第4話:癒しの勇者、対抗戦を引き受ける
◇
翌日。
俺は登校するなり、アレス先生にいきなり学院長室に向かうよう指示された。
アレス先生によれば卒業関連のことではないらしいので、気持ちは落ち着いている。
しかし学院長が俺になんの用なんだろう?
コンコンコン。
「カイト・アルノエル3年生です」
「入ってくれ」
扉の向こうから学院長の声が聞こえた。扉を開けて、部屋の中に入る。
「失礼します」
学院長室に入ったのは初めてだ。
想像していた豪奢な部屋というわけではないが、趣のある落ち着いた部屋だった。
部屋の奥——窓際には作業に使うであろう机が設置され、壁には難しそうな本が本棚に乱雑に並べられている。
中央には来客用のソファー椅子と机が向かい合うように置かれている。
「アレス先生に学院長からお話があると聞いて参りました」
「うむ、よく来てくれた。楽にしてくれ」
学院長が来客用の椅子に座るよう促すので、腰を下ろした。
白い髭が特徴的な初老の爺さん。一対一で話すと、ちょっと緊張する。
「カイト君、まずは卒業試験の合格おめでとう」
「ありがとうございます」
「カース先生との戦いの中でかなり強くなったらしいな」
「はい、ギリギリで間に合わせることができて良かったです」
「うむ。カイト君の戦いぶりは見学していた他の学院生も圧巻だったようでな、それを見込んで頼見たいのだが——」
そう言って、学院長は事前に用意していたのだろう書類を俺に見せた。
「中等魔法学院対抗戦名簿……ですか?」
「うむ」
中等魔法学院対抗戦とは、各中等魔法学院の卒業生のうち特に有力であると推薦された卒業生が集まって行う一種のお祭りだ。
確か、来週の卒業後すぐに王都で催されるはずだ。
優秀な卒業生の大半は高等魔法学院に進学するのだが、その入学試験で大きく加点されるメリットがある。とはいえ、対抗戦に出場できる卒業生は自力でも余裕で合格できる実力があるので、そういう意味でお祭り——お遊びなのだ。
「私はカイト君を推薦したい。引き受けてくれるかね?」
学院対抗戦の出場はかなりの名誉だ。しかし、名誉を手に入れたところでどうということもない。
それよりも、記憶を取り戻したことで俺には優先しなければならないことが見つかった。
「学院対抗戦は、確か各学院から3人出るんですよね。俺以外には誰が推薦されますか?」
「順当に判断すればレミリア君とミーナ君だろう。これから二人にも頼む予定だが、引き受けてくれるかどうかはまだわからん」
レミリアは学年主席だし、ミーナは次席だ。そりゃそうか。
「第三学院は毎年ちょっと結果がアレでな……今年こそはと思っているのだ。どうだ、引き受けてはくれんか?」
俺には、優先してやらなければならないことがある。
だが、同時に落ちこぼれの俺を3年間面倒を見てくれた学院にも恩を返したい。
しかも出場メンバーは俺がよく知るレミリアとミーナ。
対抗戦はたったの1日で終わる。
それなら、ちょっとくらいの寄り道は許容範囲だ。
「わかりました、任せてください。今年こそは第三学院を優勝に導きます」
◇
放課後。今日は金曜日なので、明日と明後日の時間は自由に使える。
ちなみに、俺は出場することをレミリアとミーナに報告して、ついでに学院長室に向かうよう伝えたのだが、昨日まで対抗戦に興味がないと言っていたはずの二人はどういうわけか二つ返事で快諾したらしい。
「カイトが出るなら私もでるわ!」
「カイトのせいで急に出てみたくなった」
とかなんとか言っていたが、よくわからない。
俺が対抗戦に出ることと二人の興味は別のベクトルのはずなんだが……不思議だ。
ということで、俺はレミリアとミーナに提案してみることにした。
「せっかく対抗戦に出るなら、優勝したくないか? 土日で詰め込めば多分優勝できるぞ。もし良かったら一緒に鍛えないか?」
カース程度で学院最強ということは、あいつを瞬殺できるくらいまで鍛えれば対抗戦の優勝もできるはずだ。
そのくらいでいいなら、短期間でもなんとかなる。
「ミーナ、優勝は興味ないけどカイトについていく」
「私も優勝はどうでもいいけどカイトがそういうなら付き合う!」
「なら、決まりだな。ちょっとハードかもだから、一応覚悟しておいてくれ」