第10話:癒しの勇者、強化魔法を教える
先にレミリアに強化魔法を教えることになったが、共通することも多いので、ミーナにも軽く聞いてもらっている。
強化魔法とは、文字通り、対象を強化することができる魔法だ。
その種類は多岐に渡り、有名なものだと【攻撃力上昇】、【防御力上昇】、【攻撃速度上昇】などがある。
「対抗戦までに覚えておくべきなのは、【攻撃力上昇】と【攻撃速度上昇】だ」
短い期間で覚えられて、有用な強化魔法を厳選すれば、自然と攻撃系になる。
防御系や融合系も覚えられるなら覚えておいた方がいいが、すべて中途半端になると意味がない。
「【攻撃力上昇】……? 【攻撃速度上昇】……?」
「文字通りの意味だが……そうだな、ちょうどこの剣よりも強い刻印が30分だけ使えるってイメージだ。剣の刻印とは重複して使えるけどな」
さっきレミリアの剣に刻んだ刻印は、7種類。時間の制約がある分、数倍の上昇が見込める。
「なるほど……! さすがは古代魔法……」
「ま、無詠唱魔法を使えることが前提ってだけで普通の魔法だけどな。そんなに身構える必要はない」
「無詠唱魔法が前提って時点で普通じゃないわ……」
「ミーナも同感。カイトがおかしい」
詠唱魔法の方が普通の魔法じゃないのだが……まあいい、先に進むとしよう。
「まず、【攻撃力上昇】だが、術式を文字に起こすとこうなるんだが——さてどうだ?」
俺は、最初の部分の文字だけを、地面に書いていく。
0B000AEED7E7BABBF5F5408FBAAA917D4A23C7000CB00091428BEBEC001A99FFAC……
魔法は、単純に言えば魔力を流すタイミングと、流さないタイミングを見極める技術。数字で言えばすべてを0と1で表現できるのだが、これでは人間が読む分には冗長だし難解すぎる。
そこで16進数——0〜9までの数字とA〜Fまでの文字——を使って、最も基本的ないわゆる「ハローワールド」を投影する魔法を書いてみたのだが。
「何これ、文字だけど……文字じゃない……」
「暗号……?」
やっぱりわからないか。
この暗号みたいなものを人間の言葉で表せるようにしたM言語ってものもあるが、これは古代語なのでもっと分かりにくくなってしまう。
「これを知っておかないと改変ができないんだが、まあ、これはそのうち教科書でも作るとしよう。とりあえず強化魔法を使えるようになるだけなら別の方法もある」
レミリアの手を握る。
「ひゃんっ!」
「すまん、ちょっと冷たいかもしれない」
さっきは魔力の共有をしたが、今回は、魔力の供給だ。
俺の魔力に術式を乗せて送ることで、強制的にレミリアでも魔法を使うことができるようになる。
荒技だが、時間がないのでゆっくりしてはいられないのだ。
「調子はどうだ?」
「な、なんか【攻撃力上昇】が使えそう!」
「なら、俺にかけてみてくれ」
「分かった! えーと、こうね!」
レミリアが【攻撃力上昇】の強化魔法を展開し、発動する。
すると——
パリンッ!
ガラスが割れたかのように音とともに、魔法が消滅した。
「え!?」
何が起こったのか理解できないレミリア。
ま、想定内だな。
「これが魔法の失敗だ。術式は合ってるし、途中までは上手くいってた」
「じゃあどうして……」
「魔法を使うには、術式をもとに魔力を消費する。この魔法に応じた魔力の使い方が掴めてないってことだな。要するに練習不足だ」
方法が分かったとしても、最終的にその魔法が使えるようになるかどうかは、技量次第。
そのために魔法使いたちは日々練習を続けるのだ。
術式を頭に突っ込めばすぐにどんな魔法でも使えるようになるほど単純なものじゃない。
「詠唱魔法では魔力管理なんて考えたことなかっただろ? でも、これが本来の魔法だ」
「なるほど、魔力管理……それってどのくらいでできるようになるの?」
「それはセンスと練習量次第だ。見たところレミリアは筋が良いし、今日と明日きっちりやればそこそこ成功できるようになるだろうな」
「分かった、私頑張る!」
レミリアは、すぐに【攻撃力上昇】の練習を始めた。
対象をレミリア自身に設定し、ガンガン魔力を消費していく。
強化魔法は魔力の消費が激しいからな……。
ちょっと手助けしてやるか。
俺は、【魔力消費軽減】と【魔力回復速度上昇】、【魔法発動速度上昇】をレミリアに付与する。
「え!? なんか急に……もしかしてカイト!?」
魔力に対する感覚が少し鋭くなったレミリアは、すぐに付与魔法に気づいた。
「この方が練習効率が上がるからな」
「す、すごい……! ありがとう!」
さて、次はミーナに弓魔法を教えるとしよう。