14.魔法
「んぐぐ…」
【ぐっ…やるじゃねぇか】
俺と九代目の力はほぼ拮抗していた。
しかし、少しずつその差ははっきりしていった。
【ううぅりゃあ!】
「のわぁっ!」
押し負けた俺はその場に倒れ込んだ。
「ぐっ…くっそ、負けた」
【はっはっは、俺の勝ちだな】
負ける気は微塵もなかった。
なぜなら俺と九代目の攻撃力には大きく差があったからだ。
九代目の意図がなんとなく分かった気がした。
「一つ、聞いていいか?」
『ん?ああ、構わねぇぜ』
もし俺の考えている事が本当ならば、俺はとんだ大馬鹿野郎ってことになるな。
「ステータスって…存在しないんだろ?」
ニヤリと、九代目が笑った気がした。
『正解だ。よくその考えに辿り着いてくれたなぁ。俺は嬉しいぞ』
そう言って俺の頭をガシガシと撫でてきた。
なんだか妙に恥ずかしくて、俺はその手を軽く払った。
『それで、どうやってその答えに辿り着いたんだ?さっきの力比べだって疲れてたからとか、状況がうまく飲み込めなくて、力が出なかったーとか、色々考えついたろうに』
「元々違和感はあったんだ。足場が悪かったとはいえ、俺より攻撃力が低かった狼に簡単に押し倒されたし、骸骨だってあの場にいた誰よりも圧倒的に高いステータスをしていたのに、俺たちは善戦できている」
『成程ねぇ』
「もちろん、全部が嘘だとは思っていない。スキルとかはちゃんと本人のものを表示してるとは思っている」
『なるほどなるほど、些細な違和感は感じ取っていたみたいだな。そして、その違和感を俺との力比べで確信に持っていったと…バカじゃ無いみたいで良かったよ』
九代目は大袈裟に拍手をしながら、ニヤニヤと、笑っている。
もちろん、顔は見えないので雰囲気でそう感じているだけだ。
それに正直、あの怪しすぎる力比べ気づかないなんてありえないと思うんだけどなぁ。
「それじゃあ俺たちの能力は一体なんなんだ?」
『そうだな、それについて話そうか』
九代目は今一度座り直し、話し始めた。
『まずは今お前がスキルと呼んでいる能力についてだが、これは大まかに四種類ある。
まずは【魔術】だ。これは今お前が戦っている相手が使ってくる【アビスハンド】なんかがそれに当たるな。
魔術はある特定の方法を踏むことで発動できる。
例えば【アビスハンド】なんかは、『闇属性の魔力』を『手の形』にし、標的を設定し『追尾』もしくは『操作』、そしてその標的に対し、『ダメージ』を与える。
これだけのことを行う必要がある』
そう言う九代目の頭上に魔力を感じた。
その魔力は段々と手を形造り、ものの数秒で真っ黒な手が出来上がった。
うわ、なんかめっちゃピースしてくる。
『んで、その方法ってのは二種類あってな、『詠唱』と『魔術陣』って言うんだが。
まぁ、名前の通りだな。
詠唱は、さっき言った一連の流れを魔力を込めた言葉で表すことで魔術を発動できる。
魔術陣の方は、魔術言語って言う謎の言葉を使って魔術を発動する条件を魔力を込められる特殊な紙に円状になるように書きこみ、さらに魔力回路図っていうよくわからん図形をその紙に書き込んどいて、使う時になったらその紙に魔力を流せば勝手に発動するぜ。ちなみに紙は魔物の皮でも代用できるらしいぞ』
なんだか随分ふわっとした説明だな…
『くっくっく、そう怪訝な顔をするな。なんせ──』
「なんせ?」
『魔術なんて使ったことないからな!』
「使ったことがない?じゃあこのアビスハンドはなんなんだ?」
俺が指を指した先にはアビスハンドが未だに浮かんでいる。
『そう、これこそが今から説明する能力、【魔法】だ。
魔法っていうのは簡単に言えば、自由度が増した魔術だ。さっき魔術は特定の方法を踏まないと発動しないと言っただろう?魔法はその方法を完全に無視して使うことができる。例えば、一度発動し終わった魔術はそれ以上何も操作できないが、魔法は自分の思った通りに操作できる。つまりは想像力と魔力が尽きない限り、自由自在に使えるのが魔法だ』
そう言う九代目の頭上では複数の【アビスハンド】がくっつき合い、一つの人型になっていた。
なるほど、確かに魔法だな。
だけど、
『だけどな、魔法にも欠点があるんだ。それがな——』
「使える存在が限られるんだろ?じゃなきゃ魔術なんて必要ない」
俺の言葉に九代目は頷いた。
九代目が手を叩くと人型は消え去った。
『そう、その通りだ。魔法は非常に強力な反面、基本的には後天的に使える様にはならないんだ。理由は謎だがな』
「生まれながらの才能ってやつか」
『そうだな、ファンタジーに思えても現実はこうなんだよなぁ』
やれやれとでも言いたげに九代目は首を振った。
こいつめ…
俺が魔法を持ってないのを——
ふと、俺はダークバレットのことを思い出した。
魔術、詠唱…
試してみようか。
俺は魔力を手に集め、漆黒の弾丸を作り出した。
やっぱり形が安定しない。
こめる魔力量で大きさが変わるのかと思っていたが…
本来なら後は発射するだけの弾丸に俺は更に魔力を込める。
イメージは勿論【アビスハンド】だ。
俺のイメージに合わさる様に手の中の弾丸は膨張し、その姿を変え始めた。
まるで肉が盛り上がるかの様に弾丸は膨張し、やがて人間のそれと同じ大きさの手になった。
『なんだ、それにも気付いてたのか』
「今さっき、な」
驚く九代目に軽く返事をしながら、逆の手に魔力をこめる。
手の中に光り輝く弾丸が現れる。
さっきの闇魔法と同じ要領で魔力を込めた。
するとこちらも同じく膨張していき、手の形になった。
だが、
「あれ?」
俺の手よりふた回りほど小さな手だった。
おかしいな。
込めた魔力量も同じはず…
『ふむ、まさか光魔法まで持ってるとは流石に思わなかったが。どうやら適性がないらしいな』
「適性?」
『そう、魔力適性だ』
魔力適性…また変なのが出てきたな。
どうやら顔に出てたらしく、九代目は苦笑した。
『ま、あんまり長々と説明してもつまんないだろうし、残りはまた今度話すか』
そして、虚空から巨大な黒い手が三つ現れた。
それらはそれぞれじゃんけんの手を出して、九代目の頭上をくるくると周り始めた。
『さて、今から慎悟には闇魔法を扱える様になってもらうぞ。Lesson1だ』
いつの間にか、手の数が増えている。
いや、増え続けている。
『ルールは簡単、ただじゃんけんをするだけだ。ただし、魔法で作った手だけを使ってな』
俺は意識を集中させて黒い手を作り出す。
指を動かそうと意識すると、少しゆっくり目だが、思い通りに動く。
「よし、始めよう」
二つの黒い手が同時に動き出す。
一つは滑らかに、一つはぎこちなく。
『「じゃんけんぽんっ」』
世界一辛いじゃんけん勝負が始まったことを、俺はまだ知らなかった。




