逝ってしまった大魔王との思い出
私の大好きな大魔王さまへ
名探偵に恋した文学少女は
人生を迷いに迷って
海峡のあちらとこちら
それを捕まえたのはあなただった
国境知らずの不思議なあなた
ロンドンで働くサラリーマンと思って
嫁いでみたら大魔王
必殺技は私を甘やかすこと
都会でしか手に入らないおにぎりを
定時後寄り道持ち帰る
魔王様の住む田舎町には何もなく
お気に入りの暇つぶしは
近くの海辺へ出かけること
あなたは浜辺に寝そべって
容赦ない潮風と陽を浴びる
側女の私は日焼けし過ぎないよう
身を挺して陰をお作りした
投げ出された足
つま先の向こうに水平線
立ち上がる入道雲
頑固一徹大魔王のくせに
家のどこに居ようとも
私の動きを追っていた
片眼を瞑って眺めていた
まるで眩しい聖女であるかのように
私が森の動物園へ働きに出かけても
忍者のように気配は付いてくる
あなたは私に魅せられていた
私はあなたに手を引かれている
逝ってしまってもそれに変わりはない
私は魔王様のコントロールから解けたくない
外れたくない
このままでいいから縛っていてほしい