第13話:癒しの勇者、ギルドを尋ねる
◇
村に帰還してから、すぐにギルドに向かった。
素材の買取は村の冒険者ギルドが引き受けている。知識があれば他所で売った方が高く売れることもあるが、逆に大幅に買い叩かれることもない。
この時代の買取金額など中等魔法学院生でしかない俺は知らないので、素直にギルドで売ることにしたのだ。
ガチャ。
冒険者ギルドの扉を開けると、奥には依頼受注のための受付。左翼には冒険者向けの依頼書が掲示板にズラリ。右翼には酒場が設置されていた。
うん、二千年前と変わらないな。
冒険者ギルドは昔からこうだった。
謎の安心感を覚えながら、先導する。
二人はここに入るのは初めてだからか、少し緊張している。
無理もない。
強面のおっさん冒険者や、浮浪者のような老人、怪しい黒魔術師……などなど、その辺で見かけたらちょっと目を背けたくなるような奴が集まっているんだからな。
まともそうな冒険者もいるにはいるが、まともな冒険者は依頼を受けて冒険に出るので、すぐにいなくなる。
必然的に変な奴ばかりが集まってしまうということだ。
「買取をして欲しいんだが」
受付嬢に話しかける。
暇だったようで、すぐに取り合ってもらえた。
「買取ですね。ギルドカードはお持ちですか?」
「ない。ギルドに加入してないからな」
「はあ。では、身分を確認できるものを何かご提示ください」
明らかに怪しまれているように感じた。
ギルドへの加入は、中等魔法学院を卒業するか、18歳になってから入会試験に合格することが必須になる。
卒業見込みでも試験を受けられると学院で説明されたような気もするが、面倒だったので今回はギルドに加入しなかった。
加入してなくても魔物を倒してその素材を買取してもらうことに制限はなかったはずだが、そんなことする奴は少ないのかもしれないな。
「これでいいか? 学院証だが」
あらかじめ身分証がいることは分かっていたので、すぐに提示する。
レミリアとミーナも、続いてスッと提示した。
まあ、制服を来ているのだから見ればわかるのだが、形式上こうなっている。
「中等魔法学院の学生さんなんですね……珍しい。生きて帰られて良かったです」
「ん、そんなに危険なところがあるのか?」
「ええ、村周辺は魔物だらけですからね。最近かなり増えているみたいで」
ふむ、魔物だらけの場所が村周辺にあったのか。そんな場所があるんなら行ってみたかったな。
【周辺探知】で確認した限りではそんなところなかったんだが。
「レミリア、ミーナ。そんなところあったか?」
「うーん、なかったんじゃないかな」
「ミーナも見つけられなかった」
「だよな。運悪く周りに魔物が少ないところで冒険しちゃったみたいだな」
俺たちの会話に受付嬢が首を傾げる。
「運悪く……?」
「だって魔物が多い方が手間が減って楽だろ? 明日の参考になりそうだし、そういう場所があるなら教えて欲しいんだが」
「は、はあ。その、部分的というより全体的に魔物が増えているというか」
「そうなのか……? じゃあ今日はたまたま少なかったのか」
残念そうに呟く。
「あっ、そういえばさっき依頼を受けて冒険に出た冒険者が村の近くに魔物がいなくてすぐに戻ってきていましたね。朝は普通にいたみたいなんですが……」
「なるほど、一足遅かったわけだ」
「急に周りの魔物がどこかに走って逃げてしまったんだと。……不思議なことも起こるものですね。ギルドで働いて何年か経ちますけど、初めての経験です。平和になったのは良いのですが」
受付嬢から聞く限りでは、誰かが【憎悪拡散】のような魔法を使って魔物を集めたんだろうな。
誰だ? そんな迷惑なことをした奴は。
「もしかしてカイ……」
「もしかしなくてもカイ……」
「どうしたんだ? 二人ともそんな目で俺を見て」
何か言いたそうにしているレミリアとミーナ。
「もう今に始まったことじゃないし……アレを見たら犯人バレるわ」
「ミーナもそう思う……」
なんだ、迷惑なことをした犯人を知っているのか。
勿体ぶらずに教えてくれればいいのに。
「カイト、そんなことよりも素材を売らないと」
「あっ、そうだったな」
そう、こんな世間話をするためにギルドに来たんじゃない。
集めた魔物の素材をまとめて売りに来たのだ。
【空間収納】から、まずは一匹分の魔物を取り出す。
とりあえず一番数が多いスライムだ。
それを見た受付嬢は、
「え、え……ええええええええ!?」
なぜかわからないが、めちゃくちゃ驚いていた。
「な、なんですかその魔法は!? 何もないところからスライムが!?」
なんだ、そんなことか。
そういえばさっきレミリアとミーナも驚いていた。
「【空間収納】だけど?」
言いながら、ウルフとホワイトラビットも取り出して、受付台の上に置いた。
多分高くはないと思うが、いくらになるのだろうか。
あと2話投稿です