第16話:癒しの勇者、特別奨学金をもらう
次の日も昨日と同じ流れでレミリアとミーナを連れて村の外に連れて魔法を教え、実戦で魔物を倒させた。
レミリアは【攻撃力上昇】に加えて、【攻撃速度上昇】が使えるようになった。
ミーナは自由に弓を操って爆散させる弓魔法——【主導型爆散】に加えて、自動で敵を追尾して着弾点で爆散する弓魔法——【追尾型爆散】が使えるようになった。
まだ成功率100%ではないが、対抗戦当日までにはちゃんと使えるようになっているだろう。
二人は勉強熱心だし、何よりセンスが良い。しかも真面目だ。
教えたことをスポンジのように吸収してくれる。
なんの心配もない。
二日目も魔物の買取を依頼したところ、二人が倒した魔物の数が増えたこともあって金貨600枚ほどになった。
報酬は、均等に三分割している。
魔物の倒し方を教えたのは俺だが、実際に魔物を倒したのはレミリアとミーナ自身だからと、受け取りを拒否する二人を納得させるのに苦労した。
——ところで、今日は月曜日。
いつものように学院に向かったのだが、担任のアレス先生に呼び止められ、学院長室に向かうよう指示された。
前回は対抗戦に参加してくれないか? という話だったが、今回はなんなんだろうな。
まったく思い当たる節がない。
もしかして今になって卒業が取消しになったのか……?
一抹の不安を覚えて学院長室をノックする。
コンコンコン。
「カイト君か! 入ってくれ」
「失礼します」
中に入ると、学院長が書類と封筒を片手に手招きしてくる。
表情からはどういった事情で呼び出されたのか読み取れない。
「うむ、座ってくれ。早速なんだが——カイト君、なぜ呼ばれたのかわかっているね?」
間髪入れずに学院長が尋ねてきた。
表情は真剣そのもの。
「ああ……アレですか」
「そうだ。キミはやってくれたね……こんなの前代未聞だよ」
「わかりました甘んじて受け入れ——」
「本当は表彰しないといけないんだが、もう時間がないのを許してほしい」
「……え?」
てっきり卒業取消か、何かやらかしていて除籍になるかだと思ったのだが、どうも雲行きがおかしい。
「ギルドからうちの生徒が魔物の素材を売りにきたと聞いてな。第3中等魔法学院生で魔物を倒したのは開学以来初なのだよ。君は天才だ」
「はあ」
何事かと思えば、そんなことだったか。
「魔物を倒したのは俺だけじゃなくレミリアとミーナもですが」
「それも承知しておる。あとで呼ぼうと思っておる」
俺もレミリアもミーナもその辺にあまり興味はないのだが、学院長は一人で盛り上がっていた。
「しかしさっきも言ったように、卒業間近じゃったからなあ、本当は全校生徒の前で表彰したかったんじゃが、できそうにない。すまんな」
最弱級の魔物を倒したくらいで表彰なんてとんでもない。恥ずかしすぎる。
この時期で本当に良かった!
「しかし学院の規定でこれだけは出せる。受け取ってくれたまえ」
「……これは?」
学院長から渡されたのは、一つの白い袋。
中には何か重いものが入っている。
手で触った感じでは、丸い金属製の何かだ。
ちなみにそこそこ重い。
「開けてみたまえ」
「では……失礼します」
封を切って、中身を取り出す。
金属が擦れあうような音が鳴って、10枚の金貨が出てきた。
「金貨……!?」
「うむ、魔物を倒したものには、表彰と金貨10枚の奨学金を与えることとなっていてな。こんな規定を使われる日が来るとは思わなかったが……」
「しかし金貨10枚といえば大金のはずです……こんなにもらっていいんでしょうか」
週末にギルドに売った稼ぎで330枚ほどの金貨をもらったのだが、あれは素材の対価だ。
学院長に渡された金貨は何か価値提供したわけではない。
「卒業生は進学するなり、いきなり冒険者になるなり、なんらかの進路に就く。何をするにしても資本は必要だろう。財源には限りがあるから全員に渡すわけにはいかんが、優秀な生徒だけでも支援していくべきだと考えておる。遠慮せずに受け取ってくれ」
「……わかりました。大切に使わせていただきます」
俺は金貨10枚を封筒にしまって、頭を下げた。
話は本当にこれだけだったようで、学院長室を後にした。
レミリアとミーナの二人にも、この後渡すのだという。
この三日で金貨340枚の稼ぎ。
村の周りにいる最弱級の魔物を倒しただけなのに、このペースで1年続ければ金貨4万枚以上になる。
とんでもない時代になったな……。