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第7話:癒しの勇者、武器を作る

 ◇


「でも、ミーナ弓持ってない」


「そうだな。じゃあ今から用意すればいい」


「村まで戻る?」


「その必要はない。第一この村の武器はどれも出来が酷すぎるし、このくらいの魔物を倒すならこの場のあり合わせで自作してしまえばいい」


「自作って、カイトが作るってこと……? ここで……?」


「専用の設備もないのに武器が作れるの!?」


 ミーナとレミリアが驚嘆の声を上げる。


「人間の指の感覚ではせいぜい1000分台くらいまでしか加工できない。でも、魔力を使えばどうなる?」


「理論的には無限大……でもそんなの現実的じゃ……」


「俺なら100万分台の精密加工もできる」


「「ひゃ、100万!?」」


「ウルフの骨を使えばそれなりの弓になるはずだ。ま、すぐに終わるから待っててくれ」


 俺は、そう言ってウルフの死骸の前に腰を下ろした。

 武器を作るのは久しぶりだ。前世ではこの世の全ての武器に絶望し、よく自分で作ったものだ。


 ウルフの骨は、初心者冒険者でも倒せるわりには質が良い。

 上を見ればキリがないが、ひとまずしばらくは使える武器が作れるだろう。


 まずは、魔法でウルフの骨だけを綺麗に取り出す。

 そして、必要な量の骨を合成し、弓の形を作っていく。


 図面なんてなくても記憶していれば、ウルフの骨を加工するくらいは容易い。

 淡い光に包まれ、1秒ほどで弓の形になった。


 ついでに余った骨で矢も作っておく。


「こんなに簡単に……!?」


「一瞬で出来た……?」


「ま、こんなもんだな。じゃあミーナ、この弓で適当に撃ってみてくれ」


「う、うん。そこの木を狙えばいい?」


 ミーナが指差した先には、高さ3メートルほどの大木が建っていた。


「あー、あれはやめた方が良いな。そこの岩にしておいたほうがいい」


「確かに久しぶりの弓だし、大きい的のほうが良い。さすがはカイト」


 んー、そういうわけではないのだが……まあいいか。撃ってみればわかる。


 5メートルほど離れた場所から、大きな岩目掛けてミーナが矢を放つ。

 すると——


 ドゴオオオオォォォォンッッッ!


 と轟音をたてて岩を貫いた。

 矢が刺さった部分は崩壊し、パラパラと砂埃が舞っている


 ミーナの技術がもう少し高ければ岩を貫いても余計なダメージは与えないのだが……まあ、こればかりは仕方がない。これから練習していけばいい。


「な? 木にしなくて良かっただろ? あれが倒れてきたら片付けとか面倒だしな」


「「そういう問題!?」」


 あれ……? またなんか変なこと言っちゃった?


 ◇


「ミーナに弓魔法を教えないといけないんだが、その前にレミリアのも用意しないとな」


「魔法のこと忘れてた……」


「この弓があればこの世の魔法いらないでしょ……」


 ミーナとレミリアのそんな声が聞こえる中、俺は気にせず話し続ける。


「強化魔法使いは、いわばパーティの支援役だ。ということは……」


「遠距離攻撃がベスト?」


「いやその逆だ。遠距離からの攻撃にはどうしても大量の魔力を使う。強化魔法は30分程度しか保たないから、時間切れになる前に付与し直すこともある。一人なら良いが、複数人に付与するとなると、魔力消費はバカにできない。だから魔力を温存しておける近距離攻撃に徹するのが最善だ」


「となると私が前衛……?」


 不安そうな表情を見せるレミリア。


「強化魔法使いが最前に来ることはない。防御特化のタンク役がいればいいんだが、対抗戦には3人しか出れないし俺が前で戦うよ」


「そ、そうなのね。じゃあ安心かも……」


「ということで、レミリアが使うべき武器は剣だ。剣なら学院でも使ったことがあるだろうし、問題ないだろ?」


「わかったわ!」


 話がまとまったところで、さっきと同じ要領で今度は剣を作っていく。

 同時に2本の剣を加工していく。


「あれ? どうして2本?」


 レミリアが不思議そうに尋ねる。


「さすがはカイト。予備もついでに作っておく作戦」


「ああ〜なるほど!」


「違うぞ」


「「え!?」」


 何を驚いているんだか。


「剣は1本より2本の方が攻撃力を出せる。厳密に2倍には出来ないが、攻撃回数が多いほうが有利に戦える。常識だろ?」


「「常識じゃないわよ!?」」


 二人が声を揃えてツッコミを入れた。


「第一、2本も同時に振るんじゃ重量とかのハンデでむしろ1本の時よりも……って、あれ!?」


 2本の剣を手に持ったレミリアが、意外そうな顔をした。


「なんか自然な感じ……。剣と剣が調和しているような……馴染んでる感じ」


「当然だ。二刀流前提でレミリア専用に設計したんだからな」


「すごい! じゃあちょっと素振りしてみるわね!」


「あ、素振りはいいんだが、その方向は——」


 俺の返事を聞く前に、レミリアは剣を振ってしまった。

 初めて使う剣。おそらくレミリアにとっては初めて使うまともな剣。最初から制御できるはずもなく——


 ザンッ


 レミリアが振るった剣は、驚くべき切れ味で空気もろとも切り裂き、斬撃が飛んでいく。

 そうして、斬撃が衝突した先は、件の大木。

 3メートル級の大木が向こう側に倒れてしまった。


「え、ええええええええ!?」


「あーあ……だから言っただろ? やめとけって」


「こ、こんな常識外れの武器だなんて思わないわよ……!」


 あわわわわ……と狼狽えるレミリア。

 んー、素材が悪くてこの程度の性能しか出せないが、魔合金を使えばもっとまともな武器を作れるし、アダマンタイトなら最高峰の武器も作れるんだが。


 それに——


「ちなみにだが、もちろんこれで完成ってわけじゃないぞ? 二人に使ってもらったのは、ちゃんと身体に馴染んでるか確かめるためだからな」


「こ、これで完成じゃないの!? まだ強くなるってこと……!?」


「ミ、ミーナ……頭が……あうぅ……」



※お知らせ

7/9にプロローグを追加しました。当初から迷っていたのですが、追加という形になります。

進行に大きな影響はありません。

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