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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
五章

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それぞれの一歩 その二十

「もっちろんボクだよね~! だってボクが提案したんだからご褒美的なの貰っても──ね、イッキ君♪」


 一輝が答える前に反応したのはやはりというべきか、リノウだった。 自分が行きたいというのをアピールする為に一輝の方へ身体を寄せて上目遣いの視線を送る。


「わたしも行きたいな~! もしかしたらこっちでしかとれない素材とかあるかもしれないしー!」


 リノウに便乗して次はカナリアが手を空高く上げながら座ったまま身体を跳ね上げている。


「二人共、イッキ様は遊びに行く訳では無いのですよ。 お出掛け気分で言うのはお止めなさい」


 コルトが注意をすると二人は打ち合わせしていないのに「はーい」と同じ言葉を同時に言うと素直に大人しくなった。


「まぁ長い間ここにいるのだ、何処かへ行きたいという気持ちが強くなるのも仕方あるまい」


 クリムが同情すると、二人は水を得た魚のように「そーだそーだ!」と言い始めた。 コルトに見つめられてすぐ黙り込んだが。


「でも僕が決めなきゃいけないの? 前みたいに皆で相談し合って決めた方がいいと思うんだけど」


 一輝としては自分が本当に決めていいのか分からず、選ぶのはあまり気が進まなかった。


「前は話の流れ的にいつの間にかおチビちゃんがいいみたいな感じになってたけど、今回はそういうのが無いからなぁ~。 グダグダになるぐらいならイッキ君がパパっと決めてサクッと終わった方がいいんじゃないの~?」


「また、これから同じように誰かがイッキと共に行く機会が出てくるかもしれん。 その場合は誰が適しているのか、という判断力も必要となる。 そういう意味では今回が試すのに丁度良い機会だろう」 


「それはそうかもだけど、やっぱり即決は難しいような……」


 リノウとクリムの意見に納得した一輝は言われた通りに誰が良いのか考えるも、今回の場合は別に誰でもいいのではという答えが最初に思い浮かんでしまった。 一緒に話を聞きに行くだけなので間違いではないが、この答えを言えばまたクリムに怒られると思った一輝は無かった事にして、改めて考え始める。


──そして数秒後、


「……うん、決まったよ」


 どうやら誰にしたのか決めたらしく、一輝が口を開いた。


「えっ!? イッキ君! 誰なのー!?」


「だれなのー!?」


 するとそれまで雑談していたリノウとカナリアが一輝の言葉に食い付く。 気のせいかクリムとコルトも僅かながら落ち着きが無いように見える。


「クリム……一緒に行ってくれないかな」


 一輝はクリムの方へ顔を向けて言う。


「分かった──ん? えっ?」


 クリムは無意識の内に返事をした後にようやく自分が選ばれた事を理解して、軽く戸惑いながら一輝と顔を合わせる。 


「まーたーボークーじゃーなーいー! なーんーでーだーよー!」


「クリムおねぇちゃん、やったね~! おめでとー!」


 選ばれなくてガッカリしたリノウは勢い良く机に身体を被せるようにして倒れ込み、悔しみの言葉をうつ伏せのまま言っている。 ただ、カナリアは特に悔しさは無いらしく選ばれたクリムを拍手で大きな音を立てながら祝福していた。


「リノウ、行儀が悪いですよ。 姿勢をきちんと正しなさい」


「へーい……でもコルトは何とも思ってないんだね、意外だなぁ」


 コルトに言われたリノウは怠そうにゆっくりと身体を持ち上げた。


「──私はイッキ様の意思を尊重するだけですので、そこに私の意思は不要です」


「ふーん……まぁ無理はしないでね~」


 リノウにはコルトが我慢しているかのように見えているらしい。 図星かどうかは分からないが、コルトはそれ以上何も言わなかった。


「まっ、待てイッキ……確かに誰かを選べとは言ったがどうして我なんだ?」


 クリムは少し困惑気味に一輝に直接問う。


「えーっと……ごめん、それといった理由じゃないんだけど──ただ、さっきのお礼がしたいだけで……」


「お礼……?」


「うん、クリムが母さんの事でウジウジしてた僕に喝を入れてくれたからそのおかげで前へ進もう、頑張ろうってすぐ立ち直れたんだ。 だからそのお礼として一緒に来て欲しいって思ったんだけど……これじゃ変かな?」


「……どう考えても変だと思うんだが」


 この場合は一番誰が適切なのかという問いに、まさかの『お礼』という回答で選ばれたクリムは想定外過ぎる意見のせいでどういう反応すればいいか分からずより一層困惑してしまう。


「そっ、そっか……」


 クリムの少々不満げな反応を見せられた一輝はもっと頭を絞って考えれば良かったと少し後悔する。


「クリムが行かないならボクが代わりに行ってあげちゃおっかな~! 別にいいよねー、だって悩んでるんだしー!」 


「誰も行かんとは言っていないだろう!──まぁ理由はともかく……選ばれたからには我が行くとしよう」

 

 隙あらば横取りしてやろうと割り込んできたリノウに一緒へ行く権利は譲りたくないらしく、全力で拒否をした。 そしてこれ以上何か言われる前に一輝と共に聞き込みをする決意をする。


「ちぇ~、もう少しだったのに~。 腹いせにおチビちゃんの部屋行って大声出してもいい?」


「命が惜しかったら止めておけ、イノを本気で怒らせたら大変な事ぐらい分かっているだろう──そういえばコルトよ、先程寝室に入った時にまだ髪の色は戻っていなかったか?」


 クリムに注意されたリノウは「わっ、分かってるよ~」と言うも少しだけ怖がっているように見えた。 その後、イノの髪色が変化したかどうか気になったのかコルトに質問をする。


「はい、まだ元の色に変わってはおりませんでした。 変化してから大分時間が経っている筈なのに未だ保っているので、想定していたより効果は持続していますね」 


「それは有益な情報だな──よし、では我は一度外に出て大体の時間帯を確認した後にイノの部屋へ行こうと思う。 今の内に行って見ておかないといつの間にか髪の色が戻ってしまったら正確な時間が把握出来ないからな」


 話し終わったクリムはこうしてる間にも元に戻る可能性があった為、すぐに席から立ち上がって外へ歩き始める。


「りょーかーい──というか話にも区切り付いたし今日はもう終わりでいいんじゃなーい? だからさぁ、何か面白い話聞かせてよイッキくーん!」


 リノウはそう言いながら勢い良く一輝に詰め寄る。


「えぇ……何かあったかなぁ?──あ、そうだ、実はね……」


 しかしいきなり話を振られた一輝はどういう話をしたらいいのか困っていたが、車が通った時に怯えてしまった事を思い出して話し始めた。


「では私は茶菓子でも用意しましょうか。 カナリアに好物を出すという約束もしましたしね」


「わーい! わたしも付いてくー!」


 話し合いが終わって食堂が団欒だんらんとした雰囲気の中、ただ一人クリムがドアを抜けて山の中へ出ると上に広がる青空と所々にある薄い雲を眺める。


「ふむ……この空から見るに、薬の効果が効き始めてから最低でも一時間以上は大丈夫という事か」


 何となくではあるが、空の明るさから二人が出て行ってからどれくらい時間が経ったかを確認する事が出来た。


「しかしイッキと我が二人だけでとはいつ以来だ?──なんだろう……久しぶり過ぎて何か……恥ずかしいな……」


 クリムは急に顔が熱くなる。 それは今いる場所が暑いからなのか、それとも一輝と二人きりになるという事を意識したからなのか──答えは本人にしか分からない。

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