第6話:癒しの勇者、一掃する
そんなことを話し合っているうちに、スライム2匹とウルフ3匹が大分近づいてきていた。
「あそこにも……わっ、そこにも!」
レミリアは混乱してしまっている。
「魔物と遭遇した時に大切なことはなんだと教わった?」
「平常心。そして慢心しないこと」
「正解だミーナ。まずは冷静に、目の前の魔物を倒せるかどうかだけ考えておけばいい。倒せるなら攻撃するし、倒せないなら逃げるか倒せる方法を考える」
「学院で教わったことよね……平常心、平常心……」
大分落ち着いたみたいだな。
とはいってもこんな状態で戦うと心配だ。
適度な緊張感は大切だが、ガチガチに緊張していては倒せるものも倒せない。
「まずは手始めにレミリアとミーナで倒してほしいんだが……ちょっと数が多いな」
緊張をほぐすためには、魔物を倒せたという自信が必要だ。
しかしいきなり7対を一度に相手にするのは荷が重い。
「ちょっと掃除するか」
『バースト・アイス・レイン』
カースと戦った時と同じ魔法を展開する。
1本の氷の槍が、6本に分かれて、魔物目掛けて飛んでいく。
ザッザッザッザッザッザッ!
全て命中。急所を貫き、魔物は絶命した。
「す、すごい……!」
「魔物がまるでゴミのよう……」
2人は魔物の死骸を見て呆然としていた。
「何をぼうっとしてるんだ? まだ1匹残ってるぞ」
そう、俺はわざと1匹残していた。
残っは水色のスライム。スライムはほどよく体力があり、攻撃力が低い。魔物を相手にする初心者が戦いやすい。
こいつには悪いが、レミリアとミーナの未来のためにサンドバッグになってもらおう。
「よし、二人ともあのスライムに攻撃魔法を打ち込め————っと、んん!?」
指示を出そうとした瞬間。
周りの魔物が全滅したことを悟ったスライムが猛スピードで回れ右した。
逃げ去ろうとするスライム。
「逃げるな!」
俺は魔力糸を使って、逃げるスライムを縛る。
魔力糸は、魔力を具現化し、糸のように扱える。強度は魔力の質と、使い手の技術次第。
がんじがらめになったスライムは、身動きが取れなくなる。
観念したのか大人しくなった。
「よし、二人ともスライムを捕まえたぞ。これで戦えるな。ん、どうした?」
せっかくスライムを捕まえたのに、動かないレミリアとリーナ。
俺が縛ったのはスライムであってレミリアとミーナじゃないはずだが。
「逃げる魔物を追いかけるって……っていうか魔物って逃げるんだ……」
「魔物を捕まえる人初めて見た……」
えっと……なんかドン引かれてるみたいだ。
◇
その後、何度か俺が魔物を捕まえ、サンドバッグ状態で二人に倒させることを繰り返した。
魔物への恐怖心も大分和らいだようで何よりだ。
「さて、そろそろ二人だけで倒してみようか」
「私たちだけで……!? それはまだ早いんじゃ?」
「まだ早い気がするけどカイトが言うなら……」
俺が見る限りでは、二人だけでももう倒せると思うんだが、まだ心理的抵抗が大きいみたいだ。
「今のままでも何発か打ち込めば倒せるはずだが……そうだな、ちょっと今から新しい魔法を覚えてもらおうか」
「魔法ってそんな簡単に覚えられたっけ?」
「簡単な魔法だしな。すぐに覚えられる」
「ミーナ興味ある。教えてほしい」
「よし、じゃあ二人とも覚えるってことでいいな。レミリアに覚えてもらうのは、簡単な強化魔法。ミーナが覚えるのは弓の魔法だ」
15年間の記憶によれば、レミリアは強化魔法に優れ、ミーナは弓が優れている。
「強化魔法って失われた古代魔法じゃ……?」
「古代かどうか知らないけど、簡単なものならすぐに使えるし便利だ。どうだ、やってみるか?」
「本当に使えるようになるなら、断る理由がないわ!」
「よし、じゃあ決まりだ。で、次にミーナだが、ミーナ弓が好きだったよな」
中等魔法学院に入学する前、ミーナは弓の練習をしていた。
だが、ある日を境にパッタリと辞めてしまった。
「弓は魔法に比べて弱いって……魔力が使えないから……」
誰だそんなことを言ったやつは。
「弓で魔法が使えないのは迷信だし、弓はめちゃくちゃ強い。あえて弱点があるとすれば、あまり大量の魔物は同時に対応できないってことだけだな」
大量の魔物に対応できないとは言っても100匹くらいなら余裕で対応できるのだが。
「えっ……? じゃあミーナ、弓使っていいってこと?」
「全然いいぞ。ミーナには弓が向いてるしな。自分に合った武器を使うのが一番良い」
「弓……使えるんだ……」
普段表情が分かりにくいミーナがだが、今日ばかりは嬉しそうに微笑んでいた。
「カイト大好き……!」
その時、ヒューっと大きな風が吹いた。
「え……? なんだって?」
「な、なんでもないぃぃぃぃ〜〜〜」
ミーナは耳まで真っ赤になって塞ぎ込んだ。
本当に聞こえなかったのだが、なんて言ったんだろう?