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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
五章

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それぞれの一歩 その三

 玄関で津太郎がサンダルを片付け、清水親子が綺麗に左端の方へ靴を揃えた後に廊下へ上がると、リビングから美咲が手を振りながら歩きながら話しかけてくる。


「孝也さん、栄子ちゃんお久しぶり~。 前に会ったのは長期出張前だから春以来よね、時間が経つのは早いわ~」


 今年の三月に孝也が出張へ行く前、家族揃って津太郎の家に来ていた事があった。 ただ、その時は出張の準備で色々とやる事があった為、玄関先で家族同士の会話を軽くするだけで終わってしまったのだが。


「どうも~、美咲さんもお元気そうで何より──あ、それとこれ、出張先からのお土産」


 孝也はそう言いながら右手に持っている白の紙袋を手渡した。


「えー、気を遣わなくても別にいいのよ?」


 と、言いつつも受け取らないのは失礼と思ったのか紙袋を手に取る。


「今日はちょっと頼み事があって来たからね、流石に手ぶらで来るのは失礼と思ったんだよ」


 ちなみに美咲の方が僅かに年上なのだが孝也が敬語を使っていないのは、お互いに堅苦しいのは無しと家族ぐるみで付き合い始めた時に決めたからである。

 津太郎も小学生の頃は清水夫婦に敬語を使っていなかったのだが、中学二年生ぐらいから「いつまでも小学生の頃と同じ感覚で話すのは失礼じゃないか?」と思い始め、それ以降は敬語で話すようになった。


「頼み事?」


 美咲は首を傾げる。 その言葉を聞くまでは四ヵ月ぶりに帰ってきたという事で、自分達に会いに来ただけかと思っていたからだ。


「うん、今度のキャンプについて相談したい事があるんだけど、巌男さんはいるのかな?」


「お父さんなら部屋にいるんだけど──津太郎、ちょっと呼んできてくれる?」


 美咲は最初に二階の巌男の部屋の方へ頭を上げた後、自分が行こうか少しだけ迷うも津太郎に任せる事にする。


「分かった」


 恐らく美咲は二人に用意しておいた茶菓子を出すのだろうと悟った津太郎は、すぐに引き受けて二階へ向かう。


「さっ、ずっと立ってて足も疲れてるだろうし、リビングに行って待ってましょ」


 それから美咲は栄子の横に並ぶと、リビングへ移動しながら気さくに話しかける。 


「栄子ちゃんもお久しぶりー。 その服とっても素敵だし、ほんと栄子ちゃんに似合ってるわね~」


 美咲は栄子の見た目をべた褒めする。 しかしこの発言は気分を良くする為とか盛り上げる為のお世辞ではなく全て本心だ。 


「いえ、私なんてそんな……」


 だが栄子は自信が無いのか首を横に軽く振って謙遜する。 これもまた美咲と同じく本心なのだろう。


「可愛いのは本当なんだからもっと自信持っていいのよー? あ、そういえば津太郎は栄子ちゃんを見て何て言ってた?」  


 美咲が爽やかな笑顔でさりげなく津太郎の反応を聞いてくる。


「津太郎君はまるで別人みたいだって言ってたよね~」


 二人の後ろにいる孝也が栄子の代わりに言うと、美咲はその発言を聞いた一瞬だけ動きが止まった。


「えっ……嘘でしょ……栄子ちゃんごめんね~! 何でうちの津太郎って肝心な時に変な言い方しか出来ないのかしら~!」


 その後、栄子の左肩に軽く寄りかかりながら美咲が謝罪をする。


「私はもう教見君が何か言ってくれるだけで十分ですから……」


 どうやら栄子は褒めてくれる事を望んではおらず、意見を述べてくれただけで満足らしい。


「そう? まぁ栄子ちゃんがそう思ってるなら津太郎にはもう何も言わないけど……」


 せっかくこんな可愛いのに、ほんとにあの子は──と、美咲は小さな声で不満げに呟く。


「まぁまぁ、美咲さん。 津太郎君もきっと素直に言うのが恥ずかしいんだよ、うんうん」


「どうかしらねぇ、津太郎の事だから頭の中で思い付いた言葉をそのまま言った可能性の方が高いんじゃないかしら」


「あはは……」


 三人はそのまま主に津太郎を話のネタにしながらリビングへ入っていくと、美咲は二人をテレビの真正面にある白のソファーに座らせる。 そして台所に頂いた白の紙袋を置いてから、孝也の為に用意しておいた茶菓子に栄子の分のお菓子と飲み物を木製のトレーに乗せて二人の元に持っていく。


「外は暑かったから喉もカラカラでしょ~、はいどうぞ~。 お菓子も遠慮なく食べてね」


 二人の前にある白色の長方形のテーブルに置かれたのは、薄いパイのお菓子が入っている金色の袋とクッキーの上に船の絵が描かれているチョコが乗ったお菓子の白色の袋が複数。 そして孝也用のアイスコーヒー、栄子用のアイスココアの入ったストロー付きの透明のグラスだ。 


「ありがとう、助かるよ。 いやー、実はさっきからずっと喉が渇いてたんだ」


 孝也は言い終わるとコーヒーを軽く飲んで一息つく。


「ありがとうございます、いただきます」


 栄子も孝也に続いてココアを少しだけ飲む。 この美味しそうに飲む姿を見る限り、教見家へ来た直後と比べるとかなり気持ちも落ち着いていて、緊張もそこまでしなくなっているようだ。 もしかすると緊張していた一番の理由は、気合いの入った服装を津太郎に見られる事に対して意識し過ぎていた可能性が高い。


「やぁ。 久しぶりだね、二人共」


 三人がのんびりしている間にリビングの出入り口から津太郎の次に姿を現したのは教見巌男きょうみ いわおだった。 身長は百八十センチメートルを優に超えており、全身を分厚い筋肉で覆われている。 髪型は黒色の短髪で、服はゴルフする時に着てそうな白のポロシャツと通気性の良い黒のスラックスなのだが、筋肉のせいで肌に張り付いて縮んでいるように見える。


「あ、巌男さんどうも~。 四ヵ月ぶりに見たけど相変わらず良い筋肉してるね~」


「お、お邪魔してます」


 ソファーに座っていた二人が巌男に挨拶をする。


「せっかくの休みなのにほんとすまないね~。 どうしても巌男さんにお願いしたい事があってさ~」


「いや、別に構わないさ。 それで用件というのは一体?」


 そう言った後に巌男と津太郎はテーブルの近く、孝也達の向かい側に座る。


「実は今度行くキャンプについてなんだけどね、とりあえず車に関しては皆が乗れる大きさのキャンピングカーをレンタルしたんだ。 今の内に予約しとかないと確保するの難しいし」

 

「そういえばキャンピングカーのレンタル料金っていくらなの?」


 立ったまま台所とリビングの境目さかいめの壁に寄りかかっている美咲は『レンタル』という単語が気に掛かるのか、孝也に値段の事を聞いてみる。


「僕が頼んだのは一日二万七千円だったよ」


「えっ!? そんな高いの!?」


 どうやら予想を遥かに超えていたらしく、美咲が珍しく動揺していた。


「長期休暇の時期は繫忙期で通常よりも値上げをしているんだ。 だがその値段なら随分と良心的な方さ、高い所だと一日四万円取られる所もあるからな」


 孝也の代わりに巌男が説明をする。 ちなみに隣で聞いていた津太郎は、四万円あればゲーム機本体買えるんだけど──と心の中で呟いていた。


「四万って凄いわねぇ……その値段を聞いたら確かにまだマシだけど高い事には変わりないし、私達も乗せてもらうんだから半分は出した方がいいんじゃ──」


「いや、それは止めて欲しいかな。 金銭トラブル的なのは絶対避けたいし」


 美咲と巌男の会話に割り込む形で孝也が話しかけてくる。


「でもねぇ、無料タダっていうのはちょっと気が引けるというか……」


 数千円ならまだしも二万七千円という高額な値段に対し、一切払わなくていいというのは流石に申し訳ない気持ちになってしまう。


「では代わりに私のキャンプ道具を持って行くというのはどうかな?」


 巌男が料金の代わりとなる提案を出す。


「えっ、いいのかい?」


「勿論だとも──実はキャンプへ行く話を持ち掛けられた時から出費の削減も兼ねて持って行こうと考えていてね、先程も部屋で道具の手入れをしていたのさ」


「いやー、それは本当に助かるよ~。 実はさっき話そうとしてた事ってキャンプ道具についてだったんだ~」 


 それから孝也が説明を始める。 どうやらキャンプ道具もレンタルや買う事も選択肢の一つとしてはあったらしいのだが、レンタルではキャンプ場に何があって何が無いのか分からない上に、もしかすると品不足で借りる事すら出来ない状況になるのは避けたいらしい。


 道具一式を買う事に関しては、キャンプへ行くのが今回で最初で最後かもしれないと思うと、一回の為だけに購入するのは流石に勿体無い、そしていつまでも物置に片付けておくのは邪魔になるとの結論に至ったそうだ。


 そこでキャンプ道具を持っている巌男に出来れば貸して欲しいと思い、ここへ来たという。


「なるほどねー、でもいいかどうか聞くだけなら電話でも良かったんじゃないの?」


「それはそうなんだけど、手土産を持って行くには丁度いいタイミングだし、貸してもらえるならどういう道具があるのか見せてもらおうかなと思ってね」


「事情は分かった、では早速二階に行こうか」


 巌男が地べたから立ち上がると、孝也もソファーから立ち上がる。


「それじゃあお父さんは巌男さんと二階に行ってくるから、栄子は津太郎君と待っててね」


「私も物置の整理したいから二階に行くわね、津太郎はここにいなさいよ」


 てっきり父親二人だけ行くかと思っていた津太郎は、まさか三人共が二階に上がる事に焦りを覚えた。


「いや、じゃあ俺らも付いて行った方がいいんじゃ……」


「二階の物置は暑くて──ちょっと汚いし、父さんらに付いて行ってもあまり面白くないから止めといた方がいいと思うわ。 それじゃ栄子ちゃんも、またね♪」


 それから大人三人は二階へ上がり、一階のリビングには子供二人が残ってしまった。  

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