第8話:癒しの勇者、刻印する
まずは、ミーナの弓から。
「今からするのは、武器に対する刻印。これは一度刻んだら勝手に剥がれないから便利だ」
弓に魔力を流し込み、刻印の術式を刻んでいく。
刻む術式は、【攻撃力上昇】、【攻撃速度上昇】、【全属性力上昇】、【耐久性上昇】、【軽量化】、【消費魔力低下】、【生命力回復速度上昇】、【魔力回復速度上昇】……ま、刻める限界はこのくらいか。
久しぶりの刻印だからかなり時間がかかったな。この程度で2秒はかかりすぎだ。
素材と俺の技術の関係で、刻印できたのは8つ。必須の術式は組み込めたのでよしとしておこう。
俺が前世で最後に使った最後の武器——聖剣エクスカリバーには128個くらい刻印していたが、二人には使いこなせる技量がまだないしな。
「も、文字が刻まれていく……!? しかも一瞬!」
「これ、ミーナ見たことある。伝説の名工が刻む神の加護と同じ……」
「あー! 神の加護だわ!」
誰だそんないい加減なことを吹聴したやつは。
「これは単なる技術だ。そんなに大したものじゃない」
それに、
「その名工にも失礼だ。たったの8つしか刻印できていない武器と同じ扱いじゃ気の毒だろう」
「「8つ!?」」
レミリアとミーナが同時に驚愕する。
えっと……? なんか俺間違えたっけ。
「8つって……かの名工が刻んだとされる神の加護でも1つよね!」
「あの剣って確か国宝……だった気がする」
「国宝武器を超えちゃった!?」
うーん、そうなるのか……?
俺が転生前に使っていたものに比べるとおもちゃみたいなものなのだが。
その国宝とやらは本当に国宝なのだろうか。
「こ、こんなとんでもない弓、ミーナもらえない……」
「いやいや、これミーナのために作ったんだぞ?」
「数千枚の金貨は下らない……もし壊したりしたら……あわわわわ」
「練習用だし、使い潰してもらわなくちゃ困るぞ。っていうか制作時間10秒くらいだし」
この程度の武器で数千枚の金貨を出すって、この時代の金銭感覚はおかしくなってるな。
「ミーナが使わないと、カイトが困る……?」
「そうだ、ミーナのために作った武器だからな。せっかくなら使ってほしいし、使ってもらわなくちゃ弓が泣くぞ」
「…………そっか、じゃあ、ミーナ使う」
納得してくれたようで何よりだ。
「レミリアの剣にも同じのを刻印しておくから、完成したらもう一度問題ないか確認しておいてくれ」
レミリア用の2本の剣にもミーナのものと同じ刻印を刻んでおく。
今度は1秒でできたので及第点だ。時は金なり。1秒切れるようにしておかないとな。
本来はもっと特化型の特性を刻みたいが、制限がある以上は無難なものにならざるをえない。
さて、次はいよいよ魔法を教えるか。
◇
魔法を教える前に、まずは二人に現時点の実力を見せてもらった。
スライムとの戦闘でも軽く確認はしておいたのだが、念のためじっくりと見ておく必要があると判断した。
最もシンプルにして実力差がはっきりしやすい試験魔法の一つとして、『ファイヤーボール』がある。二人には全力の『ファイヤーボール』を実演してもらって確認した。
俺が注目していたのは、威力、速度、安定性の3点。加えて、もう一つ——。
その結果——重大な問題が発覚した。
「さて……まず二人とも、詠唱魔法を捨ててもらおうか」
詠唱魔法。
俺がずっと気になっていたことだ。学院一の教官とも言われるカースですら詠唱魔法を使っていた。魔法が発動した瞬間の術式を見れば一目瞭然だ。
もしかするとレミリアとミーナもそうなんじゃないかと思ったのだが、そのまさかだった。
明らかに余計な術式が混ざっている。
「詠唱魔法……?」
「頭の中で呪文を唱えるアレのことなら無詠唱魔法。カイトが言ってることの意味がわからない」
……なんと、この認識だったか。
やれやれ、どうやら骨が折れそうだ。