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Mobius Cross_メビウスクロス徒然  作者: 阿暦史
吸血魔の徒然
5/19

神の執行者が蛇術館を成敗しに行ってみた

蛇術館、本編じゃ活躍してないから…(´・ω・`)残虐に活躍する話ですよ。

ほんのちょびっとグロ。

『Mobius Cross_メビウスクロス徒然:神の執行者が蛇術館を成敗しに行ってみた』



 蛇術館。一部の貴族しか入ることが許されない美術館である。


 私、イェーシュは蛇術館で働いて6年目の中堅使用人だ。清楚で可愛らしいエプロンドレスに身を包み、自慢じゃないが顔と躰は整っている。そして目が良いのが自慢だ。



コンコン



 玄関がノックされる。

鍵は開けずに小窓から言う。

「ようこそお越しくださいました。招待状を拝見させていただきます。」



「すいませ〜ん客じゃないです。

ここで雇ってもらいたくて来ました〜。」



…めずらしい…6年のキャリアで初めての経験だ。

 ここ蛇術館にはモデル兼使用人として多数の美女が住み込みで働いている。その殆どは、主ゴルゴーン彫伯爵によるスカウトの筈だが…。




 「…へ〜…おもしろいじゃない〜」


イェーシュがびっくりして振り返る。

 その声のぬしは主メリー…

なのだが、現れたのは巨大な全身甲冑のゴルゴーン伯爵だった。

魔物の三姉妹が…具体的には、三女メリーが鎧の頭に、次女エリーが上半身に、長女シェリーが下半身に変身して一人の巨大な甲冑男を演じているなど誰が見破れるだろうか…。

 ゴルゴーンはちょうど出かけるところだったらしく、玄関へやってきた。隣にいるのは巨大ツインテールの幼女にしてこの館の侍女長ヒュオラ。



下半身であり“ゴルゴーンの中の人”を担当するシェリーが声色を低くして命令する。

「開けよ」



イェーシュはそそくさと鍵を開け扉を開いた。


 外に立っていたのは、白い長袖の衣に身を包んだ美女だった。

彼女はゴルゴーンの巨漢ぶりに驚き、冷や汗をかいていた。


ゴルゴーンはそんな美女にズシズシと近づき、その顔を見据えている。


 しばらくの沈黙の後、ゴルゴーンの首はカチャリカチャリと横に振られた。そして言った。

「…不合格だ。去れ。」



「…ッな…!」

 美女は愕然とした。ショックなのだろう。美女故に。

「な、何故…!?」



「……」

中の人、シェリーには解らない。メリーが何を基準にこの美女を採らないのか。

 すると、鎧の頭担当のメリーが珍しく喋りだした。頑張って声色を変えて。


美貌かおは良くても表情かおが良くない。」


そう言い残し、美女の横を通り過ぎるゴルゴーンとヒュオラ…




「…だ……


誰が“性格悪い”じゃーー!!」




 突如、

美女は長袖の下に隠していた鞭を取り出し、ゴルゴーンの頭に向けて高速で振るった!



…バチィンッ!!




 その鞭はゴルゴーンの腕によって防がれていた!

美女は驚愕。

「!?全くこちらを見ていないあの状態から…腕だけ別の生き物みたいに…!!」(名解説)



「ゴルゴーン様!」

ヒュオラの髪が大蛇となって美女を襲う!


しかし美女は鞭を手放して躱し距離を取った。これは戦闘慣れしている者の動き…!




「やはり魔物…!集え同胞!神の下僕達よ!」

美女がそう叫ぶと、辺りに潜んでいた者達がシュババッと集まってきた!


「我は拳の執行者!ドマルガフ」

「我は盾の執行者!デヴェンツォ!」

「我は槍の執行者!スドラネル!」

「さらに我が剣の執行者!ケン!」

「我は…!」「我は…!」


「そして我が鞭の執行者!シュヌェンツェ!」

 美女しゅねんちぇ?と同じく白い衣を身に纏い、鉄の武器で武装した連中が10人程名乗りを上げて集結した。

「我ら!神罰の執行者!聖十字教団!

神に牙剥く邪悪なる者共よ!神の裁きを享けるがいい!!」



 聖十字教団の剣と槍が襲いかかる!


グサグサッ!!






「…え?」


イェーシュは目を疑った。目が自慢なのに。



 ヒュオラが、あっけなくその胴体を串かれていたのだ!


イェーシュ

「やられた…?!」

剣と槍

「 「やったか!?」 」


ヒュオラは溜め息をひとつ。

「ハァ…ゴルゴーン様館の中へ。」



 直後、ジュウゥグツグツという音とともに剣と槍の感触が変わった。

「なに!!?武器が、奴の体に刺さった部分から溶け落ちただと?!!しかも土手っ腹に穴が開いているというのに意にも介さぬだと??!」



「二人とも、危ないッ!!」

盾が前に出てきた。


ヒュオラはそれに対して…

「ハイドラブラスタ。」


ドパンッと水!

メガツインテールの髪蛇から液体が噴射され盾に浴びせかけた。




「ぎぃやあああぁあぁあ"ー…ぁ"あ"ぉ"…」

盾の人は武器ごと全身が骨まで溶けて地面に崩れ落ち、そのまま煮えたぎる赤茶色の水たまりとなった。異臭が立つ。


「デ…デヴェンヅォーーッッ!!

…おのれ化け物!!同胞の仇ーッ!」

十字教団?達は、仲間のあの惨状を見ても逃げ出す様子はなかった。


ヒュオラが再び髪蛇の大口を開け構えると…




「待てヒュオラァ…」


もはや声色を変える気もない次女エリーが呼び止めた。

「コイツら気に入ったぜぇ??イイオモチャになりそうだ…」

そう言うと、ゴルゴーンの鎧は頭、胴、脚にわかれて弾け飛ぶ!


ビクッとする十字教団。



 胴が魔物の姿に戻る。大蛇の双腕、その名はエリー。


 脚も魔物の姿を現す。無数の足蛇、その名はシェリー。


 頭はその後ろで変身を解く。恐怖の蛇顔、その名はメリー。



一番好戦的な性格をしているエリーが蛇腕をしならせてゆっくり前に出る。

「ケヘヘ…腕相撲しようぜぇ??


わあし片手 対 お前ら全員で♡」



すると一番冷酷な性格をしているシェリーが注意する。

「待てエリー。一人でやろうとするな…」


「あぁん…??」




「私にも分けよ…♡」




 一番恐怖したのはイェーシュだった。

…後輩の使用人達は知らぬ者も多いだろうが…私は6年のキャリアで知っている…


主達がこの姿を晒したということは、

この場にいる敵全員、

惨死が確定した。


十字教団の前衛も顔が引きつっていた。


 それを奮起させる、鞭の音!

「恐れるな同士よッ!神の敵に屈する気か!

散開して囲め!

まず後ろの醜い魔物を狙え!」


メリーに迫る十字教団…!




バクンッ!!




 うち2名をヒュオラの蛇髪が丸呑みにする!半透明の大蛇の喉内に囚われた団員は、ゴボゴボと苦しそうにもがいた直後、

ブヂュリ…

と赤く弾けて溶破。ヒュオラの髪の根本へゴクゴクと消えていく…。


 エリーはその大蛇の腕で大の男を数人まとめて巻き取り、文字通り“ひねりつぶす”。あとに残るは、ぐでんとゴム人形のように不自然に曲がった死体の山…。


 シェリーの蛇足が一度噛みつくと、2匹、3匹、次々と襲いかかり、数十匹の蛇の力をもって人一人をすっぱりと引き込んでしまう。シェリーの足元から悲鳴が聞こえなくなり、ウジャウジャと立ち退くと、あとに残るはポツポツポツポツ牙穴だらけの死体…。



「ッ…おのれ…!」

 シュヌェンツェが鞭を振るおうとするも、ヒュオラの髪蛇に両腕を噛まれて止められる。さらにジュキンと溶かし断ち切ってしまった。




 「ヒュオラ?待てっ」



そう言って止めたのは、メリー。


 シュヌェンツェは腕をもがれ悶絶しながらも、好機!ととらえメリーに向かって走り出す!しかしそれもヒュオラによって片足を溶かされ顔面から倒れ込む。


もはや這って動くことさえままならないシュヌェンツェに、メリーはゆっくりと近づき、質問をする。

「人間って馬鹿ね〜?なんで勝てないのに逃げないの?恐くないの?」


「おのれ化け物!…神の為に戦う我らに恐れるものなどないッ!」


「ふ〜ん。貴女死んじゃうのに?」


「死など恐れるものかッ!」


「ふ〜ん。…ヒュオラ?軽く溺れさせてやりなさい。」



「…。」

ヒュオラはちょっとだけ嫌そうな顔をするも、その命令を実行する。

 半透明の髪蛇がシュヌェンツェの頭をガポリと包む。それは真空の膜のようになり、呼吸を絶対的に遮断する。

シュヌェンツェはもがき苦しんだのち、窒息。


「ヒュオラ、解放。」


顔を真っ赤にして意識を飛ばしているシュヌェンツェに、メリーは裏拳で軽くビンタし、無理やり脳を覚醒させる。


メリーは質問を続ける。

「ね?死ぬの恐いでしょ〜?」


「ッゼハア…!ゼハアッ!

しゅ…醜悪な…魔物め…!死ね…!死ね…!神によって裁かれ」

「ヒュオラ、窒息。」

…ガポリ。


その問答がひたすら繰り返された。

シュヌェンツェの答えが変わるまで続けるつもりだったが彼女は何度窒息させられようとも神に忠誠を誓うばかり。メリーは飽き性なので10回程度で質問を変えた。



 「アンタたちってさ〜神に何を期待してるの〜??あいつら結構最低よ?」

シュヌェンツェの息が整うのをあえて待つメリー。


「ゼヒュゥ…ゼヒュゥ…

…ふ…阿呆め…神は…唯一…。

魔物にはその存在を正しく認識することすらできない…裁かれて…死ね…。」


「…ま〜神の真実なんてどーでもいいわ?あるのはアンタが苦しんで無駄に死ぬという事実よ?」


「神の為の死が無駄なものか…!神の為に戦い死んだ者は、神の墓標に名を刻まれ、いつの日か復活するんじゃい!!悪が消え去り、平和になった世界で!だから我々は死など恐れん!」


「死を恐れない者に生きる意味など無いわ。

ヒュオラ。もう要らないからこの汚物かたしちゃって?」


「無意味に死ぬのは貴様らじゃい!神罰の矢に射られて死ね!神に仇なす醜い…」

ガポンッ




「ふん。醜い表情かお。」




ジュォォ…




 戦い…いや、殺戮は終わった。

イェーシュは改めて、主達が敵じゃなくて…別に自慢じゃないが顔と躰が良くて本当によかった…と遠くを見た。

それは偶然だったのか


それは幸運だったのか



それとも悲運だったのか




そう、彼女は…





目が良かった。





「ッメリー様危ない!!」


ッドスッ




 一本の矢が、メリーを庇ったイェーシュの右脇腹に突き刺さった。



イェーシュは矢の飛んで来た方向を指差し言う。

「あの岩の陰…!」


聞いた瞬間、ヒュオラは髪から噴射する水を推進力に物凄い速さで飛んでいった。


メリー、エリー、シェリーはイェーシュを抱えて館の中へ避難。

「ちょっと!大丈夫?!」

メリーが抱きかかえて心配する。



「…だ、大丈夫です…かすり…傷…っ」

そう強がった直後、イェーシュの体を異変が襲う。


 筋肉が異常に硬直痙攣し、呼吸ができない。

吐き気がする。

目の前が暗くなる。



「…毒矢だな。」

シェリーが言った。



「…弓兵は消しました。

助かりますか?」

あまりにも仕事が早いヒュオラが扉を閉めながら訊いた。




「…駄目だな。

相当な毒だ。万一命が助かったとして、後遺症に苦しむだろう。」


尋常でないほど発汗し失禁し昏睡するイェーシュに、メリーは話しかける。

「…バカねえ。脆い癖になんでこういうことするの?」


「っ…っ」


「あんたを手に入れるのに私がどれだけ苦労したか知ってる?」


「っ…っ」


「私があんたの像を創るのにどれだけ時間をかけたか…は、知ってるか…。」


「っ…」


「はぁ…まあいいわ。

ヒュオラ、楽にしたげて?」



ヒュオラは静かに頷き、細い髪蛇を一本、イェーシュの口から喉へと挿し込む。


「ありがと。メリー様を守ってくれて。貴女、優秀。あとは任せて…」


イェーシュの目に涙が滲む。



「…ブリーディングハート…」

ヒュオラがそう呟くと、イェーシュの痙攣は収まり、その瞳からは光が消えた…死んだのだ。その美しい躰の“外側を遺して”。



 あれから数日。

 使用人達の多くは、仲間の消失を悼み、ささやかに追悼する。

 主達はと言えば、なんら今までと変わりなく怠惰で悪徳な生活を送っている。長命な魔物である彼女らにとって、使用人が自分達より先に逝くなど日常の一コマでしかない。

蛇術館は今日も平常運転だ。


ただ、無意味な日常の1ページの中にも珍しいことはあるらしい。


 彫刻家メリーは美しい裸婦像を創ることを至上の悦びとしている…が、極稀に、服を着た女像を創ることがある。

そのモチーフは全て、女の亡骸を抱いて悲しむ女。裸像作品とは異なり、どれもどこか哀しげで…儚げだった。それらの作品は売られることなく、ひっそりと裏の森に置かれる。


『ピエタ』…後世の芸術家達に愛されるこのモチーフは、いつしか「救世主伝説」と混同されそう呼ばれるようになった。


see you

最初に思いついたタイトルは「迷惑系執行者が〃」でした。

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