第二十二話 逆転結婚式
ハーケン村にある聖アルプス教会、普段は村の子供に教育を施したり、礼拝集会を行ったりをしているのが常だが、本来の仕事である婚姻の儀や葬儀なども勿論執り行う。
本日ここでは貴族の男性と平民の女性による、身分違いの結婚式が行われる予定である。
既に参列者席もほとんど埋まっており、時間も定刻となりつつある。
ステンドグラスが輝きオルガンの音が鳴る中、本日の司式者であるサイバン神父長は新郎新婦両方の参列者席を見た。
新婦側の席に座っているアルベルト以外のクロワッサン家の面々は複雑な顔をしていた。彼や彼女らは何故メアリーが急に心変わりをしたのか、アルベルトの置き手紙に詳細が書かれて無かったこともあって、具体的な理由はよく知らなかった。
結婚式直前に全員が純白のウェディングドレス姿のメアリーに少しだけ会うことは出来たが、今までのお礼を言われるだけで具体的なことは何も聞かされ無かった。"ちょうど貴族に戻りたくなった時に縁談が来たから受けた。アルベルトとは別れた"それくらいの説明では、彼女のことを家族として見てた皆としては到底納得できなかったが、彼女の瞳には強い意志が宿っていた為、それ以上何も言えなかったのだ。
「お袋、アルベルトはまだ来てねーの?」
「王都に行くって書置きには書いて有ったけど……まだみたいね」
「舌打ちが出るくらい仲良かった二人なのに、なんでこんなことに……」
「あうあうー」
「ああ、ウマイも悲しそうな顔してる」
クロワッサン家の面々は全員が暗い顔をしながらため息をついた。
新郎側の席にはアウラとクリスが並んで座っていた。
アウラは結婚式直前までの二日間、自領にてメアリーと共にいた。結婚式前にアクズに引き渡さないで実家の屋敷にメアリーを軟禁状態にした。アウラは恋人同士を引き裂いた原因である自分に対して、メアリーから恨みの言葉を聞きたかった。それを聞いて少しでも自分の罪悪感を減らしたかったのだが、諦めたようにしおらしくしている彼女を見て、むしろ行き場の無いやるせなさが大きくなった。
クリスはアウラに対し説得したが、結局どうにもならなかった。子爵家と平民の結婚に割って入れるほど侯爵家の権力は大きくないし、そもそもアウラはそんなつもりも無い。
「クリス……私のこと、嫌いになった?」
アウラは隣に座っているクリスに語りかけた。アウラは自分のしたことに対し、誰かに責めてほしかった。
「うーん、アウラのしたことは最悪だし陰湿だし性格悪いなぁと思うけど、私の為にしたことなら嫌いにはならないかな…」
クリスは歯に衣着せぬ言い方で、アウラのことをばっさり切った。アウラの心臓に少しダメージが入った。
「多分、アウラが思うようなことにはならないと思うな。あの二人が紡いだ絆はそう簡単には切れないと私は信じてる」
「分かったようなこと言うんだね。もうどうしようもないよ」
「何か壁があっても二人で仲良くなんとかしちゃうの、私とアウラみたいじゃない?」
「……クリス」
本当にどこまでも優しくて良い子だ。そんな彼女に対する想いが暴走してこんなことになってしまった。いくらメアリーがヘドロより汚い性格のゴミカス以下のクソオブクソな最低の悪女だとしても、もう少し後腐れの無いやり方はあったかもしれないと、アウラは自身の行いを後悔していた。
トウシンは彼女のスザンヌと一緒に並んで座っていた。
村一番の商家であるサンジェルマン家はアクズのシュジナロ子爵家と仕事面での繋がりがあった為、新郎側の参列者席に座ることになった。
「気にいらないねぇ……」
「何が?」
「あの馬鹿女だよ。気に入らないんだよ、まだあの時の復讐してないってのに貴族に嫁ぐとかさ……」
「トウシンそれまだ言ってたんだ……」
フローラは若干落胆しながら新郎側の参列者席に座っていた。
彼女はこの村にいる画家として、商家のサンジェルマン家に雇われた。愛し合う二人の幸せな姿とそれを笑顔で祝福する周りの皆を写実して欲しいと頼まれたのだ。
教会の皆が幸せな笑顔を浮かべる様子を描けることを嬉々として引きうけたが、どうも想像していたものと違った事にがっかりしていた。
泣いている者、俯いている者、怒りに燃える者、どちらかというと負の感情が多く見られる気がする。仕事を選べる立場にある彼女は、正直描く気が失せてきた。
そんな色々な想いが会場内に交錯してる中、結婚式は始まった。
「静粛に。それでは、定刻となりましたので、結婚式を執り行いたいと思います。本日は私、神父長であるサイバンが司式者をさせて頂きます」
サイバン神父長の言葉に、会場内は静かになった。それを確認し、一度頷いたサイバンは開式の辞や精霊書の朗読などといった、一般的な結婚式の儀を進めていく。
「それでは新郎の入場です」
その言葉を聞いて、聖壇へと歩いて向かうのはアクズだ。彼は満面の笑みで進んでいった。
「続いては、新婦の入場です」
その言葉の後、純白のウェディングドレスを身に纏ったメアリーは、子爵家現当主に腕を引かれながら、バージンロードをゆっくりと歩いていた。
初めて新婦を見た参列者の面々はその美しさに小さくおおぅ……と感嘆の声を上げた。煌く黄金のような髪に加えその容姿の良さ、さらに完璧なボデイラインまで持つ彼女は、まさに精霊や女神といった人外の美しさがあった。高貴さと清純さを併せ持つその姿に、これから結婚する女性というのも忘れて多くの男性は目が釘づけになった。
彼女は新郎の隣に並び立った。
「メアリー殿、いや今日からはメアリーと呼ぶよ……本当に綺麗だ」
「どうも」
アクズは目の前にいる美少女がようやく次元を超えて自分の物になることに喜びを隠せなかった。
不安要素も取り除き、これがゲームならまさしくハッピーエンドだと胸を躍らせた。
新郎と新婦が二人揃った事で、精霊書を朗読するサイバン神父長による誓約の言葉が始まる。
「新郎、汝は健やかなる時も病める時も――……誓いますか?」
彼は永遠の愛を誓い合う儀式を言葉にして二人に紡いでいく。
「誓います」
アクズがそう答えた後、一度頷いたサイバン神父長は新婦にも同様のことを尋ねた。
「では新婦、汝は富める時も貧しき時も――……誓いますか?」
「誓います」
新郎と新婦、両方の合意を聞き届け、サイバン神父長は再度頷いた。
「それでは、皆さん、お二人の上に精霊様の祝福があらんことを願いを込めて、祈りましょう。もし、この結婚に異議のある者は今申し出なさい」
神父長としては、いつも通りのお決まりの言葉の一つ。この後数秒の祈りを会場の者達全員で行った後は再度精霊書の言葉を紡ぐだけだ。
しかし、この言葉に反応して、バンッ! と前の木作りのイスを一度叩いた後、挙手をしながら大声を出す不届き者がいた。
「異議あり! 異議あり! 異議ありぃ!」
「ちょ、クリス!?」
アウラには先ほど綺麗なことを言っていたが、クリスはこの結婚式に対して、かなりフラストレーションが溜まっていた。自分が泣く泣く、泣く泣く泣く泣く泣く泣く…くらいの想いでアル×メアの間に割って入らずに身を引いたと言うのに、横から急に出てきた変な男がメアリーと結婚するのは納得がいっていなかった。
クリスが大好きだったアルベルトは、最終的にメアリーを選んだ。選ばれたメアリーがアルベルトを選ばずに他の変な男と結婚する。納得、出来る訳ないんだよなぁ。端的に言ってクリスはこの結婚式をぶち壊したかった。
「メアリー先輩! 本当に良いんですか!? このままで! そんな変な男! アル先輩より上な訳無いでしょ!」
クリス、必死の慟哭。これに驚いたのは、言われたメアリーより周りにいた他の参列者及びサイバン神父長だ。
教会内がざわめき、アクズも何故原作主人公が急に叫び始めたのか分からずに混乱した。メアリーは無言だ。果たして彼女にクリスの言葉は届いたのだろうか。
「なら僕も、異議ありだぁ!」
「ちょ、トウシン!?」
混乱の最中、また一人前の木製イスを一度バンっと叩いてから大声で異議を唱える者がいた。
「そこの馬鹿女の復讐、ようやく思いついたぜ。貴族との結婚だとぉ…!? ふざけやがって、僕より偉くなるなんて絶対許さねえかんなぁ!?」
家の関係とかそういった事を考えずにトウシンは立ちあがって言い放った。言った台詞だけで見るとまさに短慮とも言える行動。
だが、彼の中にはアルベルトとメアリーが仲良さそうに歩いている様子を村で何度か見て、素直に祝福する気持ちが少なからずあり、別に二人の為とは言わないが、この結婚式は何故か気に食わなかったし滅茶苦茶にしてもいいかと突発的に思ってしまったのだ。
「おい! 馬鹿女! お前にはアルベルトくらいがちょうどいいだろ! 身の丈を考えろよこの馬鹿が!」
「トウシンのそういうとこ割と好き」
一度出来た流れとは恐ろしい物で、更に異議を申し立てる者が出てきた。
「異議あり! 私まだ、メアリーちゃんと一緒に買い物に行ったり畑仕事に行ったりしたい!」
「異議ありぃ!! メアリーちゃんとアルベルトが居ないと! 折角買った高級耳栓が無駄になるだろ!」
「異議っしょ! メアリーちゃんとまだ一緒にクラブに行ってねぇし! それにやっぱアル×メアしか勝たん!! Fooooo!!!」
「いぎゃーり!」
「あ、ウマイが喋った」
「異議あり、やっぱりその新婦さんの表情が気になるな。この絵は私の描きたい物じゃないかな」
最早会場は滅茶苦茶だ。アクズは必死の形相でそいつらをつまみだせ! と叫んでいるが、ここは非暴力地帯の教会内。
衛兵はいないし、アクズの部下達は奴隷に近い平民だったのでここには参列していない。
「静粛に! 一度落ち着いて下さい皆さま!」
サイバン神父長の響く声で、全員が多少落ち着いてざわめきも少なくなる。彼がその様子にホッと胸をなでおろすと、どこからか変な音が聞こえてきた。
ぱからっぱからっぱからっ……!
馬が走るような音はどんどん近付いて来て、どがっしゃああああん!!! っと盛大な音を立てながら、突如現れた白馬とその騎乗者は教会の入り口を破壊した。
その姿はまるで前田慶次の城門突破、まさに傾奇者の様な豪快さでその場にいた全員が口を開けて驚いた。
「その結婚、待ったぁ!!」
馬車が壊れて一人だけ白馬に乗っては来たが、乗馬経験が無かった為、暴走を制御出来なかったアルベルトはそう叫んだ。
ハーメルンの方に、流されるまま書いた頭のおかしいR18IF小説投稿したので気になる方はどうぞ。
https://syosetu.org/novel/250762/
作者名は松風呂です。




