第5話:癒しの勇者、探知する
◇
翌日。早朝からレミリアとミーナが待ち合わせの場所に現れた。
二人とも制服姿だ。
中等魔法学院の制服は特殊な付与魔法が施されているので、中途半端な鎧よりも強く、柔軟性に優れる。
トレーニングウェアとしても最適なのだ。
まあ、とはいえ俺の目から見ると付与魔法自体は粗悪にしか見えないのだが……。
素材自体は悪くないが、もうちょっと付与の仕方があっただろうに。
ちょっと時間がある時になんとかしてやろう。
「おはよう、二人とも早いな」
「おはよう——って、まだ約束の30分前よ!? いつから来てたの?」
「ん、ちょうど30分前くらいだな」
「……もしかしてカイトは暇?」
「それは違うぞ、ミーナ。時間の潰し方を知ってるだけだ。一流の魔法使いは時間の使い方も上手い」
いつでも魔法のイメージトレーニングはできるし、頭の中で新魔法の開発なんかもできる。部屋にいても約束の場所で待っていても変わらないので、早めに来たというだけのことだ。
「そんなことよりも、こんな町外れの場所まで来て何をするつもりなの?」
キョロキョロしながらレミリアが尋ねる。
ここは村の出入り口近く。こんなところをわざわざ通るのは、冒険者か商人くらいのものだ。
「ん、言ってなかったか? 今からちょっと外に出て魔物を倒そうかと思っていたんだが」
「ま、魔物……!?」
「カイト……本気で言ってる……?」
あれ? なんか思ってた反応と違うぞ。
「なんか俺おかしなこと言ったか?」
「魔物を使ったトレーニングは高等魔法学院からのはずよ。危険すぎて中等魔法学院生には荷が重いからって」
「それなら問題ないだろ? 俺たちは卒業が決まってる」
「カリキュラムをちゃんとこなして近くに先生がいる状態じゃないと危ないわ」
うーん、そうなのか? 村にいる冒険者はそんなに強そうには見えないが、近くの魔物を倒せている。なら俺たちでも余裕なんじゃないかと思ったのだが。
ちょうど若い冒険者が村の外に出る姿が見える。
「俺とあいつら、どっちが強いと思う?」
「それは……でも……」
まだ不安を脱ぎきれないレミリア。それに対してミーナは、
「ミーナはカイトについていく。心配性なレミリアはここで待っておけばいい」
「おっ、ミーナは来る気になったか」
「普通に考えてカイトの近くにいれば安心。先生なんかより強い」
うんうん、よくわかってるじゃないか。
「確かにカイトは強いけど……でも……」
「安心しろレミリア。危なくなったらいつでも守ってやる。だからついてこい」
「……! わ、わかったわ!」
うん? なんか急に物分かりがよくなったな。
それとなんだか頬が紅潮している気がする。
診たところ風邪ではなさそうだし問題ないか。
◇
村を出て10分ほど歩いた平原地帯。
ここまで来れば、そこそこ魔物の姿が確認できる。
俺は【周辺探知】で魔物の数と種類を確認する。
残念ながら、村の近くの魔物はショボい。
「スライムが2匹、ウルフが5匹……俺たちの姿に気づいて少しずつ近づいてきてるな」
「どうしてそんなことわかるの?」
「カイトはエスパー……?」
「ん、魔物は基本的に魔力を発してるだろ? そこに俺の魔力を薄く広げて反応した先が魔物の居場所ってだけのことだぞ。ただの探知魔法だ」
魔物の種類まで特定するには慣れが必要だが、そんなに難しいことじゃない。
魔物を相手にするなら必須のスキルだ。
「そんなことできる人聞いたことないわよ!? 探知魔法って、神話の時代の伝説でしょ!?」
「ミーナも聞いたことある。賢者シリウスは魔眼を使って1000個の眼があったって」
賢者シリウス……前世の俺の名前をここで聞くとはな。なぜか伝説扱いされているらしい。
確かに魔眼は便利だったが、べつにこの程度の探知魔法に魔眼は必要ない。
「そんな大したもんじゃないぞ。ちょっと練習すればレミリアとミーナも使えるようになる。ま、これはそのうち覚えていけばいい」
たった2000年程度では、元の魔法技術の水準までは戻らない可能性も頭にはあった。
そうだとしても、【周辺探知】すら使えなくなっているとは……。
世界の9割が滅んだ後の2000年は、俺が想定していた以上に緩やかに進みすぎていたと考えるべきだろう。
やれやれ、どうしたものか。