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第十七話 コカトリスは探せばいるレベル 後編

 

「はい、長らくお待たせしましたね。それでは本日はですね。こちらのコカトリスの解体ショー、始めていきたいと思います。こちらのコカトリス、大体200㎏程なので、別段大きいという訳では無いんですけど、500人分くらいの食料にはなると思います!」


 俺とクリスさんは村の広場にある食料市場でコカトリスの解体ショーを見ていた。


 以前行ったギルドの近くにあることから、もしかしたら冒険者が狩猟した生き物をここで売っているのかもしれない。


「知っての通りコカトリスはしっぽは蛇肉、首から下は雄鳥で胴らへんはドラゴンの肉がとれます。残念ながら翼の部分は食べれないので、まずはここから切ってきましょう。はい! ご覧の通りです。倒した冒険者さんがね。火魔法や氷魔法なんて使ってないのでね。見ての通り生だから綺麗に切れました。まぁ魔法なんて使える方滅多にいないのでね。基本皆こんな風に解体していきます。はいお次は――」


 どこかで見たような浅黒い肌の大男が、説明口調で各部位の特徴や、味の違いなどを指摘しながら解体を進めていった。


 血抜きが既にされているのか、切られたコカトリスは特に血が噴き出したりといった事も無く、あまり料理に詳しく無い俺には仕組みが分からないが、想像していたよりグロテスクな印象は抱かなかった。


 むしろ使用人を勤めるより以前、小さい頃に通った教会での情操教育を思い出した。歳をとるごとにいつからか薄らいでいた、命を頂くという行為の重さや、他の命を糧として生きていくことの大切さを思い出せた気がする。


 俺達はこの後引き続きデートすることも考えると、生きていた頃とは別のものへと変化し分かれていくコカトリスを買うことは出来ないが、余すところ無く売れて食べられて欲しいと願った。


 いや、なんだこれ。


 デートってこういうのだっけ? こんな命の大切さを学ぶ道徳的な場だったっけ?


「私、こういうの初めて見るんですけど、来て良かったって思います。私達は他の命の上に成り立ってるって改めてきちんと実感出来た気がします」

「確かに」

「私、今まで以上に出された食べ物は全部きちんと食べますね」


 貴族というと、暴飲暴食な割に無駄に食料を余らせては捨てるイメージがあったのだが、クリスさんは真逆のことを言い出した。


 彼女が来て良かったって言ってくれるならべつにいっか。


 そんな風に思いながら大男の剣捌きの技量を結構楽しんで見ていると、やがてショーは終わった。


「折角広場まで来たし、次は雑貨屋でも見ますか」 

「そうですね。アル先輩なんか欲しい物とかありますか? 私お金出しますよ」

「それは男の方の台詞だな」

「遠慮しなくて良いですよ! ただし! ペア物に限ります」

「じゃ、宝石店でも行きますか。一番高いの買ったる」

「ななっ!? ……そんなに今お小遣い持ってたかなぁ」

「冗談冗談」


 そんな風に軽口を交わしながら市場の雑貨屋巡りをした。お揃いのブレスレットとか買う機会は無きにしも非ずだったのだが、俺もクリスさんもあまり装飾品に心が引かれなかった為、なんとなく買うかという雰囲気にならなかった。


 やがて俺達は猫カフェに行きついていた。クリスさんは猫好きらしい。


「アル先輩は猫とか好きですか?」

「動物全般苦手です。猫は特に」

「え、ごめんなさい! 意外ですね。やめときますか?」

「嫌いってわけじゃないから大丈夫ですよ」


 そして俺達は、猫と戯れながらお茶を嗜むことが出来る、紳士淑女御用達の定番たる猫カフェの扉へと足を進めた。


 猫は苦手だ。可愛いけど気まぐれで我儘で何するか予測不可能なんだもの。物とか壊すし。


 店に入ってみると、大中小で色とりどりのよりどりみどりの猫達が、それぞれ気ままに過ごしていた。


 他のお客さん達は猫を撫でたり、餌をやったり、猫じゃらしで遊んだりと皆楽しそうだ。


「じゃ、ちょっと二人分お茶持ってきますね。アル先輩は座って待ってて下さい」


 了承して、木で出来たイスに座って待ってると、大量の猫達が寄ってきた。俺は餌を持ってるわけでも、またたび持ってるわけでもないんで、自分のおうちにお帰り。ほら、早く。ぎゃあああああ。


 俺は大量の猫に飛びかかられた。至る所を甘噛みされたり舐められたり肉球で踏まれまくった。もふもふと全身もみくちゃにされ、されるがままだ。


「ほわー。すっごいモテモテ」


 お茶を持ってきたクリスさんは、全身に猫がびっしりくっ付いてる俺の姿を見て、感嘆の声を出していた。俺はまるで、一つの皿にあるミルクを猫達皆で分けて飲むがごとく、大量の舌で顔をぺろぺろ舐められた。ざらざらする。


「どうも昔から不必要に動物に好かれる体質らしくて、困ってるんです」

「えーそうですか? 羨ましいですけどねぇ」


 よしよしと一匹の白い子猫を撫でてやると、にぃにぃと嬉しそうに鳴いて目を細めていた。他の猫達は順番待ちで列を作って並んでいる。


「私なんか昔から全然駄目ですよ。こんなに好きなのになぁ。にゃあにゃあ」


 そう言ってクリスさんは屈んで猫の高さまで目線を下げて撫でようとしたが、その猫に威嚇されていた。


「こっちの子とか人懐っこくてお勧めですよ」


 そう言って近くの黒い猫を渡したら。もしかして店員さんですかというツッコミを受けた。




 楽しい時間はすぐ過ぎるもので、あの後ケーキバイキングに行ってクリスさんの大食漢っぷりに驚いたりもしたが、いつの間にか空は茜色に染まり、そろそろデートも終了の時が近づいてきた。


「少し歩きませんか?」


 クリスさんのその言葉に従い、俺達は夕焼けの下、村にある名も無き湖の近くを歩いていた。


「クリスさん、今日は楽しかったです。最初は緊張しましたけど」

「私こそ、好きな人と一緒に過ごすのってこんなに嬉しいんだって、すっごく楽しかったです」


 好きな人か。彼女からの真っ直ぐな好意が伝わってくる。その思いが、気持ちが、心地良いと感じている。


「アル先輩は、私のことどう思いますか?」

「魅力的な女性で優しくて、個性的で可愛いです」

「でへへ……、っていや嬉しいけどそういうんじゃなくて、好きとかラブとかの方で……」

「まだ会ったばかりだから実はよく分からん」


 この場を誤魔化すような台詞だが、俺の本心だった。精一杯の気持ちを伝えてくれる彼女だからこそ、正直に今の自分の気持ちを伝えるのが誠実だと思った。


「いくら本音でも、卑怯ですよその言葉」

「ごめんなさい」

「でも、じゃあこれからお互いのこと知ってけば良いって話ですよね?」

「初デートで浮かれてて失念してたんですけど、第二王子が恋敵になりますよね? それはちょっと不味いかなぁ……」

「ちょ、本音で語り過ぎです! そもそも何度でも言いますけど、チャールズ先輩とは何にも無いですから!」


 ほんとかぁ? 少なくとも向こうはそうじゃないだろ。でなきゃメアリーも婚約破棄なんてされな、いやあの性格ならされるか。


「アル先輩だって、メアリー先輩のことが好きな癖に……」

「いや、それは無い」

「嘘ばっかり。おかげで私は泥棒猫の気分ですよ」


 ふてくされるようにクリスさんはそっぽを向いてしまった。いや本当にそんな気持ちは無いんだけどなぁ。いや実際どうだろう。うーむ……。


 駄目だ。わかんね。


「そろそろ帰りましょっか。宿まで送りますよ」

「あ、アル先輩髪の毛にゴミ付いてますよ。屈んでください! 取ってあげますから」

「もしかして、屈んだら不意打ちキスとかされませんよね?」

「あは、バレちゃった」


 なんかの小説で読んだ気がするから冗談で言ったのだが、マジだった。油断も隙も無いな、天使のようだったクリスさんが小悪魔に見えてきた。どちらにしても可愛いからアルベルト的にはおっけーです。


「でも、折角の初デート記念だし、やっぱりアル先輩からキスしてほしいなぁ」


 そう言って笑った彼女は、目を閉じてむいーっと口を突き出してきた。


 軽口のように言っているが、彼女の顔が耳まで真っ赤になっているのは、夕焼けのせいでそう見えるだけでは無いであろう。


 そんないじらしい姿を見ると、抱きしめてその唇に自分のそれを重ねたくなるが、一人の少女の顔が脳裏を掠めた。


 頭に浮かんだのは、黄金色の髪を持った一人の少女。俺の妄想の中くらいでは笑顔でいてほしいのだが、その表情は影が差していた。


 躊躇してる間に、キスチャンスの時間は終わったらしい。彼女は目を開けて、恥ずかしそうに笑った。


「やっぱ駄目かぁ。あはは」

「ごめんなさい」

「謝らないでくださいよ。アル先輩は初めて会ったときから謝ってばかりなんだから!」


 何事も無かったかのようにクリスさんは笑っていた。確かに彼女の言うとおり、謝ってばかりだな俺は。


「いやだな。なんか、しんみりしちゃった。それじゃ、お言葉に甘えて宿まで送って下さい。デートは家に帰るまでがデートですから!」

「お任せ下さい。もし悪漢が出たらバッタバッタカマキリとなぎ倒します」

「期待してますね」


 道中楽しく談笑しながら、彼女を無事に宿へと送り届けた。勿論送り狼などせずに、俺は真っすぐ家に帰った。





「ただいまー」


 家に帰った後、リビングへ行くと両親が二人揃って困った顔をしていた。


「どしたん?」

「あ、アルベルト一人か、実はメアリーちゃんがまだ帰ってきて無くてな」

「どっか出かけたのか?」

「パン屋の方におつかいに行って貰ったんだけど、もう2時間くらいになる」

「向こうで義姉さん達と談笑してんじゃないの?」

「それなら良いんだが、なんか思いつめた顔してたしな。俺はパン屋の方に行ってくるからお前もその辺探してきてくれ」

「私は家の方で待ってるわ。メアリーちゃんに何事も無ければ良いんだけど」


 なんか大げさに心配してんなぁと思ったが、妙な胸騒ぎがした俺は、彼女を探しに直ぐに家を飛び出した。




 ◇◇◇




「おーいおいおいおいおいおい」

「よしよしクリス、辛かったね。初恋は実らないって言うし、あとその泣き方は直そっか」

「ひっく、まだフラれた訳じゃないもん」

「やっぱりメアリー先輩が邪魔だよね。安心してクリス、私がなんとかするよ」

「え? アウラ?」

「私のクリスを悲しませるなんてあの女絶対許さない許さない許さない許さない排除排除排除排除」

「ひえっ」



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