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第3話:癒しの勇者、力を試す

 ◇


 卒業試験を終えた俺は、医務室を訪れていた。

 レミリアとミーナも一緒についてきている。


 医務室に訪れた目的は、通勤中に何者かに襲われて怪我を負った担任教師アレスに、合格したことを報告するためだ。

 ついでに治療もしておきたい。


 卒業試験は放課後に行われたから、この後の予定は特にない。時間にはゆとりがあるから、ゆっくりできそうだ。


 アレス先生には、とてもよくしてもらっていた。

 特別試験の内容を提案してくれたのもアレス先生だったりする。


 コンコンコン。


「失礼します」


 医務室の中に入ると、独特の薬品臭が鼻を刺した。


「カイトです。アレス先生は?」


「奥のベッドよ。今日は何人も来てるから、お見舞いは手短にね」


「わかりました」


 養護教諭兼医師の先生が素っ気なく返事を返す。

 魔法学院はその教育内容の性質から、怪我をする者も多い。怪我の度合いによっては、アレス先生のように入院することもある。そのため、医師を24時間体制で常駐させているらしい。


 説明された通り、奥のベッドへと足を運ぶ。

 カーテンが閉まっていたので、外から声をかけた。


「アレス先生、カイトです。卒業試験の件で報告に参りました」


 シャ、シャシャシャシャー。

 俺が言い終わったのとほぼ同時に、カーテンが勢いよく開いた。


「カイトか! それで、どうなった!? 相手はあのカースになったんだよな!」


「カースを倒して試験には合格できました」


「————!?」


 アレス先生は、呆けたように口を大きく開けて固まった。

 そして、


「……つまり、どういうことだ?」


 バカになってしまった。


「カース先生は俺と本気で戦いました。その結果、俺が勝ちました」


「うむ、言葉は分かるが何を言っているのかさっぱりだ」


 状況が飲み込めないアレス先生。レミリアとミーナも説明を始めた。


「本当に言葉の通りです。私もいまだに信じられませんが、カイトがカース先生と真剣勝負で勝ったんです」


「ミーナも見た。つまらない嘘はつかない。カイト強かった」


 さすがに俺の他に二人も証言しているとなるとアレス先生も事実を受け止めるしかないようで、


「……レミリアとミーナも言うのならそうなんだろう。……いや、しかし真剣勝負でカース相手に勝っただと……? 見たところ怪我もしてないようだし……うーむ?」


「怪我については、実演した方が早いです」


「実演?」


「はい、今からアレス先生を治癒します」


「治癒魔法って、確かそれは失われた古代魔法で…………はあ!? 傷が治ってる!?」


 他者への治癒魔法。これこそが癒しの勇者の特権だ。

 癒しの勇者は、自らの魔力で他者の生命力を回復させることができる。

 正確には癒しの勇者以外でも他者への治癒はできるが、実用レベルに到達するまでのハードルがかなり高いし、極めても癒しの勇者には遠く及ばない。


 俺も前世ではなんとか治癒魔法が使えないものかと研究したものだが、結局上級魔物クラスとの戦闘では全く使い物にならなかった。


 こんなにも簡単に実用レベルの治癒魔法が使えるとなると感動ものだ。


「こういうことです。魔法使いは、努力の分だけ成長する。結果が出るのが遅いか早いかだけってアレス先生言ってましたよね。このタイミングで今までの努力が全部繋がったみたいです」


 これは、嘘ではない。

 因果により俺の成長はかなりセーブされていたが、カイトとして続けた努力は決して無駄になっていなかった。努力は全て蓄積され、開放された今では真の実力を出せるようになった。


「ふむ、そうなのか……。なんにせよ、合格おめでとう。合格まで見届けることができて嬉しいぞ」


「ありがとうございます。ギリギリで卒業できたのもアレス先生のおかげです」


「ま、大したことできなかったけどな。カースじゃなくて、最後の試験は俺が相手してやりたかったよ」


 アレス先生は、さっきまであった傷の部分に目を落とした。


「アレス先生は悪くないです。……ところで、さっきの怪我の犯人に心覚えとかはないですか?」


「俺に不意打ちかけられるやつがいるとすれば、相当な使い手だろうな。気づいたら怪我してたもんで、まったく誰か分からん。殺されなかっただけ運が良かったとは思ってる」


「そうですか……」


 実は、アレス先生を襲った人物を俺は知っている。ついさっきまでは疑惑だったが、アレス先生の傷を癒すのと同時に残留魔力を解析した。残留魔力の特徴は、カースと一致していた。十中八九カースが犯人で間違いない。


 そんなこんなでゆっくりと話をしていると、当直の医師が様子を見にきた。


「ああ! アレスさん三日は絶対安静って言いましたよね! 魔力による傷はかなり深くて治りが……治ってる!?」


「えーと、それはだな……」


 あー、これはまた面倒なことになるな……。


「信じられない! アレス先生、どこか痛いところはないですか? こんなの医学的にありえないわ!」


 医師の先生がアレス先生に注目している間にお暇させていただくとしよう。

 根掘り葉掘り聞かれても面倒だしな。


 俺は、アレス先生に『シー』ジェスチャーで、黙っておいて欲しいことを伝える。アレス先生が親指を立てたところを確認して、医務室を後にした。


 カースの件は、アレス先生を治癒した俺しか証拠を持っていない。

 その証拠も、誰かと共有できるような性質のものではない。あくまで、俺が一致していると感じたというだけのことだからだ。


 おそらく告発してもどうにもならない。

 幸いなのか、アレス先生は犯人に気づいていない。今後、卒業までになんらかの形でカースにお仕置きをするとしよう。それでチャラだ。

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