第二十一話 親父面談
キリ悪いので今日中にもう一話投稿します。
王都に着いた俺は真っ先に王城へ向かい、どうにかアイリス様と謁見の場を作れないかと右往左往した。
俺は彼女のフットワークが軽過ぎて麻痺していたが、結論としては一国のトップと会うのはそんな簡単な話では無く、せいぜいやれたことは門番の方に、移動中に書いたアイリス様宛の手紙を渡すくらいしか出来なかった。
早くも可能性の一つが潰れたような気はしたが、ルドルフ公爵と会うべく公爵家の屋敷へと向かった。
公爵領の本家ほどではないが、見るだけで圧を感じる立派な門構えをした豪勢な屋敷だ。ここに来るのはメアリーと一緒に呼ばれた日以来になる。
最初は怪しげな視線を向けていた門番の方も、俺がクロワッサン家の者と分かると中に入れてくれて、ルドルフ公爵と会えるように使用人の方に口利きしてくれた。お勤め御苦労さまです。
そんなわけで、俺は忙しい合間を縫って貰い、ルドルフ公爵の執務室で彼と対峙した。俺が美辞麗句を含めた挨拶を手短に済ませると、彼は口を開いた。
「久しいなアルベルト。シュジナロ子爵家の長男とメアリーが結婚するらしいな。子爵家から連絡は既に入ったので現状はおおよそ把握している」
「話が早くて助かります。どうか、お嬢様の結婚を取り止めさせて下さい」
「あの無能は最早サマリー家とは縁が切れている。どこの誰とでも好きにすればいい、アレの人生に今更口を挟もうとは思わんな」
まるで近所の野良猫が子供を産んだくらいの、どうでもよさそうな話を聞く態度でルドルフ公爵はそう言った。
「……お嬢様は、以前までとは違います。今は思いやりもあって、他者を重んじる心を持ってます」
「ほう、それで?」
「彼女は、俺の家族を救う為、自らを犠牲にしてこの婚姻を受けるつもりです。アクズ……、子爵家の長男は人道に外れた性格の下種です。実際に学園時代にも、無理矢理に彼女を手籠にしようと画策しました」
「お前が退学になった一件か、それで?」
「それでって……、そんな男と、実の娘が一緒になるなんて親として憤る気持ちはありませんか?」
「全く無いな。二度言わせるな、好きにすれば良い。仮に結婚を取り止めにしてそのあとはどうする気だ?」
暖簾に腕押しな状態のルドルフ様に、俺は紫色のカーペットの上に頭を擦りつけ、土下座して懇願した。
「お義父さん、娘さんを俺に下さい!」
執務室に響くくらいの声量で叫んだ。これが物語なら、堅物な親父もやんわり許してくれそうな場面だが、現実のルドルフ公爵はそんなに甘くない。
ルドルフ公爵からの視線を感じる。頭を下げているので様子を伺えないが、呆れるようなため息が一つ聞こえたので好印象というようでは無かった。
「アルベルト、正直落胆した。お前は合理的で優秀な使用人だったが、そんな風に感情に訴えることしか出来なくなったのか?」
「俺なら世継ぎの件も含めて、子爵家長男より都合が良いと思います……!」
「世継ぎの件、誰に聞いた? ああ、アイリスか……余計なことを」
呆れた口調を隠しもせずに、ルドルフ公爵は言葉を紡いだ。
「アレは母親似で器量だけは良いからな、今回の縁談が流れたとして、これからも容姿だけ見て言いよる貴族は増えるだろう。その度にこんな風に頭を下げるつもりか?」
「そんなつもりは……」
「そもそも元使用人なだけで平民のお前より、子爵家とはいえ貴族の長男が劣っている箇所が見当たらんな。世継ぎの件も、産まれる前から公爵家に有利な条件を結べば良いだけの話だ」
合理的で貴族的で、娘の幸せどうこうは度外視した物言い、久しぶりに会っても変わらないなこの人は。
「まさか、自分の方がアレを愛しているから、等とのたまう訳ではあるまい。言っておくが、元使用人であることを除けばお前は只の平民だ。本来はここで私と話すことも難しい存在で、お前ら二人は既に公爵家の庇護を離れている。他に私に言いたいことがあって来たんじゃないのか? 無いのなら話は終わりだ」
かなり昔、アイリス様に尋ねたことがある。ルドルフ公爵は本当に娘を愛しているのかと。
常に王都暮らしで宰相の仕事をこなすのは立派ではあると思うけど、年単位でしか公爵領に戻らずに娘に会わないのはどうなん? と、性格をこじらせてるメアリーを見て、彼女の専属使用人として思ったものだ。
メアリーは自分が父親に愛されていると疑ってはいなかったし、常に俯瞰的に物事を見ているアイリス様なら分かるような気がして尋ねた。
アイリス様曰く、滅茶苦茶分かり辛いけど、きちんと情や愛は持っているらしいとのことだ。自分がそういう風にしか育てられなかったから、娘にもそういう風にしか接することが出来ないんだろ、と簡単に言う彼女を見て、親に対しても偉そうに評価するんだなぁと感心したと同時に、それ本当かなぁ? と疑う気持ちはあった。
あの時疑って正直すまんかった。なんだかんだ言ってメアリーのことは愛してるみたいで良かった。このツンデレお義父さんめ。
そうでなければ、多分こんな風にヒントを送るような、俺を誘導するようなことは多分言わない。
「ではルドルフ公爵閣下、最後に一つお願いがあります」
俺は用意していた2枚の紙を出した、ルドルフ公爵はそれを読んだ後、俺達は揃って調印した。
屋敷を後にした俺は、王都にあるカフェでロイヤルミルクティーをしばいていた。ハーケン村行きの馬車便に乗るまでの時間つぶしだ。
「なんだ、泣きながら河原で石でも投げてるかと思ったら、存外平気そうだな」
対面の席に、中々捕まえられなかった王子妃様が腰かけた。相変わらず護衛を連れていない。この国どうなってんの。
この様子だと、アルベルト作の慈悲を乞うような内容の手紙はきちんと届けられたらしい。王城の方の門番さんもお勤め御苦労さまです。
「アイリス様、助けて下さい」
「その様子だと、既に親父殿に何か言って受け入れて貰えたんだろ。思惑通りという所か? ま、私はこの件には中立だ。腐っても王族、ヘタに肩入れ出来ん」
「……この前は応援してる風だったくせに」
「私は愚妹の意志を尊重する。嫁ぎたくない相手にだろうと本人に嫁ごうとする覚悟があるなら全く問題ない。愛など婚姻後に育めばいい、それが貴族だ」
「そういう貴族的な考え方、本気で理解できないです」
「当たり前だろ、お前は平民なのだから。それで、どうにかなりそうか?」
その質問に対し、どうなるかは俺自身まだ分からないが、俺の答えは是しか無い。
「やるだけやってみます。メアリーの事、諦められないですから」
「そうか。ところで手紙に書いてあること本当か? あの貴族主義の愚妹が平民を救う為に自己犠牲の精神を持つなど未だ信じられん」
「成長はしたんでしょうけど、らしくないです」
「ああ、全くらしくない」
緊迫感の無い世間話のような会話。アイリス様の助力はかなり期待していただけに、正直残念でしか無いが、ある意味俺を信頼してくれていると好意的に受け取ることにした。
「折角だ、私と一緒に結婚式に行くぞ。一応姉として招待はされているからな、馬車は用意してある」
「ありがとうございます。ご一緒させて頂きます」
王都に来て一日も経たぬというのに、観光なんて微塵もしないで俺はとっととハーケン村へとんぼ帰りだ。アクズのせいだ全部。
まさかこの時の俺は、移動中に馬車の後輪が壊れたことが原因で道中やたらと遅延して、結婚式に遅れることになるとは露ほど思っていなかった。




