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第15話:癒しの勇者、懲らしめる

 ギルドへ素材の引渡しが終わったので、もとの場所に戻ってきた。

 夕方になったからか、酒場の方が盛り上がっていた。


 一人のおっさん冒険者が大声で騒いでいる。


「ふはははははっ! 俺は強い! 強い冒険者は何をやっても許される! でゅふふっ!」


 よほど酔っ払っているのか、周りにいた女冒険者に手を回していた。

 時代は変わっても人間は進化しないものなんだな。


「や、やめてください……」


 嫌がる女冒険者。

 だが、こんなのは日常のことらしく、


「またやってる……」


「でもしょうがないよ」


「あの子には気の毒だが、これで大人しくしてくれれば……」


 おっさんの手は弱まるどころか、さらにエスカレートする。


「本当は嬉しいんだろ! 分かってるんだからな! 最強の俺に可愛がってもらってるんだからな!」


 やれやれ、これ以上は黙ってられんな。

 レミリアとミーナにとっても気分が良いものじゃないだろう。


「嫌がらせがそんなに楽しいか?」


 おっさん冒険者の手を払い除けてから、前に座った。


「あ”?」


「ふむ、頭だけじゃなく耳まで悪いようだな。もう一度言おう。嫌がらせがそんなに楽しいか?」


「誰だてめえ! 俺が誰だか知って言ってんのか!」


「カイト・アルノエル。もうすぐ中等魔法学院を卒業する。お前のことは知らん。今日初めて見た」


「貴様ァ……俺を舐め腐りやがって……!」


 聞かれたから自己紹介をしただけなのに、怒らせてしまったらしい。

 顔を真っ赤にして威嚇してくる。


「お、おいまずいよ……」


「これはまた酒場が壊れるんじゃ……」


「あの小僧余計なことしやがって……」


 そこかしこからこんな声が聞こえてくる。


「この村最強のBランク冒険者であるこの俺を怒らせたテメェは無事で帰さん。ぶっ殺してやる!」


「なんの罪もない俺を殺せばブタ箱行きだが、それはいいのか?」


「知ったこっちゃねえ! この村には俺が必要だからな、上手く仲間が手を回せば無罪放免で釈放よ……へっ、そんなことできねえって顔してるな? そこの若いのに聞いてみろよ」


 自慢げに語り出すおっさん冒険者。

 あまりにも興味がないので危うく寝落ちしそうになっていたところだ。


「で、言いたいことはそれだけか?」


 プチン。

 何かが、切れたような気がした。

 おっさん冒険者の青筋がピクッと盛り上がった。


「もう謝っても許してやらねえっ! 心の広いこの俺がチャンスを与えてやったと言うのにこのガキは……! 死でもって贖え!」


 ガタンっと椅子から立ち上がり、おっさんは剣を抜いた。


「や、やべえ……これはもうダメだ!」


「今のうちに逃げろ! 巻き添えを喰らう前にな!」


「おい小僧! 成仏しろよ!」


 ガタガタと猛烈な勢いで、周りの冒険者が逃げていく。

 さっきの受付嬢も奥に逃げた。

 この場に残っているのは、ブチ切れたおっさん冒険者と、俺、レミリア、ミーナ、そして——


「あ、あの……本当にごめんなさい……私のせいで……」


 セクハラ被害にあっていた当事者の女性。


「気にするな。それよりお前も逃げなくていいのか?」


「い、いえ……関係のない人を巻き込んで自分だけ逃げるなんて……」


 邪魔だから逃げてほしいのだが、言っても伝わらないだろうな。


「そうか。じゃあせめて俺の仲間のところで見ているといい。すぐに終わる」


 レミリアとミーナが立っている方を見る。


「……わかりました」


 一瞬迷ったようだが、女はすぐにそこへ避難した。


「正義の味方気取りか? 青臭いガキが生意気なことをしやがって。目にモノ見せてやる!」


「ふむ、どんなものか見せてもらおうか」


 剣を握る相手に、俺は丸腰。

 そういえば、自分用の剣を作るのを忘れていたな。明日にでも用意しよう。


「うおおおオオオオォォォォッ!」


 勢いよく剣を振り回すおっさん冒険者。


「な、なぜ俺の剣を避けられる!?」


 おっさんの剣筋を目視してから避けているだけだ。

 剣筋を予測するまでもなく、後出しで対応できている。これで村最強とはホラ吹きもいいところだな。


「酔っ払いの剣ごときが俺にカスリでもすると思ったか?」


「そんなバカな! こ、この俺の剣が!」


 質の低いチャンバラに付き合うのはもう飽きた。


「これでどうだ?」


 トンとおっさんの剣先を軽く叩く。

 すると——


 パキパキパキパキ……ゴトン。


 剣先にヒビが入っていき、そのまま地面に刀身が落下した。


「な、な、な、なあああああ!? 俺の自慢の名刀が!?」


「その自慢の名刀とやら、作りがお粗末すぎるぞ」


 ヒビを入れるだけのつもりが間違えて折ってしまったじゃないか。


「この村で一番高い剣だ……金貨300枚もしたんだぞ!?」


「金貨300枚の剣は俺の人差し指一本で折れるということだ。一つ勉強になって良かったな。……それで、まだやるのか?」


「あ、あ、あ、あ……命だけは助けてくれ……」


「安心しろ。お前の命なんて銅貨1枚にも満たないからな。まあ、それも俺の気分次第だが……」


 おっさん冒険者の背筋がブルッと震えて、青い顔になった。


「な、なんでもする! だから、今回だけは見逃してくれ! 頼む!」


「そうか、じゃあそこの女性に土下座してもらおうか」


「ど、土下座だとォ……なんでこの俺が……」


「指を何本折ると人は言うことを聞くのか。なかなか哲学的な問いだと思わないか?」


「わ、分かった! 謝る! 謝るから許してくれ! ほ、ほんっとうに申し訳ございませんでしたあッ!」


 おっさん冒険者はさっきまで上から目線でセクハラしていた女性に、額を擦り付けて謝罪の言葉を繰り返した。


 泣き出したところでギルドの床が汚れるからと追い出した。


「カイトさんってめちゃくちゃ強い冒険者だったんですね! 今回は本当にありがとうございました!」


「俺が気分悪くなったから勝手にやったことだし礼を言われるほどのことはしてないよ。それよりも、性根は直ってなさそうだがまた嫌がらせするんじゃないか?」


「いえ、彼は金貨300枚もする剣がなければただの普通の冒険者です。恐るるに足りません」


「そうか、ならいい」


 そう言って、俺は去ろうとする。

 レミリアとミーナも後に続いた。


「ま、待ってください。お礼がまだ……」


「べつにそういう目的で仲裁したんじゃないし、俺が勝手にやったことだから」


「でもそれでは私の気持ちが……」


「そうか、なら貸し一つってことでいいだろう。お前も冒険者を続けるならそのうちまた会うかもしれない。その時までに何か考えておいてくれ」


 ガチャン。


 言い残して、俺たちは冒険者ギルドを去った。

 今もらっても困るものしかないだろうが、貸しはいくつあってもいい。前世で得た教訓だ。


 あとで聞いた話だが、その後おっさん冒険者は今までに迷惑をかけた全員に謝罪したらしい。謝らないと俺に殺されると思ったとのこと。


 村から逃げるように出て行った後、盗賊になって衛兵に捕まり、ブタ箱にいるとのこと。

 余罪が掘り起こされて生きている間に堀から出られるかわからないって話だから、因果応報ってよくできた言葉だよな。



 ところで、結局【憎悪拡散】で魔物を集めた迷惑極まりない冒険者とは誰だったのか?

 分からずじまいだ。

皆様の応援に支えられて1章完結できました!

明日からは2章を投稿します!


投稿時間については未定ですが、ブックマーク+更新通知をオンにすることで見逃さずにすぐ読むことができます!


★読者の皆様へのお願い★

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作者自身は何度も読み返しており、自分以外の目からどう映っているのか非常に気になっております。


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