーブルに何か書かれた白い紙と一万円札二枚を置く。


「えっ!? にっ、二万円って多過ぎない……!? っていうか、この二つだけでそんなに掛からないと思うんだけど……」


 メモよりまずお金に目が注目してしまった津太郎は、その金額の多さに動揺を隠せない。


「一応、足りなかったらいけないから念の為よ念の為。 それにこれはバスの往復分にも兼ねてるし──あ、そうそう、喉が渇いたらジュース代に使っても構わないわよ」


「ジュース代もってマジか……でもさ、今更言うのもなんだけど──それなら通販で注文する方が便利だし圧倒的に安く済むんじゃないの?」


 津太郎はコントローラをテーブルに置き、メモを手に取って見ながら思った事を言う。 どう考えても通販で頼んだ方が確実で手間も掛からないのに、わざわざ不便でお金も掛かる方を選ぶのかピンと来ない。


 ちなみにパソコンで打った文字をそのまま写したかのように書かれていたのは、欲しいと思われるキャンピングチェアとガスバーナーの名前と値段だった。 その下には「万が一にも書いてあるのが無ければその時は似たような物でも構わない、それでは頼んだぞ」と書かれてある。 


「何言ってるの。 配達員の人達は荷物の配達が忙し過ぎて手が回らないってニュースでもやってたんだから、便利なのを理由にあまり頼り過ぎるのも良くないわよ。 それに夏休みで時間余ってるんだから丁度いいじゃない」


 どうやらここ近年話題となっている配達員のキャパシティーオーバーを気にして配達の注文を遠慮しているようだ。


「そう言われたらお手上げなんだけど……」


 社会問題を盾にされた挙句、時間を持て余している事に対してどういう風に言えばいいか分からず何も反論出来なかった。


「後、お金が勿体無いとかそういうのは気にしなくていいから。 休みの日はずーっと家にいるからたまには一人で遠出させてこういう経験でもさせないとって前からお父さんと話してたし、経験に勝るものは無いから無駄遣いとか思ってないしね」


「まさかの初めてのおつかいみたいな感覚!?」


 高校生にもなって小学生のような扱いを受けた事をサラリと言われたのはショックだったが、事実なので素直に認めるしかなかった。


「まぁそういうわけだから、とりあえず買い物の方は頼んだわよ。 本当なら父さんが今度の休日に行く筈だったけどいきなり接待の予定が入って、空いてるのがあんたしかいないんだから」


「はぁ……」


 色々と言われた津太郎はやる気無さそうに返事をする。 


「それじゃ──って最後に一つ言うの忘れてたわ」


 美咲が部屋から立ち去ろうとドアの前まで歩いたのだが、何か思い出したのか廊下の手前で立ち止まって津太郎の方へ振り向く。 


「えっ、なに?」


 話が終わったと思い、コントローラを手に取ろうとした津太郎はその動きを止めて返事をした。


「お父さんが代わりに行ってくれるお礼として、余った分は全部お小遣いとして取っておいていいだって。 良かったわね」


「本気で!?」


 この時、少し前までやる気が無くなって死んでいた津太郎の目は尋常でない程に輝いていた。


──それから少し経ってから軽い昼食を早めに取った後、準備が出来た津太郎はショッピングモール方面に向けたバスへ乗る為に家を出る事にした。


 家を出て学校方面へ向けて五分歩いた所にあるバス停で立っていたら、そこまで待つ事無くバスが来たので暑さから逃げるように中へと入る。 平日の昼過ぎという事もあってか人はそこまで乗っておらず、津太郎としても人がいない方が気が楽なので有難かった。


 比較的空いている右側の後ろの方へ座った後、バスが発進してからスマートフォンをいじったり外を眺めているとあっという間に神越みのこし高校を通り過ぎ、住宅街や商店街を抜けると目的の大型ショッピングモールが真正面の方から見えてくる。


(これ歩きだったらまだ学校にも着いてなかったよな……やっぱバスで来て正解だった)


 この暑さの中、歩いてショッピングモールまで行かなくて良かったと心から思う。 ちなみにバスで行った方がいいと助言したのは巌男だ。

 それから数分足らずでバスは道路からショッピングモール内の専用駐車場へ入っていき、敷かれた白線の枠に納めるとバスは停車した。


(さてと、降りるか)


 バスのドアが開くと他に乗っていた人達が一斉に出入り口の方へ向かっていく。 最後尾にいた津太郎も他の人達に付いていくようにして前へ進み、お金を払ってバスを降り──そして今に至る。


 外へ出た津太郎は右手で日差しを遮りながらショッピングモール全体を見渡す。 何百台も車が入りそうな広大な駐車場。 高さ三十メートル、長さ三百メートル以上はありそうな三階建ての建物の壁には様々な店の看板が貼られており、中には何十、下手すれば百以上もの店があるのが想像出来る。


「歩いていける距離の所にあれば最高なんだが……」


 流石にそこまで求めるのは贅沢過ぎるかと思った津太郎は、いつまでもここで立ち尽くして眺めている訳にもいかず、暑さを凌ぐ為に早く中へ入ろうと歩き始めた。


「距離的には遠いけどここならほぼ確実に父さんの欲しい物があるだろうし、見つける為に近所の店を歩き回るよりずっとマシだよな、うん」


 もしもこのショッピングモールではなく家の近所の店で探していたとしたら、何処にあるか分からないという不安を抱えたままこの炎天下の中ひたすら外を歩き続けていたのだろう。 そう考えると少し遠出してでもここへ来た方が効率は良いのかもしれない。


「でもせっかくここまで来たのに用事済ませてさっさと帰るのも勿体無いような気がするぞ……ゲーセン行って遊ぼうか──いや、でも余った分貰えるし……どうする」


 津太郎はショッピングモールの幾つもある入り口の中の一つの前に立ってどうしようか悩んでいた──その時、


「ほらほらー! やっぱり教見先輩でしたよー!」


「えっ?」


 いきなり左側から幼げのある可愛らしい声で名前を呼ばれた津太郎は、無意識に聞こえた方へと顔を向ける。


「……久しぶりね。 教見がここに来るなんて珍しいじゃない」


 そこに立っていたのは同級生の月下小織つきした こおりと一つ下の後輩である加賀愁かが しゅうだった。

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