聖告Ⅵ
成長(?)した聖母と救世児と天使の徒然とした新居とピロートーク回
『Mobius Cross_メビウスクロス徒然-聖告Ⅵ』
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背景おばさまえ
おひさしぶりです
聖母です★
神の子産んだら魔物に襲われました。天使を 〆(書き損じ)…相談したら、帝都を離れてイウヌほにゃららって国に逃げたら?って言われたのでそーしました。ランスはムクムク成長して、やたら手先が器用で、ガキのくせに大工のマネごとをしてます。それで飯を食ってます。今では幸せに暮らしてます。
おばさんの娘の名前、シャハなんでしたっけ?元気ですか?今度教えて下さい。ジブリエラが教えてくれたのでもういいです。うちのランスと遊ばせましょう。孕ませちゃったらごめんなさい。
ちなみにランスは、すっかり世界一の美少年です。息子じゃなきゃヤバかったです。もう少し成長したらヤバいかもしれません。
the アーメン。
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「はぁ…ちゃんと推敲してあげれなかったけど…手紙大丈夫かしら…」
手遅れ過ぎる独言。告知天使ジブリエラは、幾年経った今日も今日とて台所に立つ。
エプロン姿もすっかり板につき、その背に輝く天使の翼の方が似合っていない、と揶揄されるほど。
加えて一つ、その姿に似合わない鉄の腕輪がジブリエラの炊事の動きに合わせてチャリチャリと鳴っている。それは鎖がついた所謂“手錠”。
その鎖の先を辿ると、同じく鉄輪をつけた手が、出来上がったばかりの料理をひょいひょいとつまんでいく。
その人物こそ、
神の子を産んだ張本人。
告知天使に手錠をかけた張本人。
告知天使に「その羽の方が似合ってねーわ (笑)」と言い放った超本人。
その名も…
「ヤリマ!
つまみ食いはやめて下さい!;」
咎められた我らが聖母。
月日が経ち、その可憐さに より磨きがかかっている。確実に女をアゲたヤリマは、鈴を転がすような、それでいて艶が増した声で言う。
「やだよ。
腹が減ったら食う。眠くなったら寝る。ムラムラしたらスる。常識でしょ?
ジブリエラの料理が美味いから悪いんでしょ?」
「///…もぅ…ヤリマったら…///
手紙、大丈夫なんですか?」
「あぁん? ガキの使いじゃあるまいし、ランスなら楽勝でしょ」
「ランスはまだ子どもでしょう!;
…というか私が心配してるのはそこじゃなくて、手紙の内容です!」
ヤリマは自信満々に答えた。
「大丈夫。俺、学はないけど魂込めて書いたから!」
ジブリエラは何度もナニをかいているのか確かめようとしたが、「やめろ! 見るな! 恥ずかしい!」と締め落とされたり、ペンをグー持ちして一所懸命に書くヤリマの姿を見たりするうちに、しようがない気持ちになってしまったのだ。
優しさが世界を救うとは限らない。
「でもそう言えば…ランス遅いですね…手紙屋に行って帰ってくるだけなのに…;」
「ジブリエラは心配し過ぎよ。ちょっとくらい冒険させろよ。ガキなんて腹が減ったら帰ってくるわよ」
「う〜ん遅いの心配じゃないんですか?; …;探しませんか?;」
「はあ? ガキにも親に見られたくない時間くらいあるでしょ。
えナニ? 俺らも“ガキに見られたくない時間”にスる??」
「バカもうっ///;」
ヤリマは恥じらうジブリエラをよそに、出来上がった肉のオカズを一切れつまみ上げてその小さな口に放り込むと、油の付いた指達をチュッチュパと吸い、ベビーピンクの唇をぷるっと潤ませて悩ましい表情で見上げた。そしてその可憐な掌をジブリエラの胸の前へと伸ばして言う。
「ほら…気が気じゃないんでしょ…?」
ジブリエラはその目を直視できず視線を外すと、徐ろに竈に蓋をして火を始末した。まるでこれからの、火に構う暇が無くなる行為を承服するかのようだ。
そして、視線は外したまま、差し出されたヤリマの手と重なるように自らの手をあてがえる。
ジブリエラの手は、ヤリマのそれより細くたおやかで指長だ。比べてヤリマの手は幼げに見えるが、その指には、エリザ(おば)のお産時に刻まれた傷痕が白くぷっくりと残っていて生々しい。
二人の手は、まず互いの五指をゆっくりと触れさせる。そのままゆっくり互いの指尖球を触れ合わせる。そしてもはやどちらと言わず滑らせた指指は互い違い、小指から一本ずつ、愛おしむように折り重ねてゆく。
二人の手が一つに重なり、互いの体温が溶け合った時、それを感じたジブリエラが吐息を薄く漏らして言った。
「ぁ…
大丈夫! ランス間もなく帰ってきますね」
ジブリエラはその天使的予知により、手を握った相手が想い描く人の居場所がわかるのだ! その為の他愛無き行為である。
「残念がってる?
ランスがもうちょっと遅かったらヤバかったねぇ♡ 俺はいいよ? 息子に見せつけながらやるのも乙ってもんじゃない?」
そう言って絡めた指をウニウニ動かすヤリマ。
ジブリエは赤面してくすぐったがる。
「キャフッ…やめなさいっ/// 神の子の趣向が歪んだらどうするの!」
せめるヤリマ
「はぁ? イケメンはちょっとくらい性癖歪んでる方が尊いわ。
ね? 飯も食ったしさ」
怒るジブリエラ
「食べたのはヤリマだけでしょ!」
少年ランス
「もぐもぐ…いいよ? オレそれをオカズにパン3本いくわ」
「…わ!!;」
おののきジブリエラ。
「こらランス! つまみ食いはやめなさい! いかがわしいオカズの言い方はやめなさい! 帰ったらまずただいまを言いなさーい!」
未来の救世主ランスだ! いつの間にか帰っていた彼は、出来た料理をパクパクつまんでそこにいた!
「やだよ。早くうまいジブリエラの飯食いてーもん」
「あぁもうッ! 駄目な所ばかりヤリマに似ていく…ッ!///;」
「さすが我が子。遅かったじゃない心配したぞ★」
聖母はサラッと嘘を吐きながら吾が子の銀髪をサラサラッと撫でた。
そしていつものように、グーサインの親指同士を ちゅっ と合わせる聖親子。
「ごめんお袋。手紙出しは一瞬で終わったんだけどよ、なんか蛇に噛まれた女の子助けてたら遅くなった」
「お! 可愛かったか?」
「おう。小っちゃかったけど、ありゃあ絶対可愛くなるな。元気系。
土産くれたぜ。十字架かコレ?」
ランスはそう言って拳大の十字架らしき物を見せた。頭の部分が輪になっている。
「それは“アンク”ですね。☥
古来よりイウヌポリスに伝わる、“生命”を表す象形文字、ないし装飾品です。『アンクの力を信じる者は、一度だけ生き返る事ができる』などと言い伝えられているお守りですね。ん…? 随分高級な…逸品ですね…」
ジブリエラはそれを見てうんちくを披露する。
ヤリマもそれを見て言った。
「ナニそれ♀(メス)マークじゃん (冒涜)
。ヤるなランス! ガキの癖に昼間っからほっつき歩いてタネ蒔き準備とは、精が出るわね。女からのマーキングは大事にしろよ!」
「ナニ言ってるかわかんねーけど全部わかったよ、お袋」
「///わからなくていいです!; さ、ご飯にしますよ!」
「 「俺らもう食ったし」 」
ジブリエラがうんちくを披露しているうちに、親子の晩餐は済んでいた。
このように、作った傍からつまみぐいされ、「いただきます…」と言う頃には、一人飯になっている事もざらなジブリエラ。でも寂しいかと言われるとそうでもない。何故なら…
「いただいてました。ほれ、ジブリエラ、あ〜ん…」
「いただいてました。ほら、ジブリエラ、あ〜ん…」
聖母子が交互にあーんしてくれるから。
パク。モグモグ…「…んもう…作ったのは私なのに…」
「美味しいね♪ジブリエラ」
「いつもありがとうジブリエラ」
「あぁ…もうっ…///」パク。モグモグ…
そうして何気ない一日も終わり、川の字になって眠る聖家族。
聖母と天使の間で、すこやかな寝息を立てるランスの頭は歳なりに小さく、手を置くと温かい。
その美しい銀髪を水を掻くように撫でながら、ジブリエラとヤリマは小声で語らっていた。
「…寝顔が本当にかわいいですね…」
「は? 俺の方がかわいいし。ナメんなよ?」
「子供と張り合わないで下さい;…」
実はジブリエラは知っている。ヤリマも寝顔は堕天級に可愛い。
それと もう一つ、ヤリマはある事でランスと張り合っていた。
「ねえジブリエラ? 最近思うんだけど、ランスと一緒に鍛えててさ、こいつ強くなんの早いでしょ? 成長期だし」
「はい」
「でもそれ以上に、俺が強くなってんの。俺史上一番の伸び。ランス産んだくらいからかな…どーせすぐ抜かれんだろって思ってたのに、成長期の息子より成長早い母親ってナニ…??」
「うーん…それに関しては、『卵が先か鶏が先か』、神さえ欺く貴女がイレギュラー過ぎる可能性もありますが…。
ただひとつ言えるのは、神の子を宿せば、母体たる貴女もその神性の影響を享ける。神の子とは、出会えるだけでも奇跡。その繋りが深くなれば、今度は出会った者が奇跡を体現する存在となっていく。神の子とはそういう存在です」
「……どゆこと?」
「;;;…つまりですね…
人は、母になったら強くなる。そういうものなのです (諦め)」
「なるほど (納得)」
「…ねえヤリマ。どうしてランスを鍛えるのですか…? 救世主となる運命だからって、そんなに焦る事はないのですよ?」
「別に大層な理由は無いよ? 俺のマネして鍛えだしたからシゴいてヤってるだけ」
ジブリエラは鼻息を荒くし食ってかかる。
「でも! 子供にはもっと相応しい過ごし方というものが…!
大工仕事でお金を稼いで鍛練までして、“楽しいから煩ってない”なんて言うけど、大好きな泥団子遊びも我慢してるし…救世主だからって、もうちょっと子供らしくさせてあげたらどうです? 今こんなに平穏で、世界を救うのなんてまだまだ先の話なのですから…。ヤリマからも…」
「俺も“男は遊んでデカくなれ”とは言ったよ? 1回。」
「1回じゃダメです!;」
「何度も同じ事言うかよめんど臭え」
「!? ん面倒臭いって…あなた親でしょう;;」
「親だからって面倒臭いことしてやる責任俺には無い。俺にできんの、身体の鍛え方と使い方教えるくらいだし。あと性教育。」
「そ;そんなぁ…」
「ジブリエラさ…ランスがずーっと前に話した“ただいま”言わない理由覚えてる?」
「え… (何の話…)?
一応…。『ただいまは…言おうと思ってて言えなくなったら悔しいから言わない』でしたね。なんとも正論で…でもどこか儚い答え…」
それを聞くと、ヤリマもランスの髪を解きほぐすように撫でながら喋る。
「よくわかんなかったけど、そんなに頭いいんだし好きに生きればいい」
「でも!; 子供らしい生き方を教えてあげるのも親の役目ではないですか?;」
「らしいとか知らんわ。俺は俺。コイツはランス。コイツの人生…コイツが聖人になろうが…ダメ男になろうが…どっちでもいい…」
「もぉ…何を言っているのです…いいですか? この子は善き子として幸せに過ごし、心身とも十分成熟した頃、“ある人物”から洗礼を享けて、民を導き、後に世界を襲う災厄を打ち祓う、救世主としての道を歩み始めるのです…。ふふふ♪ ある人物ですよある人物…お楽しみです…♪ そして……」
「…ふあぁあぁ〜〜っ……」
ジブリエラが他人事を自慢げに語っていると、ヤリマは大きなあくびで遮った。
「…バカねぇ…人の人生がどうかなんてお前が決めてんじゃねーよ…
俺もコイツも…目先のHappyに生きりゃそれでじゅーぶん…ジブリエラも居るしね〜…♡」
そう言ってヤリマは、ジブリエラの手に指を絡ませ握る。
「…もぅ…///; 私はいつ楽園へ帰れるの…」
「ムニャムニャ…もぅ俺無しじゃいきられないカラダの癖に…もぅ…寝よ…zzz」
「バッ…///; 天使は寝ません!;」
「ムニャ…ジブリェラ…ぃかなぃで…」
ヤリマのそれはいつの間にか寝言に代わっていた。ジブリエラの手を握ったまま眠り、いつしかランスの手も握っている。
ヤリマの手を握り返すと、二人を繋ぐ鎖がカチャリと音を立てた。ジブリエラは優しく目を閉じ、自分もランスの手を握って囁いた。
「…いったりしませんよ…」
「ムニュ…アァ…ぃかなぃで…俺がィクまでに3回もィカないで…アァ…ダメ…イッ…! …ッ…ッ……フゥー… (恍惚の寝息)zzz」
(…oh my God…)
__私は、御言葉を賜っている。
世界は白。その 後光が全てを包み、御言葉の主だけがぼんやりと黒く浮かぶのみ。
世界は無音。その全なる御言葉は、声を介する事は無い。
ただ一つの音も発せず、私の魂に全てが響き渡り、瞳の奥に全てが描き出される。
世界の始まりから、終わりに到るまでの、全て。その、全の知の中から、今、私が摘み上げ、告げなければならない事柄は…。
それを理解した途端に、目の前の世界は一変する。御言葉の主…主が手を翳すと…その黒く浮かぶ御姿に、後光…世界と同じ色をした何かが巻き付いて…御姿と混ざり…白と黒の中間の色になっていく…御姿も、世界も、私自身も、その色になっていく。
新たな世界の色に溶け、肉体も精神も朧気な中、魂で感じ取ったその御言葉は…
_滅び(救い)が近い_
その瞬間。夢の世界は赤く塗りつぶされて幕を閉じた__
…ガバッ!
と目覚めるジブリエラ。青ざめた顔。乱れる息。
…眠っていた…? 天使の私が…? いやそれよりも…
知らなかった…知る由もなかった…。
目覚めている時と夢見ている時で…予知が違う…!
善き知らせと兇き知らせが同時に…未来が乖離してる…!
滅びも救いも近寄って来ている…何これ…もう…“わからない”…。
「…おぉ 我が 神よ…」
本編へと繋ぐ破滅の使徒の足音が聞こえてきましたね。