暴れまわる無敵の鬼
むかしむかしあるところに、人々が暮らす村と、悪い鬼の縄張りがありました。
悪い鬼は時々村に降りてきて、畑や家々を荒らしていきます。時々村に来た侍や退治屋が、一生懸命に戦うのですが……一人とても厄介な鬼がいるのです。
「な、な、なんだこの鬼は!? 刀が効かない!」
「お札も全然効果がない!」
「ふはははは!」
見るからに弱々しそうで、握っている金棒も他の鬼より小さいです。けれどこの鬼は、特別な体を持っていました。
「ボクチャンはこの星のモノで傷ついても、すぐに回復できる体質なのサ!」
その厄介な鬼は、槍で突こうがお札を張ろうが、全くピンピンしています。一度凄腕のお侍様が、刀で首を切り落としましたが……無敵の鬼は落ちた首を自分で拾って、平気な顔で元の位置に戻してしまうのです。
「ボクチャン無敵だもんね! だから好き放題やってやるのね!」
何にも傷つかない鬼は、わがままに傲慢に暴れまわります。畑は荒らすは家畜はさらうわ、さらに仲間の鬼たちにさえ横暴でした。
「アイツは無敵の体だから、俺たちの金棒さえきかねぇや」
「力は弱いくせに、えっらそうに……」
「いちおう、アイツを盾にしていりゃ、俺たちも楽が出来るが」
「気に入らねぇ。気に入らねぇよ」
こんな具合に、他の鬼たちからも無敵の鬼は陰口を言われています。しかもものすごく心が狭くて、もし悪口を言っているとバレたら、ものすごく怒って、無敵の体で相手をボコボコにするのです。だから無敵の鬼には、友達は一人もいませんでした。
こんな風に、みんなから嫌われる無敵の鬼をやっつけようと、村人たちは考えました。
「あいつは、この星の物じゃ傷つかないって言うぞ」
「うーん……仲間の鬼の金棒で叩かれても、平気そうだしなぁ……」
「あの世から何か引っ張ってくるか、神様の力を借りるしかないのか……?」
村のみんなで腕を組んで考えますが、いいアイデアは浮かびません。話がまとまらない中で、ある村人は、一人の変わり者の村人に言いました」
「なぁ拾助……お前、何かいいものはないか?」
拾助と呼ばれた村人は、うんうん唸りながら、麻袋を広げました。
中にはキラキラした石や、丸みのある石、きれいに表面がつるつるの石などがあります。拾助は軽くため息をつきます
「手持ちにあるのはこれだけだべさ。あの鬼に効くかは分かんね。一応村の中で拾ったモンだし……一応家にはまだいろいろあるけど、期待はしないでけろ」
「そうか……とりあえず投げつけてみよう」
この拾助という村人は、珍しい物を見つけると拾ってしまう癖のある村人でした。色んなものを集めては、家の壺の中にしまっています。たまに珍しい物もあるので、もしかしたら鬼をやっつけられるかもしれません。
彼の言葉に答えたのは、剛腕の村人です。物を投げるのが得意で、すごい速度で物をブン投げる事が出来ます。
そんな淡い期待を抱いて……鬼たちの襲撃の時、拾助の集めたよく分からない何かを、剛腕の村人は投げつけます。節分の豆まきのように、色んな形の石ころが投げつけられました。中には普通の鬼が怯むようなものもありましたが、無敵の鬼には効きません。
「ハハハ! 可愛いなぁ!! ボクチャンには意味がないってのに!」
「ちきしょう!!」
村人はキリキリと歯ぎしりしました。全く無敵の鬼には通じません。いつも通りに帰って行く無敵の鬼は、怪我した仲間の鬼を笑いました。
「全く情けないなぁ! あんなの全くへっちゃらじゃないか」
「そりゃお前が特別なだけだ。俺たち普通の鬼の事も考えろよ」
「なんで? どうでもいいよ」
「コイツっ!」
仲間への言葉と思えず、鬼たちは無敵の鬼に殴り掛かりました。周りの何人かの鬼も殴り掛かりましたが、無敵の鬼には効きません。暴れまわって、囲んで叩きましたが、息を切らして疲れた所で、無敵の鬼は殴り返します。
醜い仲間割れですが、もちろん無敵の鬼が勝ってしまいます。たった一人でゲラゲラ笑って、見下しながら言い放ちます。
「バーカバーカ! お前らがいくら群がろうが、ボクチャンには意味がないよーん! いいの? そんな態度取って? もう村を襲うの手伝わないけど」
「こ、こいつ……このクズ野郎が!」
「はっはっは! そりゃあクズだろ! ボクらは鬼さ。人間に悪いことして、ゲラゲラ笑う生き物さ。キミらだって同じ鬼じゃないか。まさか自分だけは違うとでも?」
同族の仲間にさえ、無敵の鬼はへらへらと薄気味悪い笑みを浮かべます。傷ついた仲間の鬼を手当てする、一人の鬼はこう言い返しました。
「……そりゃ俺たちは人間様と比べりゃ、おっかなくて悪い生き物だろうさ。でもな、それでもやっていい事と悪い事はあるんじゃないか? 仲間の事ぐらい、思いやってもいいだろうに」
「なんだそりゃ? 鬼らしくない。キミだって無敵になれるなら、平気で同じことやりだすよ」
「んな事はどうでもいい。ともかく、こんな所でもめるのはやめろ」
「は? キミらが勝手に突っかかってきたんだけど~?」
「はぁ~っ……」
仲間を介抱する鬼は、無敵の鬼にほどほど呆れ果ててため息を吐きます。
誰からも嫌われるこの鬼が、この後ひどい目に合うなんて、誰も考えていませんでした。