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荒野の魔王領 ~少女、仮想異世界にて銃花を咲かす~  作者: あたりけんぽ
第1話:カディアン森林と潜伏ギャング団
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[01-07] 遠出をするのに準備は大事

 チュートリアルの文字が再び流れ出す。


《クエストを受諾したら、町で準備を整えてください。弾薬のストックは底をついていませんか? 携帯食料は十分ですか? 全て、雑貨店で購入することが可能ですよ》


 抑揚をつけて読み上げた私は、虚空を指差す。


「……なんかさ」


「うん」


「このチュートリアルしてくれる人がお母さんみたいに思えてきたよ」


「わかるー」


 と、ラカもほんわか顔で頷いた。


「お母さんついでにあたしからも注意。雑貨店で弾が買えると言っても、銃の口径はよく見て」


「光景? 構えたときの景色が違うってこと?」


「そ。いい銃ほど悪党どもの怯える顔がよく見える――じゃなくて。銃口の直径のこと。銃によって使う弾の大きさが違うのよ」


 そういえば、ラカの〈ケルニス・アローヘッド・カスタム〉は私の〈ラーヴェン855〉よりも小さかった気がする。


「ネネが持ってる銃は〈ラーヴェン〉だけ?」


「ううん。強盗が持ってた〈ケルニス67〉っていうのを拾ってきたけど」


 ポーチに入れた銃を見せると、ラカが「おっ」と声を上げた。


「新しく銃を買う必要はなくなったわね。序盤の装備としては安定してて強いのよ、それ。軽いし、ライフリングもついてるし」


「じゃあ、こっちに交換するね」


 私は〈ラーヴェン855〉の弾丸を抜き、〈ケルニス67〉に装填しようとした。が、シリンダーの穴に対して大きいのか、弾丸がどうしても入らない。


「あっ、これが違う口径?」


「そのとおり。〈ラーヴェン〉のリボルバーは40口径。〈ケルニス〉は38口径。弾は新しく買い直さないとね」


「メーカーで規格が決まってるんだ」


「大体はね。威力と反動がわかりやすいようになってるの。大口径はSTRが必要で、小口径は低STRでも使えるって覚えればいいわ」


 思い出す。

 チュートリアルで〈ラーヴェン855〉を撃ったとき、反動で腕が跳ね上がってしまい、次弾の狙いを定めるのが難しかった。


 その点、〈ケルニス67〉は比較的扱いやすい銃になるのだろう。


「使わなくなった銃は処分できるの?」


「鍛冶屋でも雑貨屋でも引き取ってもらえるし、人に売り渡してもいい。レアな銃だったら、それだけで家が買えるかも。〈ラーヴェン855〉は……おやつを買えるかも怪しいわね」


 まあ、初期装備だからね……。

 がっかりする私に、ラカはジェスチャーつきで利用法を教えてくれた。


「二丁拳銃もできるわよ。ばんばんばん! って交互に撃つの」


「あ、それカッコいい!」


 私の頭の中で妄想が広がる。

 大勢の敵に囲まれた中、私は左右の手に携えた〈ラーヴェン855〉と〈ケルニス67〉で滅多撃ちに――


 ……でも現実は、拳銃の反動に振り回され、誰ひとりにも狙いが定まらなくて、あわあわするんだろうなあ。


「やっぱり、しばらくは〈ケルニス67〉ひとつで練習するよ。今の私じゃ、片手でもうまく撃てないしさ」


「だね。動きに慣れる頃には、新しい銃なんてぱっと買えるくらいの金も溜まってるわよ。なんなら、その辺の野郎から奪えばいいんだし」


 言い方がものすごく悪人っぽい!

 でも、〈ケルニス67〉も強盗の死体から盗んだワケだし、私はとっくに悪い子になっているのだった。


 そんな話をしているうちに、私たちは雑貨屋に到着した。


 からんからん、とベルの音。

 主人はカウンターで新聞紙を広げて読んでいた。先ほど、サルーンへの道を教えてくれたおばさんだ。


「やあ、あんたか。〈フルハウス〉はわかったかい?」


「おかげで友達とも合流できたよ、ほら」


 ラカは私とおばさんの様子を見て、ハットを軽く摘まんだ。


「あたしからも感謝するよ、おばさん」


 おばさんは私たちに朗らかな笑顔を向ける。


「礼なら、何か買っておくんな」


 それはそうだ。と思いつつ、お店には色んなアイテムが置いてあって、何を買えばいいのかわからない。


 ラカがカウンターに寄りかかり、私に向かって話す。


「まずはインベントリの整理をしよう」


目録(インベントリ)?」


「所持アイテムのこと。鞄だったり箱だったり、『入れ物』を開ければ中身がずらっと表示されるでしょ?」


 ラカの言うとおりだ。おかげで私はポーチの中に入れた物を瞬時に把握できる。

 思い返すと、強盗の死体も『入れ物』に含まれていた。


「持ってる弾は?」


「〈40口径リボルバー・ノーマル弾〉が二十発」


「それと〈855〉をカウンターに出して」


 お~。考えただけで私の手がポーチの中に散らばった弾丸をかき集めてくれる。これもモーションアシストが働いているからだろう。


 ただし、私が他の動作を考えると中断してしまうので、要注意。特に慌てているときは、スムーズに動けないかもしれない。


 カウンターのお皿にかき集めた弾丸をじゃらじゃらと入れ、続いて〈ラーヴェン855〉もごとんと台に置く。


 ラカはおばさんに話しかけた。


「おばさん。これ、買い取ってもらえるかしら」


「あいよ。どれどれ……」


 おばさんはエプロンのポケットから曇った眼鏡を取り出し、銃と弾丸の査定を始める。


 ふと、私はラカとのやり取りに違和感を覚えた。

 おばさんは『インベントリ』と聞いても、『やれやれ、なんだかよくわからないことを話しているなあ』という態度だったのである。


 これが、ゲーム用語を不死者(しなずもの)特有のスラングとして聞き流す、という対応になるのだろうか。


 銃の細かい傷を調べ終わったおばさんは、困り顔を私たちに向けた。


「これねえ……よく持ち込まれるんだよ。〈ラーヴェン855〉は〈5ビル〉。弾のほうは全部で〈10ビル〉だね」


 弾丸のほうが高くなるなんて。在庫だだ余り状態というワケだ。

 よれよれの十ビル紙幣が一枚に、一ビル紙幣を五枚、その場で渡してもらった。おこづかいをもらったみたいで、ちょっと嬉しい。


「そういえば、ジェイムズさんからもお金もらったよ。強盗をひとりやっつけたから――って、〈2000ビル〉ももらってる!」


「それはチュートのクリア報酬みたいなもんよ。なんやかんやでもらえるようになってるの」


 初心者がワケもわからずちょこっと無駄遣いしても安心、ということだ。


 次に、ラカは棚に並ぶ色とりどりな紙箱を指で示す。


「弾は基本、箱買いね。ひと箱五十発だから、クエストには十分なはずよ」


「わかった。〈38口径リボルバー弾〉の箱、ひとつください」


「あいよ」


 おばさんは棚から箱を下ろし、私の前に置いてくれた。


「ひとつ〈250ビル〉だよ」


 百ビル紙幣を三枚渡し、お釣りに十ビル紙幣を五枚貰う。消費税はゼロらしい。

 弾薬箱はビスケットの箱みたいだ。落としたら大変そうなので、さっさとポーチに入れてしまおう。


「後は……携帯食料だっけ」


「今回はあたしが持ってるのを分けてあげる。サルーンで結構食べたし、狩りは近場でできるみたいだから、それで足りると思うわ」


「うん、ありがと」


「クエストによってはロープ、つるはし、ランタン……ってな具合に、どんどん荷物が増えてくわよ。毛皮をまとめるのにロープが必要だろうけど、それもあたしが持ってるからオッケー」


 至れり尽くせりなラカサポートだ。

 ほとんど甘える形になってしまったけど、とりあえずは準備完了。


「お邪魔しましたー」


「気をつけるんだよ」


 と、雑貨屋を後にする。

 ラカはスモーキーに颯爽と(またが)り、私に手を差し出した。


「ほら、後ろに乗りな」


「え……私、おウマさんって初めてなんだけど大丈夫?」


「一回乗っちゃえば〈騎乗〉スキルが見習いになる。後はアシスト任せでオッケーよ」


 ラカに引き上げてもらいながら、(あぶみ)の輪っかに足をかけてスモーキーの背中によじ登る。

 なんとか鞍に座ることはできたが、馬上の揺れでバランスを崩しそうになった。私は慌ててラカの背中にしがみつく。


 ラカは面白がって肩を揺らした。


「しっかり掴まってくださいませ、姫」


「ちょっと。なんで声作ってるの王子様」


「やー、なかなかいい気分だなって」


「もうっ。人が怖がってるからってさー……」


 頬を膨らませた私に、ラカはますます大笑いする。


 意地悪なご主人様とは正反対に、スモーキーはとても優しい。私を気遣ってか、のんびりのんびり歩いてくれるのだった。

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