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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
四章

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夏の始まり その四十

──優子が二人に感謝の気持ちを言い、満足したところで亜希を連れ戻す方法に関する話は一段落した。


 達夫が他に何か聞く事は無いか考えていると、優子の方から男性達に話しかける。 


「あの~、亜希の部屋に置いてある遺影とかって片付けても問題ありませんよね? いずれ帰ってくるわけですし、いつでも大丈夫なように掃除とかしておきたいんですけど」


 娘を想う母らしい提案だった。 優子としては不必要な物を処分した後、亜希が喜んでくれるよう徹底的に部屋を綺麗にし、戻って来たらすぐにでも使えるようにしておきたいのだろう。


 しかし先輩は駄目だと言うように首を軽く横に振る。


「掃除だけでしたら問題はありませんが片付ける事はせず、そのままの状態を維持しておいて下さい」


「何か問題でも……?」


 どうしていけないのか分からない優子は首を傾げながら質問をした。


「他の方々に悟られないようにする為です。 もし片付けてしまえば亜希さんの部屋にお二人以外の誰かが入って周りを見渡した時に、どうして何もかも無くなっているのか怪しまれるのは確実でしょう」


「バレたら色々とまずいんですか?」


 今度は達夫が聞く。


「この活動がもしもおおやけになってしまうと日本、いや世界中が大変な事になってしまいます」


 先輩は真剣な表情で言う。 普通なら冗談と思われたり笑って済まされるような発言だが、眉一つ動かさない先輩の顔を見た二人は本気なんだと信じて疑わなかった。 


「世界中が……!?」


「世界ってそんな……!」


 夫婦揃って『世界中が大変な事になる』という言葉に反応してしまう。 自分達が無意識の内に仕事場の人や親兄弟に話してしまっただけで結果的に世界が滅茶苦茶になる──想像するだけで身震いする程に恐ろしい。


「はい。 なので私達は世界が大混乱になるのを避ける為、誰にも知られないよう秘密裏ひみつりに行動しているんですよ」


 そう言われてみると達夫は今まで生きていてこのような活動している人達の存在を全く知らなかった事に気付く。 もし知名度があればテレビや雑誌でも特集が組まれていてもおかしくはなさそうなのに、一切無いという事は本当に目立たないようにしているのかもしれない。


「わ、分かりました……部屋を片付けるのは止めておきます……それで、その──他に気を付けなきゃいけない事とかは……?」 


 素直に従う事にした達夫は余計な真似をして迷惑を掛けないよう、今の内に教えてもらう事にする。


「積極的になってくれる事、感謝致します。 では、まず今日私達と出会った事や話した内容については決して他の誰にも言わないようにして下さい」


 夫婦は静かに頷く。 自分達のせいで世界が滅茶苦茶になったら亜希が帰ってくるどころの話ではない。 絶対に言わないようにしようと心に誓う。 


「それと昨日まで同様、普段通りの生活を送って下さい。 自分達にも何か出来ないかと思い、いつもと違う行動をされるとそれだけで色々と悟られる可能性もありますから」


「なるほど……確かにその通りですね」


 達夫は特に疑いもせず納得する。


「まぁこれぐらいでしょうか。 注意点という意味も込めて一つずつ話しましたが、まぁ特に難しく考えずこれまで通りに過ごしていただければ問題ないかと」


 話している途中から先輩の表情に笑顔が戻ってくると、夫婦二人もその笑顔につられて頬が緩む。 一番最初に玄関で顔を合わせた時と比べると、明らかに打ち解けているのがよく分かる。


「はい、今日言われた事は必ずお守りします──メモもしない方がいいわよね? 誰かに見られたら怪しまれるし」


 優子は先輩に従うという意思表示をした後、達夫に小さな声で話しかける。


「当たり前じゃないか、こういうのは頭の中に入れておくもんだ。 そうしたら絶対にバレる事は無いからな」


「やっぱりそうよね、忘れないように気を付けないと」


 色々な話を聞いて学習した夫婦は早速、邪魔にならない為にやっていい事とやってはいけない事の区別を付け始めた。


「しかし私も仕事の付き合いでお酒を飲んだら周りに言ってしまいそうだな。 だから亜希が戻って来るまでは飲むの止めておくか」


「亜希が戻って来るまでじゃなくて、これからずっとにしてもらわないと駄目よ。 そうじゃないと世界が──」


 しかしここで仲良さそうに話し合っている二人を割り込む形で先輩が話しかけてきた。


「お話している最中に申し訳ございませんが、今日のところはこれで失礼します」 


 そう言うと先輩が軽く頭を下げる。 まだ立ち上がってはいないが、声を掛けなければ今すぐにでも椅子から離れそうだ。


「えっ、急にどうしたんですか?」


 あまりの唐突な発言に達夫は呆気にとられ、言い終わった後も口は半開きのままとなっている。


「もしかしてこの後に予定があって急がないと間に合わないとか……? だとしたら私達が余計な事したからじゃ……」


 優子は二人に迷惑を掛けてしまったんじゃないかと不安になる。 


「いえ、そうではないので安心して下さい」


 心配かけさせない為か、先輩は優子に優しく声を掛けた。 そしてそのまま話を続ける。


「実は、もう今日の内に話しておこうと思っていた事は大方お伝え出来まして。 なので区切りも付きましたし、今日の所は失礼しようかと」


「あっ、そ、そうだったんですね。 確かにこれ以上引き止める訳にはいきませんし──分かりました、ここら辺でお開きにしましょう」


 こうして亜希や異世界に関する話し合いは終了した。


「コーヒーご馳走さまでしたっ! ありがとうございましたっ!」


「喜んでくれて私も嬉しいです。 今度来た時はまたお出ししますね」


「本当ですか! ありがとうございます!」


 話し合いが終わった後、優子が立ち上がって二人のコーヒーカップを台所へ持って行った時、付いていった後輩が満面の笑みでお礼を言う。 するとその笑顔につられて気が緩くなった優子も軽く微笑む。 後輩が童顔という事もあってか、この二人が仲良くしている光景は親子に見えなくもない。


「──今日は来てくれて本当に感謝しています。 優子があんなに笑っている姿、久しぶりに見ましたから」


 達夫は台所にいる優子と後輩が話している所を見ながら先輩に話しかける。


「そう言って頂けるとこちらとしても微力ながらお役に立てて光栄です」


 先輩は背筋を伸ばした綺麗な姿勢のまま言う。


「人生のどん底だった私達を救ってくれたんですから、全然微力なんかじゃありませんよ。 お二人はもう亜希の──いえ、家族全員にとって命の恩人です」


 少し大袈裟な言い方に聞こえるかもしれないが、達夫にとっては本当にそれぐらい二人には感謝をしていた。


──互いに会話も済んだ所で四人が玄関先にまで向かう。 そして客人の男性二人が革靴を履き、後ろへ振り返って夫婦と目を合わせると先輩が口を開いた。


「今日はこのような時間に訪れたにも関わらず話を聞いて下さってありがとうございました」


「いえいえ、こちらの方こそ、前向きにしてくれるような話をして頂いてありがとうございます」


 達夫が笑顔のまま言った後に頭を下げる。


「もう本当に……何と申し上げれば良いのやら……亜希が戻って来るなんて夢でも見ているようです……」


 優子は心から感謝の気持ちを伝えたいのか一言一言ひとことひとことを丁寧に、ゆっくりと声に出す。


「その夢が正夢になる日も近いですよ!」


 後輩がそう言ったら優子は「ありがとうございます、ありがとうございます」と何度も頭を下げた。


「それでは失礼します。 次はいつになるかまだ未定ですが、なるべく早く向かおうとは思っていますので」


「分かりました。 では夜道は暗いのでお気をつけて」


「はい、ありがとうございます」


「お邪魔しました!」


 達夫の気遣いに先輩が反応した後、後輩が元気よく声を掛けたらそのままドアを開ける。

 男性二人が外に出てから互いにバラバラのタイミングで別れの挨拶を済ませると、ドアノブを持っていた後輩が音を響かせないようゆっくり扉を閉めた。


 この直後、ドア越しに早見家の部屋から聞こえてくるのは歓喜に満ちた声だった。 亜希が戻って来るのが本当に嬉しくて堪らず、『喜』の感情が抑えきれないのだろう。


 だが喜びに浸っているせいで夫婦は男性達がまだドアの向こう側で立ち止まっている事に気付いていない。

 そして夫婦の声を聞いた男性二人組はマンションから立ち去っていく。 ただ、その顔には笑みが浮かんでいるように見えた。 

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