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もしも異世界に憧れる人達が増えたら  作者: テリオス
四章

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夏の始まり その三十九

「先程はすみませんでした……ついカッとなって怒鳴りつけてしまって……」


 夫婦二人が座ると、達夫は真っ先に頭を下げて目の前にいる男性二人組に謝る。 一時の感情に身を任せてしまい、最低な行為をしてしまった事を恥じていた。


「何度も本当にごめんなさい……」


 そして優子も二人の目の前でまた夫婦喧嘩をしてしまった事や、そのせいで居心地を悪くしてしまった事を謝罪し、頭を下げる。


「いえ、元はと言えば私の発言に配慮が足りていなかったのが原因です。 不快な思いをさせてしまい、大変失礼いたしました」


 先輩が頭を下げると後輩も続くように同じ行動を取る。 それから二人が微動だにしないまま四秒過ぎると、ようやく同時に頭を上げた。


「──じゃあその〜、落ち着いた感じですし、そろそろ次の話をしませんか?」


 お互いが顔を向け合って最初に口を開いたのは意外にも後輩だった。 先程の真面目な顔から一変、見ている方も思わず釣られて微笑んでしまいそうになる笑顔に場の雰囲気も和んでいく。


「えっ?──あっ、わ、分かりました」


 達夫は後輩に反応するが、今まで先輩に任せっきりで積極的ではなかった後輩がいきなり仕切り始めた事に少々驚いてしまった。 


「あの、どうかしました?」


「い、いえ、何でもないです」


 戸惑っているのがバレバレだったのか後輩に聞かれてしまう。 しかし急に行動的になった事を指摘するのは失礼と思った達夫は何も言わないでおく事にする。


「──では……前の話の事も踏まえて聞きたい事があるんですけど」


 そして今はそれどころじゃない、他に集中すべき事があると心の中で呟き、気を取り直して二人に話しかけた。


「亜希が帰ってくるにはどうしたら、何をやればいいんですか?」


 達夫は不安そうに言う。 だが質問自体は聞いて当然の内容だった。 いくら亜希を受け入れるといっても帰って来なければ意味が無く、いつまでも待つ気持ちがあってもその張本人がここへ帰ってくる方法を教えてもらえなければ、その強い意志も無意味に終わってしまうからだ。


「お願いしますっ! おっ、お金ならいくらでも出しますから!」


 この質問をした後、達夫は今までの中で一番緊張していた。 エアコンは効いているのに手の平の汗は止まらず、顔がやたら熱く感じる。

 いくらでも出すとはいってもやはり限界というのはある。 もし宝くじ一等と同等の金額を要求されたら流石に無理というものだ。 そして今までのやり取りは全て無駄に終わるだろう。 亜希がいなくなってからの二か月間、絶望しか存在しなかった二人にようやく見えてきた希望を次に出てくる言葉で消されたくはなかった。  

 

 達夫が緊張しつつ真正面を見つめていると、ついに先輩が口を開いた。


「いえ、亜希さんを異世界から戻すのに代金は必要ありません。 ご安心下さい」


「──えっ!? 本当ですか!?」


 お金はいらないと言われて達夫は気が抜けて思わずため息を吐きそうになるが、ここは必死に耐える。


「あの、それじゃあ亜希を連れ戻す方法について教えて欲しいんですけど……」


 安心した達夫は次に最も大事なことである帰ってくる方法について聞いてみる。  


「申し訳ございませんが、その方法に関して教える事は出来ません」


 しかし、先輩から告げられたのは『教えられない』という事だった。


「どっ、どうしてですか!?」


 今までの質問には親切に答えてくれた分、ここに来て断られるとは思いもしなかった。 そして気が抜けたのも束の間、達夫の中で再び緊張感が高まる。


「答える事は出来ません」


 先輩は真顔で淡々と答える。 この態度から恐らく似たような質問をしても同じような結果で終わるだろう。


「それは……秘密事項だからでしょうか」


「ええ、そのようなものです」


 先輩が眼鏡の鼻の部分を左手の人差し指で上げながら答える。 三回目にしてようやく違う回答に変わったのは手段に関する問いでは無くなったからなのだろうか。


「……分かりました。 秘密事項でしたら仕方ありませんし、もう聞かないでおきます」


 しかし意外にも達夫はこれ以上どういう手段なのか追及するのをあっさりと止める。


「いっ、いいの? せっかく知る事が出来るチャンスなのに……」


 優子は残念そうに言う。


「いいんだ。 さっき優子も言ってただろ? あまりしつこいのは悪い印象を与えるって」


「……そうね。 あなたの言う通りだわ」


 達夫の言葉に優子も納得したらしく、諦めて素直に従う事する。


 本当は二人共その方法というのを知りたくて堪らないだろう。 だが今ここで男性達と揉めてしまえば、話そのものが無かった事になってしまう可能性がある為、ここは自分達の欲求を抑えるしかなかった。

 

「──ですが、その代わりに私達とは別の方法で異世界から戻って来た人がいた事に関しては教えられます」


 だがその直後、先輩の口から出た言葉は落ち着いた夫婦を驚かせるには十分だった。


「そっ、そんな人がいるんですか!? でも一体どうやって……」


「方法については私達もまだ分かりません。 ただ、戻って来たのが誰かというと、それは亜希さんが撮影した動画に映っていた六人の事です」


 動画に映っていた六人──この言葉を聞いた瞬間、達夫はニュースを通して日本全国を騒がせた運動場の動画を見た時の記憶が蘇えってくる。


「なっ!?──あっ、あの……あの動画の……!?」


 気持ちが昂るのを、動揺を必死に抑える。 感情に身を任せて先程のような事になるのはもう御免だった。 隣にいる優子もテーブルの下で服を震えた手で鷲掴みにし、何とか必死に堪えているように見える。


「はい。 まだ調査中で断言とまではいきませんが、私達は彼等が異世界からあの宙に浮かぶ奇妙な空間を通ってこの世界に現れたと考えています」 


「そう……なんですか……」


 話を一応聞いてはいるものの、頭に浮かぶのは亜希が自殺する原因を作った動画の事だった。 出来るなら思い出したくもないあの映像が嫌でも再生されてしまう。


「どうしてお二人の前でこの話をしたかというと、私達のとは別の方法で亜希さんもあの六人のように戻ってくるかもしれない──という事をお伝えしたかったからです」


 先輩は微笑みながら夫婦に話しかける。 だが達夫は素直には喜べなかった。


「で、でもあなた方の戻ってくる方法を使えば待たなくても済むんじゃ……?」


 達夫からしてみると、こう思うのが普通であってわざわざ言う必要があるのか分からない。


「私達の方法では準備に時間が掛かってしまうので、どうしても今すぐというのは無理でして」


「あっ……そう──だったんですね……確かに凄い準備が時間が掛かりそうなイメージもありますし……それなら仕方ないか」


 達夫は最後だけ小さく呟く。 そういう事情があるなら早く言って欲しかったという思いもあったが、とりあえず達夫は納得した。

 その方法というのに何か装置を使うのか、それとも儀式を行うのに人数がいるのか、そしてどれだけ時間が掛かるのか──何もかも不明なままだが、今は余計な詮索はせず目の前にいる男性の言葉を信じるしかないのだろう。


「お二人には長い間待ってもらう事になるかもしれませんが、別の方法で帰って来なかったとしてもこの方法であれば確実に連れ戻せるので、安心して待ってて下さい」  


 先輩は言い終わった後、話し過ぎて流石に口の中が渇いたのかコーヒーを飲み始める。 てっきり一口飲んで終わるのかと思いきや延々とコーヒーは身体の中へ入っていき、ホットにも関わらず僅か数秒で一気に飲み干してしまっていた。


「あのっ! 大体でいいんです! いつ亜希が帰って来るのか教えてもらう事は出来ないのでしょうか!」


 先輩がコーヒーを飲み終え、ティーカップをテーブルに置いた直後に我慢出来なくなった優子が話しかけてしまう。


「申し訳ございません。 お答え出来ません」


 だがやはりというべきか、冷静に断られてしまった。


「優子、よさないか。 この人達にもきっと色々と事情があるんだよ──度々すみません、ですが妻も娘の為に必死なんです」


 この後、達夫が優子を止めに入る。 また大騒ぎにならないよう自分以外の全員に気を遣うせいで、胃が痛くなりそうだ。


「いえ、お二人に事情を説明出来ないせいで焦りを生み、必死にさせてしまう原因を作ってしまったのは私達です。 なので、その必死な気持ちに応えられるよう全力で準備に望みます」


 先輩は二人を真剣に見つめる。 その眼差しに嘘や偽りといったものは一切感じない。


「そ、その話──信じてもいいんですよね……?」


 優子がテーブルの上で指を重ねるように両手を組み、声を震わせながら言う。 まるでその姿は神へ祈りを捧げているようだ。


「その質問には勿論です、とお答え出来ます」


 先輩が今までで一番と思える微笑みを見せながら、優子の組んでいる手を包み込むように両手で重ねる。


「あぁ……! ありがとうございます……! ありがとうございます……!」


 テーブルの向こう側から見せられる真摯な姿勢、紳士な行動、言動に心を打たれた優子は目に涙を浮かべながら、何度も何度も感謝の気持ちを述べる。 

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