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Mobius Cross_メビウスクロス徒然  作者: 阿暦史
黙示録編
19/19

救世主と魔神と女ⅰ

黙示録編

『Mobius Cross_メビウスクロスΧ:救世主と魔神と女ⅰ』



 人は何の為に夢を見るのだろうか。

“危機への備え”という説がある。

例えば「明日早くに大事な待ち合わせがあるから絶対に寝坊してはならない」夜更け、まんまと「遅刻する夢」を見る者が一定数存在する。

一般人ですらそうなのだ、それがもし……

占術師なら……


予言者なら……


そして……



 救世主であったなら……


いったいどんな危機を夢に見るのだろうか。





……

 巨大な建造物の前に、一人の男が立っている。銀の長髪に黒い衣を纏う彼を、識る人はこう呼ぶ……

__救世主(メシア)__


「……どういうこった……?」

彼は呟いた。


 高い塀に囲まれた古代ギリシア神殿のようなその場所は、太古の遺跡でありながら、いつしか屋根に大きな十字架が掲げられるようになり、いつしか扉や門や家屋が増設され、今は“一応”現役の教会として機能している。

ちぐはぐな見た目に加え、その名は『魔神教会』。

 しかし救世主が違和感を覚えたのは、その不統一性に対してではない。


「……いい加減、夢の予知違うの何とかしろよ……破滅と救済がお手々繋いで仲良く来るわけねーだろ……。もし 客様ァサービスセンターが有ったら死ぬ程文句言ってやる……」

人通りも少なく誰に言うわけでもない……強いて言うなら、彼は神にボヤいていた。


 仕方がないので自分の足と目で調査するしかない。

 近年の魔物の増加に煽りを受け、それより遙か先に“魔”の名を冠していた筈のこの教会が、ものの数年で一気に廃れた。はたしてそれは、風評被害によるものか、それとも……。


 腐っても古参の宗教団体……昼間は一旦正面から客を装って入ったが、まあ適切に対応された。牧師もシスターも、人柄としては悪い印象は受けなかった。

 気になった点は3つ

①霊的気配に若干の違和感。油断はならない。だが、それは優れた聖職者なら有り得ることだ。

②デカい教会の割に今は人数少ないって境遇。個人的に共感できた。

③そしてシスターが ド·ストライクだった。これはよく調査する必要が有る (切迫)。

 少し日が傾いた今、広い外周を観察し、彼が足を止めたのは、建物の真裏。聳え立つ塀に裏口など無いが、救世主の勘が告げる……

……“此処から入れ”と……。

それは悲劇を生むというのに…。



……

 教会裏庭の林で、一人の女が井戸から汲み上げた水桶を持って歩いていた。

女は徐ろに、大きな木の裏で腰を下ろし、ぽーー……っと考え事をしていた。

 昼間、久方ぶりに礼拝者? が訪れた。祝福あれと喜び慎んで赴いたのだが……その姿を見た途端から、終始、牧師と話すその男性を眺めている事しかできなかった……。しかも、その会話の内容は全く頭に耳に入らなかった……自分の住処は専ら懺悔室で、人の話を聽く事が生業であるにも関わらず……だ。

その男性があまりにも美しかったのだ。美しいなぞと思われて喜ぶ男性が居るかは疑問だが、その人を見た瞬間に心がそれで埋め尽くされてしまった。

そんな美しい容姿を持った男性の、特に目を離せなかった部位が、“手”である。

彼は、黒い衣のポケットに両手を入れながら話していた。こんなにも美しい人の手はいったいどんななのだろう……。罪深い事だが、隠されているからこそソコに集中してしまい会話が入ってこないのだった…。

……嗚呼……早く出して…………ひょっとしたらこのまま見れないのかしら……

なんてよぎった矢先、不意に彼はポケットから手を抜き放った……!

恐ろしく綺麗な手指……!! 女性の手のよう……いや……でも……大きい……。

見惚れていると更に“信じ難い出来事”が起った。

“彼が”。“その手で”。“頭をポリポリと搔いた”!!! のだ…。

指先に圧を掛ける際に生ずる、一気に男らしいあの すじ……っ。。。手首の骨の出っ張り……長袖が はだけてチラチラと覗く、腕の筋肉……っ。

穴が空く程見ていると、ついに彼と目が合ってしまった。その時は石にされたかと思った。彼はと言うと、余程此方の視線が奇っ怪だったのだろう……目をパチクリさせた……その瞬間の顔も可愛かったのだが、直後に送られた大人の色薫る微笑みに頬を焼かれ、反射で深っとお辞儀をしてしまい、そのまま逃げるように立ち去った……。

そのまま悶々と昼を過し、

そのまま今に至る……。


……嗚呼……なんて罪深いの私………

……神に……魔神に仕えるこの身なのに……

……神様魔神様も……見て……おられるのに


__そして黙示録へ__






 ズダン! と目の前に、何かが降り立った!

「ん?」

「ンッ……」

……

……

……

!彼だ

ボーンッ∑ (//ㆁДㆁ/) 彼女は赤面爆発した。そしてポロポロと泣き出して二言…

「……罪深くてすみません……速やかにシにます……さよなら……」

と自シを告げた。


 彼も、忍び込むつもりが想定外の遭遇に戸惑い震撼であったが、彼女の有様を見て、“何故今こんな所に”とか“何してる”とかの確認事項をすっ飛ばして動いた。

バシャアッ! と、彼女が傍らに用意していた桶で彼女を頭から濡らす! そして目をしばたたかせる彼女を前に答える。


「バカ。死ぬな。

俺で良ければ、なんでもする」


彼女はもはや隠せぬと半ば開き直って懺悔する。

「私は、魔神に仕える身でありながら……行きずりの貴方に……貴方の美しさに…………劣情を催してしまいました……これほど罪深い事がございましょうか……」

「それほど嬉しい事があるか」


「///で、でも! ……お心を慕うのならまだしも……」

「心ってのは関係の後から付いて来るもんだ。心で先に繋がれるほど人間は上手くできてねえよ」


「でも……その罪に抗う為に人は生きるというのに……自分がこんなに弱くては…生きる価値など……」

「恥も懺悔も栄光も、生きてりゃ全てが笑える思い出になる。それに価値ってのは独りで決めるもんじゃねえだろ?」

「……」


 その後も彼は、彼女の名誉の為に、哲学的な励ましを贈り続けた。美しき生花には生々しき地中の根が不可欠。湖上の白鳥の優雅な舞には水面下の粗野な足掻(あが)きが不可欠。汚く罪深く泥にまみれて生きる事こそ美しいのだと。


「あとこれは断言して良い……。

女はちょっとくらい助平な方が良い!」

 彼のそんな霊言達と、自身に宿る“ある作用”によって、彼女は落ち着きを取り戻した。

「もうわかりました……こんな私なんかを……必死に救おうとして下さって有難き幸せです。

……あ……すみません、お名前……」



 救世主は名乗った。

「ランスだ」


 シスターは名乗った。

「ルナベレッタと申します」



「ルナ……月か。ベレッタは……何だったか? 綺麗な名前だな」


「///! ら、ランスさんこそ!

……………」

名前を誉めたいのに言葉が出ないルナベレッタ。

嫌われたくなさすぎる故の頭の回転の鈍り。“一本槍な感じがして……?”……意味不明;

“芯が通ってそうで……?”……ありきたりかな;

“何処かHな響き……”……罪深(ばか)っ///

終いには変な方向へ回りだす思考と気まずい沈黙で、冷や汗が流れ、躰をぶるっと震わせた。


それを見たランスが先に口を開く。

「いけね! 暖春とは言え風邪引かしちまうな! 今日は帰るわ。いきなり濡らして悪ったな」


「いいえ……穢れを洗い流そうとしてくれたのでしょう? もともとその為の水でしたから……」


「へっ、取り繕い甲斐の無え。もうバカなこと言うなよ? お前が死んだら俺もあと追うからな?」


 その適当な冗談に困ったような笑みを返しているうちに、ランスは再び塀を跳び越して去っていった。

……跳んで入ってきたのか……


「……不思議な人……優しい人」

ルナベレッタは呟いた。”懺悔室”以外で、ほぼ初対面の人とあんなに喋れたのは、とても珍しい。出会いは少々特殊だったが……。



「「ドコがだ! あんな不法侵入変質者に心奪われてるんじゃあないルナベレッタ!」」

 何処からともなく、謎の声がルナベレッタに物申した。

「……私はそうは思いません。本当に悪人なら、幾らでも強盗や乱暴を働いた筈です」

「「顔、言葉、眼、そんな表面的な事に囚われるな罪深い女め。俺が言ってるのはそういう事じゃあない……お前ともあろう者がわからないのか?」」


「? ……罪の心……ですか?」


「「そうだ! あの野郎表面上は悪びれていたが……一切の罪を感じなかった……!! 異常すぎる! ……罪の意識の無い人間など在る訳がない。ヤツには、心が無いのかも知れないぞ」」


……そうなのかしら……。……私には……


 謎の声と独り 言葉を交わし、木々の合間からランスの去った暮の空を見上げるルナベレッタ。風に舞い落ちる木の葉は、飛び立った天使の黒い羽根のようだった。


to be continued


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