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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
五章

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それぞれの一歩 その十二

(ど、どうしよう……イノが凄く緊張してる……やっぱり心の準備が出来てなかったのかな)


 物音に気を取られて勢いのまま出てきてしまった一輝は少し後悔していた。 そして何とかしようと三人の間に沈黙を作る前に声を掛けようとした次の瞬間、


「かっ──」


 女性はイノを目の前にした途端、何か言おうとして言葉が一瞬だけ詰まってしまう──が、


「かわいぃぃぃぃぃいっ!」


 いきなり周りを気にする事無く急に大声を出す。 低めの掠れた声と大きな身体もあってかその迫力は尋常ではなく、イノは思わず走って一輝の後ろに隠れそうになった。


「えっ!? えっ!? ここら辺にこんな可愛い子ちゃんなんていたっけっ!? やだもうおばちゃん写メ撮りたくなっちゃった~!」


 女性は腰を左右に揺らしながら興奮気味に言う。 そのせいでジョウロの容器から水が溢れ、周りの地面が少しだけ濡れてしまっていた。


「しゃ、しゃめ……?」


 写メの事が一体何なのかイノは全く分からないが、今はとにかく怯えながらも返事をする。


「あっら~、ごめんね~。 携帯電話で写真を撮ることを写メって言うんだけど、今の若い子には写メなんて言葉は通じないわよね~。 でもおばちゃん最近の言い方ぜんっぜんわかんなくてさー」


「そっ、そうなんですか……」


 とりあえずぎこちない笑顔のまま反応をしているが、間違いなくイノの頭の上には『?』マークが大量に付いているだろう。


(僕らがやろうとしてたのとは違ったけど……むしろこっちの方がありがたいかも) 


 二人が話をしていた間、一輝は事前に考えていた予定とは違うが流れとしては今の方が都合が良い事に気付く。


 本当なら挨拶を交わした後、一輝の方から世間話を軽くしてから相手に安心感を与え、警戒心を解きつつイノにも話をさせて場を和ませた所で本題の聞き込みを開始しようと思っていた。

 この方法だと時間は多少費やす上に手間も掛かってしまうが、話を聞ける可能性としては一番高いと考えていたからだ。


 しかしこのようにイノを見ただけで相手の方から積極的に話しかけてくるのは完全に予想外だった為、最初こそはどうしようか戸惑ってしまっていた。 だが、結果的に今の流れの方が時間の大幅な短縮に繋がって負担も減り、一輝にとっても非常に助かっただろう。

 恐らく一輝だけではこうも上手くいかなかったかもしれない──となると、リノウが自分の欲望のままに出した誰かが一緒に付いていくという提案が非常に効果的である事を実感した瞬間であった。


 そしてイノが女性に返事をした後、ゆっくり歩いて一輝との距離を手と手が当たるぐらいに詰めてくる。 距離としてはそこまで離れていないので三秒も掛からない内に合流した。


「やだ~、そんなピッタリくっ付くなんて仲が良いのね~!」


「す、数年ぶりに会ったから甘えたくて……」


 イノは一輝の左手の袖を掴みながら寂しげに言う。


(えっ? 数年ぶり?)


 しかし一輝からすれば急遽付け加えられた設定という事で困惑はしたが表情には出さず、『そうなんですよ』と言わんばかりに笑顔を保っていた。


「久しぶりの再会とかロマンチックじゃなーい! でも幼馴染みにしては歳が離れてるような──はっ! もしかして二人は生き別れの兄妹とか!? そして何か悲しい出来事に巻き込まれて二人の仲が引き裂かれた!?」


 女性は妄想の暴走が止まらず、このままだとあらぬ誤解が生まれて聞き込みどころでは無くなりそうだと思った一輝はここで止める事にする。 


「あー、いや、別に何かがあったとかそういうのは特にありません。 それに僕達はただの従兄妹です。 今は夏休みなんで向こう側に住んでいる親戚の家に家族同士で遊びに来たんですが、久しぶりに町の中を見たいと思って二人で散歩をしてたんですよ」


 ここで一輝は先程歩いてきた方向へ右手で指を差しながら、予め考えていた設定を女性に伝える。


「あらはずかしー! それならそうと先に言ってよー! 年甲斐もなくちょっと少女漫画みたいな妄想しちゃったじゃないの~!」


「す、すみません」


 女性はジョウロを持っていない左手を上下に振りながら恥ずかしそうにするのに対し、一輝は小刻みに何度か頭を揺らしながら謝る。 何故か一輝が悪い事になってしまったが、誤解は解けたようだ。


「──ていうかあなた達ってこんな暑いのにわざわざあっちから歩いてきたの? 相変わらずあの辺りは何も無いから何も面白くないっしょ~」

 

 女性が言った『相変わらず』という言葉に一輝の身体が一瞬だけピクッと反応する。


(この言葉がサラッと出てくるっていう事は──この人だったら何か知ってるかも……)


 相変わらず、という言い方からして最近引っ越してきた人ではなく長年ここで過ごしてきたのは間違いないだろう。 話を聞くならこのタイミングしかないと感じた一輝は慎重に尋ねてみる。


「そ、そうですね。 殺風景というか少し寂しいというか……でもどうしてあそこだけ空き地や空き家が多いんでしょうか? 僕がまだ小さい頃は家が沢山あったような気がするんですけど」


 一輝は笑顔を崩さず、そして平常心を保ちつつ言う。 ここで焦って必死さを出したら相手にどう思われるか分からないからだ。 ただ、表情や態度は隠せていても心臓の鼓動は相手にも聞こえていそうな程に大きく鳴っていた。


「空き地とかが多い理由?──えーっと、何でだったかしらねぇ……」


 女性は眉間にシワを寄せ、「うーん」と悩ませている。 ここで余計な事を言ってしまえば浮かび上がりそうな記憶が振り出しに戻ってしまうかもしれないと思った一輝は見つめる事しか出来なかった。 


「──あっ! 分かった分かった、やっと思い出せたわ~! あー何かすごいスッキリした!」


 数秒後、思い出した女性は細い目を全力で見開いた後に満足気な笑顔を一輝達に見せつける。


「あ、あのっ、それで理由っていうのは……!?」


 ようやく知る事が出来ると思った途端、今まで抑え込んでいた感情が若干溢れた一輝は表情に焦りや緊張といったものが出てきてしまう。


「あれは──何年前だったかねぇ……まぁそこら辺はうろ覚えだけど、向こうの住宅街に住んでた子供が行方不明になっちゃった事件があったのよ」


(子供が行方不明……?)


 女性が言っている事はほぼ間違いなく一輝の事だろう。 しかし何も聞かされていないイノはまだ一輝の事だとはまだ気付いておらず、誰の事なのか分かっていなかった。


「そ、そんな事件が……初めて聞きました」


 だが一輝はすぐにそれが自分だと気付く──勿論、目の前にいる人に「それは僕です」なんて言える訳が無かったが。


「大分昔のことだもの~、二人が今よりずっと小さい頃の出来事なんだから知らなくても仕方ないわよ~」


「あ、あはは、言われてみればそうですよね、仕方ないですよね」


 話を進める為、とにかく今は女性に合わせる事に専念する。 こうしてる間にもイノの髪の色が元に戻るまでの制限時間は確実に減っているのだ、今は少しでも無駄な会話を減らしておきたい。


「それでね、その子の母親がとにかく──いやー、こんな可愛い子ちゃんの前でこういう言い方はしたくないけど頭がおかしくなったというか……まぁちょっとヤバかったのよね~」


 女性は初対面の二人にあまり汚い言葉を使いたくないのか明らかに濁した言い方をしているが、考えながら話しているせいで話し方はぎこちなかった。


「……えっ?」


 だが自分の母親の様子がおかしいと言われた一輝は、あまりの突然の発言に言葉が詰まりそうになる。 

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