[01-17] ドラウの女
カディアンの森にひっそりと建つ、木こり小屋。
人々から忘れ去られたその場所で、つい先日、激しい戦闘が起きた。
死体はすでに片づけられた後だったが、血痕や弾痕は未だ生々しく残っている。
この静まり返った場所に、ひとり、佇む者がいた。
銀髪にして青い肌の美女である。
「それなりにできそうと思ったけれど……期待外れだったようね」
捻じれた長い耳。黒曜石に似た眼球に金色の瞳。
ドラウ、と呼ばれる魔族の特徴である。
コルセットの締めつけで妖艶な体つきを引き立てつつ、腰にはガンベルトを巻いている。女はガンスリンガーなのだった。
戦場を調べ終えた女は、次に小屋のドアに手をかけた。蝶番は強い衝撃を受けたせいでがたついていた。内側の金属などは溶けかかっている。
小屋の中は、至るところに血がこびりついていた。
何も知らぬ者でも、ひと目で凄惨な事件が起きたのだと理解できる飛沫の量である。ショックでこの場をさらに嘔吐で汚すかもしれない。
しかし、女は顔色ひとつ変えず、魔族語を紡ぎ出す。
魔法の詠唱だ。
すると、部屋中に四散した乾いた血が水気を吸ったかのように血の玉に戻る。さらには、ぷるぷると宙に浮き始めたではないか。
無数の血の玉は六つの場所に集まり、輪郭の安定しない人の像を作り出した。
「あの役立たずどもに、マクミハルの女と子供。それから――不死者。エルフとセリアノのふたり組、か」
血の人形はここでの出来事を再現する。
女は、身振り手振りだけでなく、唇の動きからも発せられた言葉を読み取った。
「成果なし、と。女と子供は国に逃げ帰ったようだから、不死者に何か託したか」
人形劇に対する関心を失った女は、終幕を待たずにさっさと小屋を出ていってしまう。
誰もいない空間で、再現は最後まで行われた。
ある人形が爆ぜると、他の人形も弾け飛び、血の玉はそれぞれの血痕があった場所へと吸いついて干からびた。
部屋はすっかり元どおりである。女が訪れた痕跡も残らない。
「ふふっ」
女はポーチに寄りかかり、森に吹くそよ風を慈しむように目を細める。
風は運ぶ。血と、死と、灰の香りを。
「ラカとネネ……会えるのがとても楽しみだわ」
〈第1話:カディアン森林と潜伏ギャング団 終〉
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